偽りの聖者と泥の国

篠雨

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第2章:地脈の鳴動

第20話:不器用な救済

 王都中に、かつてない絶望の絶叫が響き渡っていた。

 地脈を通じ、民衆がセシルの12年分の苦痛を強制的に共有させられている。レオの「体感すればいい」という呪いのような願いが、地脈に聞き入れられてしまった結果だった。


 レオは自室の床で耳を塞ぎ、自分の不用意な「願い」が引き起こした凄惨な光景にパニックを起こしていた。
 
「体感すればいい」――その叫びが地脈に聞き入れられ、王都中にセシルが耐えてきた12年分の激痛が撒き散らされている。窓の外からは、かつてない絶望の絶叫が響き渡っていた。

 感情が制御できず、暴走する地脈のシステムを止めることができない。

 自分が「正解」だと思っていた力で、取り返しのつかないことをしてしまった。

(誰か……誰か助けて……!)

 そう思った瞬間、扉が乱暴に開け放たれた。

 レオはビクリと肩を揺らし、身を竦めた。叱責しに来たのだと思った。僕のせいで街がめちゃくちゃになったと、なじられ、罰を与えに来たのだと。

 だが、飛び込んできたエルヴィンの目に宿っていたのは、「心配」の二文字だけだった。

「レオ様! ご無事ですか!」

 驚いた。あまりに乱暴に入ってきたから、てっきり僕のせいだと怒鳴り込みに来たのだと思ったのに。

 エルヴィンは、最初はこの少年を恨んでいた。けれど、日に日に表情が暗くなり、追い詰められていくレオの姿に、かつてのセシルの最期を重ねていたのだ。無理やり異世界から連れてこられた17歳の少年に、この国の重臣や民は、そして自分は、あまりに酷な仕打ちをしていたのではないか。

「……ごめん、なさい……全部、僕の……っ」

「いいえ、貴方のせいではありません!」

 エルヴィンはレオを抱き寄せ、その震える体を力強く支えた。

 敬愛していた兄が、なぜ全てを捨て、エルヴィンすら捨ててセシルを追ったのか。今、目の前で壊れかけているレオを見て、彼はその理由が少しだけわかった気がした。

「……さっき、貴方の感情と思われるものが、私の脳内にも響いてきました。……辛そうな王様を必死に護っていた兄の姿を見てきたというのに……私は、貴方のことを護れず、追い詰めてしまった。申し訳ない……」

 レオは目を見開いた。自分を見つめるエルヴィンの視線が、いつの間にか変わっていたことには気づいていた。けれど、それが何を意味しているのかまでは分からなかった。

 元々感情が分かりにくい顔をしている上に、言葉選びが極端に不器用なのだ。

 以前「休憩」を勧めてきたのも、本心で心配していたのに嫌味にしか聞こえなかった。そんな彼の「本当の想い」に触れ、レオは泣きながらも、少しだけ笑ってしまった。

「……エルヴィン、君、すごく不器用なんだね」

「……笑わないでいただきたい。私は至って真剣です」

 レオの荒れ狂っていた感情は、エルヴィンの不格好な誠実さに触れて、ようやく静まり始めた。
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