偽りの聖者と泥の国

篠雨

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第3章:崩壊のその先

第27話:生ける盾

 降り注ぐ矢の雨を、エルヴィンはレオを覆うようにしてその背で受け止めた。

 北門の前、完全に包囲された二人を、帝國軍の精鋭たちが冷徹な眼差しで見下ろしている。

「……ここまでだ、聖王国の騎士。その少年を渡せば、貴様の命だけは助けてやらんでもない」

 帝國の将軍が、勝ち誇ったように告げる。エルヴィンは膝をつき、肩で荒い息をつきながらも、腕の中のレオを決して離さなかった。

「……断る。……だが、一つ提案がある」

 エルヴィンは震える手でレオを背後に隠し、血に濡れた顔を上げて帝國軍を睨み据えた。その瞳には、死を覚悟した者だけが持つ凄まじい光が宿っていた。

「この少年は、貴様らが知っての通り異世界からの転移者だ。……だが、ただの転移者ではない。今の聖王国の惨状を見ろ。彼が一度感情を爆発させれば、大地は枯れ、地脈は腐り、貴様らの帝國とて一晩で死の荒野に変わるだろう」

 エルヴィンのハッタリめいた「脅し」に、帝國兵たちの間に動揺が走る。現に、目の前の王都が異常な速度で枯死していく様を見せつけられた彼らにとって、それは現実味を帯びた恐怖だった。

「この少年に酷い扱いをしてみろ。その瞬間に、大陸すべての地脈を道連れに彼が自爆しないと、誰が保証できる?」

「……貴様、何を企んでいる」

「私はアドレアン王国の貴族、エルヴィン・ラインハルト。……すべての責任は、私にある。私は逃げも隠れもせず、敗軍の将として捕縛に応じよう。だから……この少年には手を出すな。丁重に扱え。彼を怒らせることだけは、貴様らの国のためにも避けるべきだ」

 エルヴィンは、レオを「手に負えない爆弾」として印象づけることで、彼に安全な居場所を確保しようとしたのだ。

「エルヴィン……何言ってるの……? やだ、一緒に逃げるって……!」

 レオが泣きながらマントを掴む。エルヴィンはそれをそっと振り払い、レオの頬を一度だけ撫でた。

「レオ。……貴方には、生きてほしいのです。……たとえ、私がいなくなっても」

「やだ! 嫌だよ!!」

「……行け」

 エルヴィンはレオを突き放すように兵士たちの方へ押し出すと、自ら剣を地面に捨て、両手を上げた。

 帝國兵たちが一斉にエルヴィンに取り押さえられ、彼を地面に組み伏せる。

「エルヴィン!! エルヴィーーーン!!」

 レオの絶叫が虚しく響く中、エルヴィンは拘束されながらも、レオをじっと見つめ続けていた。

 その目は「行け」と、そして「生きろ」と、不器用なほど真っ直ぐに訴えていた。
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