偽りの聖者と泥の国

篠雨

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第3章:崩壊のその先

第22話:二人の決意

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 地脈の暴走による騒乱がようやく落ち着きを見せた夜、レオとエルヴィンは王宮のバルコニーにいた。

 下界を見下ろせば、暗闇の中に人々の嗚咽が低く漂っている。レオの「共有」によって罪の意識に打ちのめされた王都は、重苦しい静寂に包まれていた。

「……ねえ、エルヴィン。さっきの言葉、本当に信じていいんだよね。もう、僕を一人にしないって」

 レオがエルヴィンのマントの裾をぎゅっと掴む。

 エルヴィンは視線を落とし、迷いを見せることなく頷いた。

「ええ。私は……兄のようにはなれません。敬愛していた兄アルヴィスは、この国のすべてに愛され、そしてセシル様を守るためにすべてを捨てた。私には、彼のような鮮やかな生き方はできない」

 エルヴィンの口から、初めて「兄」への劣等感が言葉となって溢れ出した。

「私は不器用で、貴方の心を傷つけることしかできなかった。ですが、レオ様。……今の私は、兄が愛したセシル様以上に、貴方の力になりたい。貴方の盾になりたいと願っているのです。こんな出来損ないの私でも、貴方の隣に立つ資格があるでしょうか」

 その言葉は、レオの胸に深く刺さった。

 完璧な英雄じゃなくてもいい。自分と同じように悩み、傷ついてきたこの人だからこそ、信じられる。

「資格なんて、僕が決めるよ。……エルヴィンがいい。エルヴィンじゃなきゃダメなんだ」

 レオはエルヴィンの手を取り、自分の胸に当てた。

「僕、決めたよ。これからはもう、逃げたりしない。エルヴィンがいてくれるなら、僕はこの国を……セシルさんが守ろうとしたこの国を、今度こそ二人で本当の意味で救いたい。……一緒に、頑張ろう?」

 レオの瞳には、パニックに怯えていた子供の面影はなく、確かな「意志」が宿っていた。

 エルヴィンはその瞳に射抜かれ、熱い感情が胸を突き上げるのを感じた。

「……御意。貴方の行く道がどこであれ、私が地獄まで切り開きましょう。……この国を、私たちの手でもう一度」

 二人は夜風の中で、固く手を握り合った。

 レオは「愛」を確信し、エルヴィンは「騎士としての救済」を確信していた。

 形は違えど、二人の心は今、強固な一つの結び目となって結ばれたのだ。

 自分たちなら、このボロボロの国を立て直せる。

 そう信じて疑わなかった二人の耳に、その希望を打ち砕く絶望の知らせが届くのは、それからわずか数分後のことだった。
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