虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第2章

第37話:二度目の魔力抽出

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 週に一度のヨハンの訪問にようやく慣れ始めていたけれど、壁に刻んだ印が「あの日」を示した瞬間、僕の心臓の鼓動は制御不能なほどに速くなった。 

 二度目の、魔力抽出の日。

  一ヶ月前、手首を無慈悲な縄で縛り上げられ、冷たい石床の上で虫のように悶絶したあの凄惨な記憶が、鮮明なフラッシュバックとなって僕を襲う。僕は無意識のうちに、服の上から自らの細い手首を、指が白くなるほど強く握りしめていた。

 塔の底で重い扉が開く音が響く。現れたヨハンは、一ヶ月前とはまるで別人のような、険しくも沈痛な表情を浮かべていた。 その手にはもう、僕を縛るための野蛮な縄などは握られていない。代わりに、何か耐えがたい苦痛を自身が受けているかのような、苦しげな色がその鋭い瞳に色濃く宿っている。

「……レリル。今日はあんな冷たい石台ではなく、そこのソファに座れ」

 低く、けれどどこか微かに震える声。僕は言われるがまま、彼が僕の健康管理のためにと運び込んでくれた、上質な革張りの柔らかなソファに力なく腰を下ろした。

「少しの……、いや、かなりの辛抱が必要になる。……申し訳ないが、耐えてくれ」

 その一言に、僕は一瞬呼吸をすることさえ忘れて固まった。 あの誇り高い北の獅子、辺境伯ヨハン・ストルムベルクが。罪人である僕に対し、魔力を搾取する側であるはずの彼が、あろうことか「申し訳ない」と、心からの謝罪を口にしたのだ。

「……はい。大丈夫ですよ、辺境伯様。慣れていますから」

 僕は自分自身に言い聞かせるように、そして目の前で苦悩する彼を少しでも安心させるように、精一杯の、震える指先を隠した柔らかな笑みを返した。

  ヨハンは一瞬、顔全体に深い皺を刻むほどに表情を歪め、耐えかねたように目を逸らした。それから、昨日までの世話焼きな手つきとは違う、慎重すぎて今にも壊れてしまいそうなものを扱うような手で、僕の首輪を丁寧に外し始めた。

 肌に直接触れるヨハンの指先が、僕の体温が吸い取られていくのを逆説的に証明するかのように、ひどく熱く、熱く感じられた。 彼の手の大きさに、その熱量にすべてを預け、僕はそっと瞼を閉じる。

 やがて、静寂を切り裂くように、あの聞き覚えのある重厚で威厳に満ちた詠唱が始まった。

「……ッ、ぐ……ぁ、ああぁああ……!!」

 魂そのものを巨大な鉤爪で直接掴み上げられ、生きたまま中身を無理やり引き剥がされるような、凄まじい激痛。一回目と同様、逃げ場のない魔力の奔流が血管を、神経を、骨の髄までを暴れ回る。内側から焼き尽くされるような熱さに、僕はソファの肘掛けを指が折れるほど強く掴んだ。

 バサバサという激しい羽音が頭上で響き、レイブンが僕の危機を察して守ろうと、すぐ近くまで舞い降りてくる気配がした。けれど、今回はあの時のような、あの子を切り裂く氷の破裂音は聞こえてこなかった。 ヨハンは、レイブンを……僕の唯一の友を、攻撃せずにいてくれたんだ。

(よかった……、レイブン、無事だ……ね……)

 その安堵が最期の引き金となったのか。 僕の意識は、ソファの柔らかな感触も、僕を支えようとするヨハンの手の温もりも、すべてを等しく失い、底なしの静かな暗闇へと真っ逆さまに転落していった。
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