黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

アリーに相談ダ

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「にゃんにゃん!にゃんにゃーん!」
「ン゙ン゙ンニ゙ィ~……」

ライラに追われて不機嫌なイヴェットを他所に、デイビッドが領地の地図に色々書き込んでいると、ヴィオラが後ろから覗き込む。

「地図にするとこんな風になってるんですね。」
「ああ、ここがベルダの研究室予定地、こっちが居住区でこの辺りが全部畑だな。」
「私達のお家はどこに建てます?」
「お家!?」
「だって、デイビッド様の領地なら住む所が必要でしょ?」
「そういうのは…まだ…先で良いんじゃねぇかな…拠点と残った建物はあるわけだし…」
「でも、あと2年もしない内に婚約で、そしたらすぐ正婚ですよ?そろそろ考えないと!」
「わかった……考えとく………」

(迫る現実に押し潰されかけてる…)
明らかに顔色を悪くしたデイビッドを見て、エリックはいい気味だと思うと同時に、そろそろ本気で焦らなければならない時期が来た事を悟った。


夕刻に、ユェイから貰った真っ黒なソース“タマリ”を使って炊いた米を炒めてみると、塩などとは比べものにならない旨味が加わり、香ばしい匂いと程よい塩気の焼き飯が出来上がる。
厚切りにしたベーコンも後入れの卵とも調和して、いつもの焼き飯が一気に豪華になる。
スープにもほんのひと垂らしで、コクが出て味が決まった。

「おいしいです!」
「んまんま!」
「これいいですね!米によく合いますよ!」
「使い勝手はいいがラムダ料理には少し合わせにくいかな。でもこれは重宝するぞ。」

野菜にも肉にも合うのでまた料理の幅が広がりそうだ。


ライラが寝るとイヴェットは降りてきて何故かくっついて眠る。
ジュートの上は落ちる心配がないので手放しで寝かせておけるので安心だ。
なによりライラに危険が迫れば、周りに潜んでいる妖精達が騒ぐだろう。
エリックものんびりとカウチの上定位置で本を読んでいる。

部屋が落ち着くと、デイビッドは夜でも気にせず温室の方へ歩いて行った。
中へ入るとベルダは居らず、アリーがツリーハウスで遊んでいた。

「アリー、すまん今いいか?」
「デイビッド!寝ル時間ハ?」
「俺なら大丈夫。それより、少し聞きたいことがあるんだ。」
「イイゾ、ナンデモ聞ケ!」
「アルラウネを手懐けるにはどうしたらいい…?」
「浮気カ?」
「なんでだよ!!」
「アリージャナイアルラウネト、仲良クスルツモリカ?」
「そうじゃない!今度、別の研究所で飼われてるアルラウネから、花や枝葉をもらって来なきゃならないんだ。」
「飼ワレテルノ…?」
「残念ながら、結界の中でずっと眠らされてるらしい。」
「カワイソウ…」
「そんなアルラウネから素材を集める役目を受けちまったんだ。」
「イジメタラダメ!」
「ああ、わかってる。でも、長年ずっと攻撃を仕掛けて弱った所で素材を回収して眠らせてってのを繰り返してるらしいんだ。でも、なんとか傷つけずに接触したいんだよ。できたら説得して怖がらせないように素材を分けてもらえないか交渉したい。」
「無理ダナ!」
「即答か…」
「デイビッド怖ガッテル。不安ト恐怖ガアルウチハ、絶対ニ無理ダト思エ!」
「なるほどな…強がりも見せかけも通用しねぇってことか。」
「アリーノ仲間ハ人間ノ心ガ読メル。無二ナレ!頭ヲカラッポニシテ、余計ナコトヲ考エルナ!」
「以外と難しいな…」

そこへ騒ぎを聞きつけてリディアが現れた。

「我々魔草の仲間は感性が鋭く、僅かな怯えも敵意も見逃しません。アリーがデイビッド様に懐いたのも、全く警戒をせず、異形の存在に臆することなく連れて来られたからです。」
「逆に自殺行為だって怒られたけどな。」
「心を無に、しかし関心は相手に、できるなら手を差し伸べられると良いのですが…」 
「デイビッド、料理シテル時頭カラッポ。」
「それです!何か夢中になっていればいいのですよ!魔草の類は敵意と悪意にとても敏感ですが、相手が警戒もせずしかし何かしているとなれば、いきなり攻撃は仕掛けてきません。様子を見ようと近寄って来た時に、いつもの様になされば良いのです!」
「いつも…?」
「デイビッド、イツモ美味シイモノクレル。大丈夫ッテ言ッテクレル!」
「既に傷つけられることが前提で長く生きてきたアルラウネにそれが通用するかはわかりませんが、恐怖心を持たない事と、常に目を背けない事。この2つが守れればあるいは接触も不可能ではないかと…」
「でも話は通じねぇんだよな…」
「言葉など要りません。どんな言葉よりも大切なのは心です。」
「説得力が違う…」

そこから毎晩、デイビッドは温室の片隅でアリー相手に感情のコントロールするため、瞑想するのが日課になった。


次の日、領地経営科の生徒達は重い気持ちでデイビッドの授業に向かった。

「ハァ~~…また穴掘りさせられるのかなぁ…」
「私、力仕事もだけど、虫とか苦手で…」
「先生人使い荒すぎるよー!」

転移門を潜り、昨日と同じ場所で待っていると、今日は大荷物を背負ったデイビッドが、これまた荷馬車いっぱいに何かを積んだムスタを連れて現れた。

「よーし、昨日と同じ3班に別れろ。」

そう言ってデイビッドは、荷台から昨日とは違った農具を下ろしてきた。

「あ!これ魔導式の耕作機!」
「安全装置と風魔法のついた草刈り機!」
「魔導式の回転ノコギリ!」
「軽量魔法のついた掘削機もある!」
「最新式の魔道農具だよ。昨日の作業と比べてどんなもんか、身体で感じてみろ。」
「あっ!虫除けもある!!先生ありがとう!」
「は~これで手の豆とおさらばできる~!」
「そしたら各班、40分毎に休憩を取るように。」

昨日とは打って変わって生徒達はやる気も違い、競うように作業に当たっていた。
休憩の時間になると、涼しい木陰で冷えた果物入りのハーブ水や焼き菓子を摘み、足を伸ばして一息入れ、他の班と交代で体を休めた。
そして2時間後…

「うわぁ…昨日と全然進みが違う!」
「畑が半分も耕せてる!」
「居住区に生えてた雑木も根っこまで全部切れた!」
「水路も!後は底作って水源に通すだけだよ!?」
「どうだ?支援の有る無しで作業効率は大幅に変わる。実感できたろ?」
「「できました!!」」
「それじゃ、来週は別の体験をしてもらう。しばらくここに通うから、体力残しとけよ?」


解散した生徒達を見送ると、今日は郊外の商会の支部に寄り、久々義叔母と顔を合わせた。

「あらぁ!珍しい貴方がひとりでここへ来るなんて!」
「お会い出来て良かった…実は、先日親父から当主印を預かったんです。」
「まぁっ!!それってつまり…」
「いえ、継承はまだ先で、親父の俗世から切り離されたいと言う身勝手を押し付けられただけでなんですけど…」
「そう…貴方って本当に振り回されてばかりね。いいのよ?たまにはワガママを言ったって。」
「もう一生分言いましたよ。国から出て自由にやらせてもらいましたから。」
「貴方は…なんて言うか、デュロックらしくないのね。」
「そうですか?」
「ええ、今まで会ってきたデュロックの家系の人達は、皆どこかしら人の上にいる自覚を持っているの。人を使う側の人間の雰囲気っていうのかしら?堂々として、迷いが無いっていうか、自分のやる事に間違いがないという確固たる自信に満ち溢れてるのよ。貴方にはそれが無いのよね。」
「すみません…」
「いいえ、悪いことじゃないのよ?!貴方には隣にいて圧がないの。威圧感って言うか、気圧される感覚が微塵にも感じられないのよ。あのジェイムズからですらプレッシャーを感じるのに、まるで旧知の友人と話をしているような気安さがあるの。それは人と接する上でとても良いことだわ。」
「はぁ……」

デイビッドは、話を聞いてからひとつ特別な注文を頼み、にこにこ顔となったミセス・アプリコットと別れた。


生徒達の指導であちこち動き回ったせいで、身体は泥と草まみれ。
シャワーでも浴びて着替えようと研究室に戻ると、すかさずノックの音がして、開けるとドアの前に数名、見慣れない女性達が立っていた。

「失礼、デイビッド・デュロック辺境伯爵令息でいらっしゃいますね?」
「はい…そうですが?」
「私達は貴族院より参りました、婚約の実態調査員でございます。」

どうやらまた新たな面倒事がやって来た様だ。
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