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第2章:地脈の鳴動
第11話:朝から晩まで続く奉仕
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「……レオ様、時間です。起きてください」
エルヴィンの淡々とした声が、重い静寂を切り裂いた。
まだ夜明け前の午前五時。レオは糊の効いたシーツの中で、鉛のように重い体を引きずり出した。現代で引きこもり同然の生活を送っていたレオにとって、一ヶ月以上休みなしで続くこの「勇者スケジュール」は、もはや拷問に等しかった。
「……あと、五分。……いや、一時間だけでいいから、休ませて……」
「予定は既に決まっています。午前は南部の農地の再調整、午後はカスティエ王の命による新造庭園への魔力供給。夜は重臣たちの私邸における地脈の安定化です」
エルヴィンは、ベッドから這い出したレオを冷めた目で見下ろしていた。
レオは、ふらつく足取りで洗面台へ向かった。
レオが行う「最適化」自体に、セシルのような苦痛はない。
指先一つで地脈のバグを書き換え、効率的なフローを作り直す。それはレオにとって「正しいプログラムの修正」であり、やりがいのあった作業のはずだった。
だが、その「ボタンを押すだけの作業」を、朝から晩まで、来る日も来る日も強要されるのは別の話だ。
「さあ、行きましょう。民が待っています」
最初の目的地である農地に到着すると、レオはまた同じ光景を目にした。
「勇者様! 昨日の調整で実ったトマト、もっと大きくできませんか!」「こっちの畑もお願いだ! 勇者様なら、ただ触るだけで終わるだろ?」
彼らにとって、レオの力はタダで手に入る便利な道具だ。
レオは溜息を吐きながら、地面に触れる。
(最適化――実行)
一瞬で土地は潤う。だが、その瞬間の達成感はもうない。あるのは、作業が終わった直後にエルヴィンから告げられる「次へ行きましょう」という言葉への絶望だけだ。
カスティエ王の命で作られる、贅の限りを尽くした庭園。
重臣たちが自分のステータスのために要求する、私邸の微調整。
どれもレオにとっては「必要のない、無駄なリソース割き」に思えた。
現代のブラック企業でもここまで働かされない。ゲームならコントローラーを置いて電源を切れば済む。だが、ここでは「聖勇者」という役を下りることは許されない。
「……はぁ。……ねえ、エルヴィン。これ、僕がやる必要あるのかな。もっと他に、大事なことがあるんじゃ……」
「カスティエ王の命令です。そして民も、貴方の『正解』を求めている。……それこそが勇者様の役割でしょう」
エルヴィンの声には、一欠片の同情もなかった。
レオは、鏡を見るのが怖かった。かつて「いらない子」だった自分は、今や「便利に使われるだけの駒」に成り果てていた。
かつてセシルは、この一日のルーチンを、十二年間欠かさず、しかも苦痛を伴う術式でこなしていた。
レオは、ただの「奉仕活動」ですら吐き気がするほどの疲労を感じているのに、あの人はどうやって立っていたのか。
夜、豪華な夕食を前にして、レオの食欲は完全に消えていた。
ただ、横になって眠りたい。
だが、レオがどれだけ眠っても、明日の朝にはまたエルヴィンの「時間です」という声が待っている。
聖勇者という名の栄光は、今やレオを二十四時間拘束する、逃げ場のない「職場」へと変わっていた。
エルヴィンの淡々とした声が、重い静寂を切り裂いた。
まだ夜明け前の午前五時。レオは糊の効いたシーツの中で、鉛のように重い体を引きずり出した。現代で引きこもり同然の生活を送っていたレオにとって、一ヶ月以上休みなしで続くこの「勇者スケジュール」は、もはや拷問に等しかった。
「……あと、五分。……いや、一時間だけでいいから、休ませて……」
「予定は既に決まっています。午前は南部の農地の再調整、午後はカスティエ王の命による新造庭園への魔力供給。夜は重臣たちの私邸における地脈の安定化です」
エルヴィンは、ベッドから這い出したレオを冷めた目で見下ろしていた。
レオは、ふらつく足取りで洗面台へ向かった。
レオが行う「最適化」自体に、セシルのような苦痛はない。
指先一つで地脈のバグを書き換え、効率的なフローを作り直す。それはレオにとって「正しいプログラムの修正」であり、やりがいのあった作業のはずだった。
だが、その「ボタンを押すだけの作業」を、朝から晩まで、来る日も来る日も強要されるのは別の話だ。
「さあ、行きましょう。民が待っています」
最初の目的地である農地に到着すると、レオはまた同じ光景を目にした。
「勇者様! 昨日の調整で実ったトマト、もっと大きくできませんか!」「こっちの畑もお願いだ! 勇者様なら、ただ触るだけで終わるだろ?」
彼らにとって、レオの力はタダで手に入る便利な道具だ。
レオは溜息を吐きながら、地面に触れる。
(最適化――実行)
一瞬で土地は潤う。だが、その瞬間の達成感はもうない。あるのは、作業が終わった直後にエルヴィンから告げられる「次へ行きましょう」という言葉への絶望だけだ。
カスティエ王の命で作られる、贅の限りを尽くした庭園。
重臣たちが自分のステータスのために要求する、私邸の微調整。
どれもレオにとっては「必要のない、無駄なリソース割き」に思えた。
現代のブラック企業でもここまで働かされない。ゲームならコントローラーを置いて電源を切れば済む。だが、ここでは「聖勇者」という役を下りることは許されない。
「……はぁ。……ねえ、エルヴィン。これ、僕がやる必要あるのかな。もっと他に、大事なことがあるんじゃ……」
「カスティエ王の命令です。そして民も、貴方の『正解』を求めている。……それこそが勇者様の役割でしょう」
エルヴィンの声には、一欠片の同情もなかった。
レオは、鏡を見るのが怖かった。かつて「いらない子」だった自分は、今や「便利に使われるだけの駒」に成り果てていた。
かつてセシルは、この一日のルーチンを、十二年間欠かさず、しかも苦痛を伴う術式でこなしていた。
レオは、ただの「奉仕活動」ですら吐き気がするほどの疲労を感じているのに、あの人はどうやって立っていたのか。
夜、豪華な夕食を前にして、レオの食欲は完全に消えていた。
ただ、横になって眠りたい。
だが、レオがどれだけ眠っても、明日の朝にはまたエルヴィンの「時間です」という声が待っている。
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