偽りの聖者と泥の国

篠雨

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第3章:崩壊のその先

第21話:歪な誓い

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 王都を震わせていた絶叫は、やがて低い呻きへと変わっていった。

 エルヴィンの腕の中で、レオはようやく呼吸を整えた。地脈を通じた苦痛の共有が収まり、王都全体が、まるで深い傷を負った獣のように静まり返っている。

「……僕、怖かった。みんなが僕を否定して、石を投げて……。でも、エルヴィンだけは、僕のことを見ててくれたんだね」

 レオが弱々しく呟く。その肩を抱くエルヴィンの手には、力がこもった。

 エルヴィンにとって、これは自分自身への怒りでもあった。兄アルヴィスという完璧な手本がありながら、自分は目の前の少年が壊れかけていることに気づかず、職務という名の監視を続けてしまった。

「レオ様。先ほど、貴方の『声』が響いたとき、私は自分の至らなさを恥じました。……貴方は、一人で耐えていたのだと」

 エルヴィンはレオから少し体を離し、その場に跪いた。

 そして、レオの手をそっと取り、己の額に当てる。それは、騎士が主君に対して捧げる、最も重い忠誠の儀式だった。

「これからは、何があろうと絶対に私が貴方を護ります。誰が貴方を石で打とうとも、私がその盾になり、貴方を害する者すべてを切り伏せましょう。……これが、私の生涯をかけた誓いです」

 それは、不器用なエルヴィンがようやく見つけた「騎士としての進むべき道」だった。罪を共有した共犯者として、残りの人生をこの少年のために捧げるという、文字通りの自己犠牲。

 しかし、愛に飢え、誰かに「自分だけ」を見てほしいと切望していたレオにとって、その言葉の響きは全く別の意味に変換された。

(……生涯をかけた誓い。僕だけを、絶対に護るって……。それって……)

 レオの瞳が、熱を帯びたように潤む。

 異世界から放り出され、利用されるだけだった自分を、この人は「生涯」かけて愛してくれると言っているのだと、レオは疑いもしなかった。

「……うん。嬉しい。僕も……僕もエルヴィンがいい。エルヴィンがいてくれるなら、僕、どんなに辛くても頑張れるよ。二人で、この国を立て直そう。二人で、ずっと一緒にいようね」

 レオは跪くエルヴィンの首に腕を回し、幸せを噛みしめるように抱きついた。

 エルヴィンは一瞬、戸惑ったように体を固くした。

 自分は「騎士」として仕える誓いをしたつもりだったが、少年の抱擁には、主従を超えた「執着」が混じっていることに気づいたからだ。

 けれど、今はそれでいいと思った。

 自分のような不器用な男の言葉を、これほどまでに真っ直ぐ受け入れてくれた。その事実が、エルヴィンの空虚だった心をも満たしていた。

 二人は、互いの「勘違い」に気づかないまま、崩壊した王都の静寂の中で、固く、固く抱き合った。
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