偽りの聖者と泥の国

篠雨

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第3章:崩壊のその先

第26話:陥落する王都

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 王都の至る所で爆辞が轟き、燃え盛る建物の熱気が肌を焼く。

 エルヴィンはレオを左腕でしっかりと抱き抱え、右手の剣一本で押し寄せる帝國兵を斬り伏せていた。

「レオ、顔を上げないでください! 私にしっかりつかまっていてください!」

 エルヴィンの叫び声も、地鳴りのような咆哮に掻き消されそうになる。

 レオはエルヴィンの胸に顔を埋め、ただガタガタと震えていた。視界の端に入るのは、かつて美しい石畳だった場所を流れるどす黒い血と、枯死してボロボロと崩れる街路樹の残骸だけだ。

 帝國の魔導鉄甲騎兵が、二人を包囲するように距離を詰めてくる。

 聖王国の騎士団はすでに霧散し、戦場にはエルヴィン以外の味方は誰もいない。

「いたぞ! 聖勇者と、裏切り者の騎士だ! 逃がすな、生け捕りにすれば褒美は思いのままだぞ!」

 敵兵の卑しい笑い声が響く。

 エルヴィンの全身は、すでに数十箇所の傷を負い、その鎧は自分と敵の返り血で真っ赤に染まっていた。息は絶え絶えで、一歩踏み出すごとに重い喘鳴が漏れる。

(……兄上なら、もっと鮮やかにやったのだろうか。いや、兄上ならそもそも、国を見捨てて逃げることなどしなかっただろう)

 不意に脳裏をよぎった兄の背中を、エルヴィンは力ずくで振り払った。

 今の自分には、高潔な英雄の道など必要ない。自分を「勇者」ではなく「エルヴィン」として必要とした、この震える少年の命さえ繋げれば、それでいい。

「どけ……。貴様らの相手をしている時間はない……!」

 エルヴィンが咆哮し、捨て身の突撃を仕掛ける。

 魔導具による砲撃がエルヴィンの背後で炸裂し、その衝撃で二人は地面を転がった。

「っ、エルヴィン! 大丈夫!? エルヴィン!!」

 レオが叫びながら這い寄る。エルヴィンの脇腹からは大量の血が溢れ出し、その顔は死人のように蒼白だった。

 それでも、エルヴィンは震える手で剣を杖代わりに立ち上がった。

「……大丈夫です……。約束、しましたから……貴方を、護ると……」

 王都の北門が、すぐそこに見えていた。

 だが、そこを塞ぐように、帝國軍の本隊――漆黒の鎧に身を包んだ精鋭たちが、冷徹な陣形を組んで待ち構えていた。

 背後からは炎が迫り、前方には鉄の壁。

 逃避の果てに行き止まりへと追い詰められた二人に、無慈悲な矢の雨が降り注ごうとしていた。
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