復讐の鎖に繋がれた魔王は、光に囚われる。

篠雨

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第5章 魔王視点

第1話:勇者の傷痕

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セレが王城の任務から戻ってくる夜は、教会の空気も凍りつくように冷たかった。

彼は、他の魔物討伐を終え、血と、穢れた魔力の臭いを纏って帰ってくる。それは、勇者としての彼が、世界のために果たした功績の証であると同時に、彼が王城の道具として働かされた、苦痛の証でもあった。

俺は鎖に繋がれたまま、彼が戻るのを待っている。そして、彼が部屋に入ると、すぐに彼の傷を癒す準備をした。

「汚い。近寄るな」

セレはいつもそう言って、俺の優しさを拒絶する。彼は、自分が負った傷を、俺への復讐の燃料として保ちたいかのようだった。

「君の聖炎は、他者の傷を癒すこともできる。でも、君は自分の傷を癒さない。なぜだ、セレ」

俺は、鎖の届く範囲で、彼が脱ぎ捨てた汚れた外套を拾い上げた。

「それが、俺の復讐だ。お前が解いた鎖のせいで、俺がどれほど傷ついているか、お前は毎日、目の当たりにしろ」

セレの瞳は、いつも冷徹だ。しかし、彼の傷の手当てをする際、俺が彼の背中や腕に触れる瞬間、彼の身体は微かに強張る。それは、彼が俺を拒絶しているわけではなく、他人との接触に慣れていないことの証拠だった。

三年間、王城では誰も彼を優しく扱わなかった。彼の価値は、彼が放つ光の強度によってのみ測られてきた。

ある晩、彼は深い切り傷を負って帰ってきた。傷口は黒く染まり、魔物の毒が残っているようだった。

「これを治すには、俺の聖炎では時間がかかる。君の闇の力で、毒を吸い出せ」

セレは、自ら首輪の抑制を少し緩め、俺の闇の力が使えるように調整した。彼が俺の力を頼るのは、俺への依存を認めるようで、俺にとっては複雑な喜びだった。

俺は、彼の指示に従い、自分の闇の魔力を細く精製し、彼の傷口に慎重に近づけた。闇の魔力は、毒を吸い出すと、一瞬で蒸発した。

治療中、俺は彼の瞳を覗き込んだ。

「勇者として、君は英雄だ。でも、君は自分の価値を、誰も褒めてくれない力で測り続けている」

俺は、優しく問いかけた。

「君は、君自身のために生きるべきだ。僕を討伐するためでも、復讐のためでもなく」

俺の言葉に、セレは激しく反応した。

「ふざけるな。俺は、俺の人生を歪めたお前を許さない!お前は、俺に指図するな!」

彼は、俺の手を払いのけ、再び首輪の抑制を最大にした。俺の闇の力は完全に封じ込められ、俺は再び、ただの鎖に繋がれた囚人に戻った。

彼の感情が爆発するたびに、彼の瞳の金色の光は増し、そして、その光が彼の心を少しずつ侵食しているのが、俺には分かった。彼は、復讐という名の孤独な戦いに、身も心も捧げすぎていた。
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