23 / 31
第3章:崩壊のその先
第23話:逃亡の王
「馬車の準備を急げ! 帝國との国境へ向かうぞ!」
カスティエ王は、レオを見捨てて北への逃亡を選択した。帝國ヴォルガルドであれば、レオの暴走から逃れられるだけでなく、聖王国の情報を手土産に亡命できると考えたのだ。
彼らはレオに「地脈の調整」という嘘の重責を押し付け、暗い夜の闇に紛れて、北の国境へと馬車を走らせた。
-----------------------------------------
「……逃げた、だと?」
エルヴィンの低い声が、深夜の回廊に冷たく響いた。
先ほどまでレオと未来を誓い合っていた温かな空気は、駆け込んできた伝令の震える報告によって、一瞬で凍りついた。
「は、はい! カスティエ公爵……いいえ、国王閣下は、レオ様の地脈暴走に恐れをなし、『あの化け物と一緒にいられるか!』と叫びながら、王宮の隠し倉庫にあった金塊と魔石をありったけ馬車に詰め込み……先ほど西の門から姿を消されました!」
レオは、握っていたエルヴィンの手が、微かに震えるのを感じた。
「……あの人は、僕を『聖勇者』って呼んだじゃないか。僕の力で、この国をもっと豊かにしろって……言ったのに」
レオの頭に、昨日の宴の光景がフラッシュバックする。脂ぎった顔で笑い、レオを称えていた重臣たち。カスティエはレオを救世主だと持ち上げ、その力を吸い尽くそうとしていた。
だが、その「道具」が思い通りにならず、自分たちに牙を剥く可能性があると知った途端、彼は国も民も、そして自分が祭り上げた勇者すらも捨てて、金だけを持って逃げ出したのだ。
「閣下だけではありません……。閣下に従っていた主要な大臣たちも、それぞれの私有財産をまとめて逃亡を始めています。王宮は……今や、もぬけの殻です」
エルヴィンは静かに、けれど折れそうなほど強く、腰の剣の柄を握りしめた。
「……セシル様を追放し、兄上を追い出し……この国の中枢に居座った結果がこれか。彼らにとって、この国は守るべき故郷ではなく、ただの食い潰すための果実に過ぎなかったということだ」
エルヴィンの瞳に、かつてないほどの激しい軽蔑と怒りが宿る。
不器用な彼が、不器用なりに愛そうとし、守ろうとした国の「頭脳」が、これほどまでに醜悪な形で崩壊した。
「レオ、顔を上げてください」
エルヴィンは、呆然と立ち尽くすレオの肩を抱き寄せた。その呼び方は、もはや形式上の「レオ様」ではなく、一人の共犯者を呼ぶ、深く、重い響きになっていた。
「王は逃げた。重臣もいない。……ですが、私たちが手を取り合ったことに変わりはありません。あの臆病者たちが捨てたこの瓦礫の山を、私たちが拾い上げればいいだけの話です」
「……エルヴィン。……うん、そうだね。僕たちが、やるしかないんだよね」
レオは震える声で答えた。
カスティエへの失望よりも、この状況で自分を離さないエルヴィンの存在が、レオを狂おしいほどに安心させていた。
しかし、運命は彼らに「国を立て直す時間」など一刻も与えはしなかった。
王宮の鐘が、今度は火急の事態を知らせる乱打となって鳴り響く。
「北の国境守備隊より緊急報告! ――帝國ヴォルガルドの主力軍が、国境を越え侵攻を開始しました!!」
カスティエの逃亡を知っていたかのような、あまりに完璧なタイミング。
弱りきった果実を狩りに来る、強欲な隣国の爪が、今まさに王都へと向けられた。
カスティエ王は、レオを見捨てて北への逃亡を選択した。帝國ヴォルガルドであれば、レオの暴走から逃れられるだけでなく、聖王国の情報を手土産に亡命できると考えたのだ。
彼らはレオに「地脈の調整」という嘘の重責を押し付け、暗い夜の闇に紛れて、北の国境へと馬車を走らせた。
-----------------------------------------
「……逃げた、だと?」
エルヴィンの低い声が、深夜の回廊に冷たく響いた。
先ほどまでレオと未来を誓い合っていた温かな空気は、駆け込んできた伝令の震える報告によって、一瞬で凍りついた。
「は、はい! カスティエ公爵……いいえ、国王閣下は、レオ様の地脈暴走に恐れをなし、『あの化け物と一緒にいられるか!』と叫びながら、王宮の隠し倉庫にあった金塊と魔石をありったけ馬車に詰め込み……先ほど西の門から姿を消されました!」
レオは、握っていたエルヴィンの手が、微かに震えるのを感じた。
「……あの人は、僕を『聖勇者』って呼んだじゃないか。僕の力で、この国をもっと豊かにしろって……言ったのに」
レオの頭に、昨日の宴の光景がフラッシュバックする。脂ぎった顔で笑い、レオを称えていた重臣たち。カスティエはレオを救世主だと持ち上げ、その力を吸い尽くそうとしていた。
だが、その「道具」が思い通りにならず、自分たちに牙を剥く可能性があると知った途端、彼は国も民も、そして自分が祭り上げた勇者すらも捨てて、金だけを持って逃げ出したのだ。
「閣下だけではありません……。閣下に従っていた主要な大臣たちも、それぞれの私有財産をまとめて逃亡を始めています。王宮は……今や、もぬけの殻です」
エルヴィンは静かに、けれど折れそうなほど強く、腰の剣の柄を握りしめた。
「……セシル様を追放し、兄上を追い出し……この国の中枢に居座った結果がこれか。彼らにとって、この国は守るべき故郷ではなく、ただの食い潰すための果実に過ぎなかったということだ」
エルヴィンの瞳に、かつてないほどの激しい軽蔑と怒りが宿る。
不器用な彼が、不器用なりに愛そうとし、守ろうとした国の「頭脳」が、これほどまでに醜悪な形で崩壊した。
「レオ、顔を上げてください」
エルヴィンは、呆然と立ち尽くすレオの肩を抱き寄せた。その呼び方は、もはや形式上の「レオ様」ではなく、一人の共犯者を呼ぶ、深く、重い響きになっていた。
「王は逃げた。重臣もいない。……ですが、私たちが手を取り合ったことに変わりはありません。あの臆病者たちが捨てたこの瓦礫の山を、私たちが拾い上げればいいだけの話です」
「……エルヴィン。……うん、そうだね。僕たちが、やるしかないんだよね」
レオは震える声で答えた。
カスティエへの失望よりも、この状況で自分を離さないエルヴィンの存在が、レオを狂おしいほどに安心させていた。
しかし、運命は彼らに「国を立て直す時間」など一刻も与えはしなかった。
王宮の鐘が、今度は火急の事態を知らせる乱打となって鳴り響く。
「北の国境守備隊より緊急報告! ――帝國ヴォルガルドの主力軍が、国境を越え侵攻を開始しました!!」
カスティエの逃亡を知っていたかのような、あまりに完璧なタイミング。
弱りきった果実を狩りに来る、強欲な隣国の爪が、今まさに王都へと向けられた。
あなたにおすすめの小説
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
俺以外を見るのは許さないから
朝飛
BL
赤池凌平は、成瀬真介と出会い、緩やかに親交を深めてやがて恋人同士になるのだったが、時折違和感を抱いていた。
その違和感の正体が明らかになる時には、もう何もかも手遅れになってしまい……。
(女性と付き合うシーンもあります。)
※ネオページ、エブリスタにも同時掲載中。マイペースに更新します。
【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。