12 / 31
第2章:地脈の鳴動
第12話:比較
「……なんだよ、この効率の悪さは」
レオは、王都外縁部の運河の前で、イラ立ちを隠さずに呟いた。
地脈の微調整を依頼されたが、この一帯は過去の強引な魔術の跡が複雑に絡み合い、レオの「最適化」でも、いつものように一瞬で全てを解決とはいかなかったのだ。
作業開始から一時間が経過した。レオの額にはじんわりと汗が滲み、現代人としての忍耐はとうに底を突いている。
その時、背後で作業を見守っていた民衆の間から、ボソリと小さな声が漏れた。
「……なぁ、前の王様……セシル様なら、もっと手際よくやってたんじゃないか?」
レオの指先が、ぴくりと止まった。
聞こえないふりをしたが、その呟きは波紋のように周囲に広がっていく。
「そういえば、セシル様はここを通りかかるたびに、一瞬で水の濁りを取ってくださったわ」
「勇者様は『簡単だ』って仰ってたけど……なんだか、セシル様の方が私たちの暮らしを分かっていたような気がするなぁ」
つい一ヶ月前、セシルを「嘘つきの独裁者」と罵り、石を投げたのは誰だったか。
レオは、耳の奥が熱くなるのを感じた。
「……セシルさんは、非効率なやり方で無理やり動かしてただけだよ」
レオは振り返らずに、努めて冷静な声を出す。
「僕は、もっと根本的なところを直してるんだ。時間がかかるのは当たり前だろ? 僕の方が、ずっと正しいんだから」
「でもさぁ、勇者様。理屈はいいから、早くしてくれよ。セシル様の時は、私たちが頼む前に、血を吐きながらでもすぐに魔法をかけてくれたんだ」
――血を吐きながら。
民衆にとって、セシルの献身は「当然受けるべきサービス」だった。そして今、彼らはレオの「クリーンな奇跡」に慣れきってしまい、少しでも思い通りにいかないと、かつての「便利な搾取対象」を懐かしみ始めたのだ。
「……っ、そんなにセシルさんがいいなら、あの日、追い出さなきゃよかったじゃないか!」
耐えきれず叫んだレオの声に、広場が静まり返った。
民衆は気まずそうに顔を見合わせ、やがて一人が不満げに吐き捨てた。
「そんなに怒らなくたっていいだろう……。私たちはただ、『勇者様ならもっと凄いことができるはずだ』って期待してるだけなのに」
勝手な期待。そして、それが満たされないと知るや否や始まる比較。
レオは、自分がどれだけこの国に尽くしても、彼らにとっては「セシルという便利な道具」の代わりでしかないことを突きつけられた。
かつて自分が「悪」と断じたセシルの十二年は、民衆にとっては「至れり尽くせりの介護」だったのだ。そして今の自分は、そのレベルに達していない「不甲斐ない後任」として、彼らの目に映っている。
傍らで控えていたエルヴィンが、感情の欠片もない声で告げた。
「レオ様、作業を続けてください。感情を優先させて、予定を遅らせるわけにはいきません」
「……わかってるよ!」
レオは八つ当たり気味に地面を叩いた。
称賛の雨は、いつの間にか、レオを苛立たせる冷たい毒雨へと変わっていた。
レオは、王都外縁部の運河の前で、イラ立ちを隠さずに呟いた。
地脈の微調整を依頼されたが、この一帯は過去の強引な魔術の跡が複雑に絡み合い、レオの「最適化」でも、いつものように一瞬で全てを解決とはいかなかったのだ。
作業開始から一時間が経過した。レオの額にはじんわりと汗が滲み、現代人としての忍耐はとうに底を突いている。
その時、背後で作業を見守っていた民衆の間から、ボソリと小さな声が漏れた。
「……なぁ、前の王様……セシル様なら、もっと手際よくやってたんじゃないか?」
レオの指先が、ぴくりと止まった。
聞こえないふりをしたが、その呟きは波紋のように周囲に広がっていく。
「そういえば、セシル様はここを通りかかるたびに、一瞬で水の濁りを取ってくださったわ」
「勇者様は『簡単だ』って仰ってたけど……なんだか、セシル様の方が私たちの暮らしを分かっていたような気がするなぁ」
つい一ヶ月前、セシルを「嘘つきの独裁者」と罵り、石を投げたのは誰だったか。
レオは、耳の奥が熱くなるのを感じた。
「……セシルさんは、非効率なやり方で無理やり動かしてただけだよ」
レオは振り返らずに、努めて冷静な声を出す。
「僕は、もっと根本的なところを直してるんだ。時間がかかるのは当たり前だろ? 僕の方が、ずっと正しいんだから」
「でもさぁ、勇者様。理屈はいいから、早くしてくれよ。セシル様の時は、私たちが頼む前に、血を吐きながらでもすぐに魔法をかけてくれたんだ」
――血を吐きながら。
民衆にとって、セシルの献身は「当然受けるべきサービス」だった。そして今、彼らはレオの「クリーンな奇跡」に慣れきってしまい、少しでも思い通りにいかないと、かつての「便利な搾取対象」を懐かしみ始めたのだ。
「……っ、そんなにセシルさんがいいなら、あの日、追い出さなきゃよかったじゃないか!」
耐えきれず叫んだレオの声に、広場が静まり返った。
民衆は気まずそうに顔を見合わせ、やがて一人が不満げに吐き捨てた。
「そんなに怒らなくたっていいだろう……。私たちはただ、『勇者様ならもっと凄いことができるはずだ』って期待してるだけなのに」
勝手な期待。そして、それが満たされないと知るや否や始まる比較。
レオは、自分がどれだけこの国に尽くしても、彼らにとっては「セシルという便利な道具」の代わりでしかないことを突きつけられた。
かつて自分が「悪」と断じたセシルの十二年は、民衆にとっては「至れり尽くせりの介護」だったのだ。そして今の自分は、そのレベルに達していない「不甲斐ない後任」として、彼らの目に映っている。
傍らで控えていたエルヴィンが、感情の欠片もない声で告げた。
「レオ様、作業を続けてください。感情を優先させて、予定を遅らせるわけにはいきません」
「……わかってるよ!」
レオは八つ当たり気味に地面を叩いた。
称賛の雨は、いつの間にか、レオを苛立たせる冷たい毒雨へと変わっていた。
あなたにおすすめの小説
忘れた名前の庭で
千葉琴音
BL
【凍てついた記憶を溶かすのは、不器用な守護者の体温】
「俺のことはルーカスでいい」
目覚めると、僕は自分の名前すら忘れていた。 唯一の肉親である兄・テオドールの死と同時に失われた記憶。無愛想な兄の友人ルーカスと共にゆっくりと兄の足跡を辿っていく。
厳格で甘いものが嫌いだった亡き兄・テオドール。彼が密かに弟のために植物図鑑を読み、内緒で菓子を買い与えていたという、口にされることのなかった真実。
ルーカスの語る「かつての自分」と、今の自分が少しずつ重なっていく中、アルノは因縁の魔獣の住む森へと足を踏み入れる。そこで彼が思い出したのは、独りで耐える術ではなく、誰かに抱きしめられて「息をする」方法だった。 孤独な少年と、彼を見守り続けた騎士。二人が雪解けの庭で見つける、新しい絆の物語。
『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―
なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。
――はずだった。
目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。
時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。
愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。
これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。
「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、
年上αの騎士と本物の愛を掴みます。
全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~
季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」
その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。
ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。
ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。
明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。
だから、今だけは、泣いてもいいかな。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。