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第1章
第21話:辺境伯の眼差し
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辺境伯ヨハンは、僕が何日もかけて丁寧に掃き清め、磨き上げたはずの書庫の床を、外の湿った泥がついたままの重厚な軍靴で無造作に踏み荒らしながら、一歩、また一歩と距離を詰めてきた。 彼は机の上に開かれたままになっていた古い医学書を、氷のように冷ややかな目で見下ろすと、耐えかねたように鼻で短く笑った。
「貴様が医学だと? 笑わせるな。他人の命を塵芥のように無慈悲に扱い、己の野欲のために国を傾けようとした稀代の悪党が、今さら聖人君子を気取って救済の真似事か。反吐が出るな」
「……あ、いや、僕は……」
必死に否定の言葉を紡ごうと唇を動かしたが、男が放つ圧倒的な威圧感に気圧され、喉が硬く引き攣ってしまう。そこからは、形にならない掠れた吐息が漏れ出すのが精一杯だった。
ヨハンの鋭い視線は、僕の細い首元――肌を直接焼くように冷たく、忌々しく光るあの「鉄の首輪」へと容赦なく落とされた。
「たかが命惜しさに神と薄汚い契約を交わし、魂の抜けた器にしがみついて生き長らえる。どこまでも浅ましく、救いようのない男だ。お前のその、何もかもを諦めたような卑屈な瞳を見ているだけで、腹の底から吐き気が突き上げてくる」
ヨハンにとって、僕という存在は憎むべき大罪人レリル、そのものでしかないのだ。 僕がどれだけ喉を枯らして「自分の中身は、お前が憎んでいる男とは別人なのだ」と叫びたかったとしても、この理不尽な世界において、僕の纏う外見も、僕が発する言葉も、すべては過去にレリルが犯したとされる大罪の記憶と分かちがたく結びついている。
彼は僕の細い腕を、まるで折らんばかりの力で乱暴に掴み上げると、抵抗を許さず無理やり立ち上がらせた。 元来の魔力を奪われ、日々の最低限の掃除と洗濯だけで体力を使い果たしている僕の身体は、秋の終わりの枯れ葉のように軽く、彼がわずかに腕を一振りしただけで、容易に宙へ浮いてしまいそうになる。
「さっさと来い。一ヶ月分の魔力を回収する儀式の準備は、すでに下の階で整っている」
掴まれたヨハンの無骨な掌から伝わってくるのは、想像していた凍えるような冷たさなどではなく、静かな激しい怒りに燃え盛るような、焦燥した熱だった。 彼は抵抗する術を持たない僕を引きずるようにして、部屋の片隅に不気味に設置された「魔力抽出装置」の方へと、一歩も立ち止まることなく向かっていく。
その緊迫した様子を、窓枠の縁に鋭い爪を立てて止まった鴉が、今にもその男へ飛びかからんばかりの鋭く険しい目で見つめていた。 僕は必死に視線だけで「動かないで、手を出してはいけない」と鴉に必死の訴えを送りながら、決して逃れることのできない、絶望的な運命の儀式へと、ただその身を委ねるしかなかった。
「貴様が医学だと? 笑わせるな。他人の命を塵芥のように無慈悲に扱い、己の野欲のために国を傾けようとした稀代の悪党が、今さら聖人君子を気取って救済の真似事か。反吐が出るな」
「……あ、いや、僕は……」
必死に否定の言葉を紡ごうと唇を動かしたが、男が放つ圧倒的な威圧感に気圧され、喉が硬く引き攣ってしまう。そこからは、形にならない掠れた吐息が漏れ出すのが精一杯だった。
ヨハンの鋭い視線は、僕の細い首元――肌を直接焼くように冷たく、忌々しく光るあの「鉄の首輪」へと容赦なく落とされた。
「たかが命惜しさに神と薄汚い契約を交わし、魂の抜けた器にしがみついて生き長らえる。どこまでも浅ましく、救いようのない男だ。お前のその、何もかもを諦めたような卑屈な瞳を見ているだけで、腹の底から吐き気が突き上げてくる」
ヨハンにとって、僕という存在は憎むべき大罪人レリル、そのものでしかないのだ。 僕がどれだけ喉を枯らして「自分の中身は、お前が憎んでいる男とは別人なのだ」と叫びたかったとしても、この理不尽な世界において、僕の纏う外見も、僕が発する言葉も、すべては過去にレリルが犯したとされる大罪の記憶と分かちがたく結びついている。
彼は僕の細い腕を、まるで折らんばかりの力で乱暴に掴み上げると、抵抗を許さず無理やり立ち上がらせた。 元来の魔力を奪われ、日々の最低限の掃除と洗濯だけで体力を使い果たしている僕の身体は、秋の終わりの枯れ葉のように軽く、彼がわずかに腕を一振りしただけで、容易に宙へ浮いてしまいそうになる。
「さっさと来い。一ヶ月分の魔力を回収する儀式の準備は、すでに下の階で整っている」
掴まれたヨハンの無骨な掌から伝わってくるのは、想像していた凍えるような冷たさなどではなく、静かな激しい怒りに燃え盛るような、焦燥した熱だった。 彼は抵抗する術を持たない僕を引きずるようにして、部屋の片隅に不気味に設置された「魔力抽出装置」の方へと、一歩も立ち止まることなく向かっていく。
その緊迫した様子を、窓枠の縁に鋭い爪を立てて止まった鴉が、今にもその男へ飛びかからんばかりの鋭く険しい目で見つめていた。 僕は必死に視線だけで「動かないで、手を出してはいけない」と鴉に必死の訴えを送りながら、決して逃れることのできない、絶望的な運命の儀式へと、ただその身を委ねるしかなかった。
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