黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
64 / 411
黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

生活改善

しおりを挟む
2人の様子を見た後、静養室から出たデイビッドはまずカインを呼び付けた。

「騎士科は男所帯とは言え、あまりにも改善点が多過ぎる!月明け、専門の指導者を呼ぶから、よーーーく話を聞くことだな。後は今後の飯の話だが…少し協力して欲しい。」

デイビッドは茶色い物体の詰まった瓶を取り出し、カインの前に置いた。

「これは?」

「今試作中の調味料だよ。さっきの粥にも入れてみたが、味はどうだった?」

「え?美味かったよ?薄味だったけど。」

「これは即席のスープの素みたいなもんなんだが、何に入れても下味になるから、多少の料理下手でも、それなりに美味いもんが作れると思うんだ。試行錯誤中で使用実績も欲しいから、騎士科で使ってみないか?」

「いいのか?!」

「あと、米の食い方もここで確立させれば、市場の在庫もうまく捌けないかと思ってる。商会の方に掛け合って、売れなかった分を持って来て貰うから、使い方を考えよう。後は肉と野菜だな。」

デイビッドは建物の脇に、日当たりの良い手頃な空き地を見つけると、地面にガリガリと線を描き、生徒達を呼んだ。

「よし!お前等、ここを耕せ!!」

「「ええ~~?!」」

「つべこべ言うな!体力作りと思ってしっかりやれぃ!!」

木剣を持っていた生徒達に、鍬とシャベルを持たせ、文句も言わせず手足を動かさせ、地面を耕していく。

「…なんだそのへっぴり腰は…情けねぇな!体幹もグズグズじゃねぇか!腰に力入れろ!素振りじゃねぇんだよ!」

土がほぐれたら、そこへトマトの欠き芽と、芋のツルと、発芽した豆のこぼれ種を植え、水をまく。

「肥料とか要らないのか?」

「いずれは入れるが、コイツ等はほとんど砂地でも育つ野菜だからな。まずは土を安定させるための選抜隊ってとこだよ。」

騎士科には、下級騎士や平民も多くいるため、農作業をしたことのある者もいるだろう。
新学期になれば、多少任せられるかも知れない。

そんなことを考えながら、水場で汚れを落としていると、後ろから鈴を転がすような声が聞こえてきた。

「デイビッド様!お疲れ様です。」

「ヴィオラ?!なんでここに?!」

「エリック様が、こちらにいらっしゃると…お邪魔でしたか…?」

途端、周りの目がわっとヴィオラに集中する。

「え?女の子?!」
「この子が先生の婚約者??」
「エエー?!かわいい!!」
「ねぇ、名前教えてよ!」

「お前等寄ってくんな!!」

「な…デイビッド…お前、まさか…本当に婚約者がいたのか…?しかも、こんなかわいい…」

カインが絶望的な目でデイビッドを凝視する。

「悪いかよ!?貴族家系には普通の事だろ!!」

「ただの噂だと思ってたのに…だって明らかに美女と野獣じゃねぇか!!」

「はっきり言ったなぁオイ!?」

「なぁ、本当に婚約者なのか?お前の勘違いとかじゃ…」

「勘違いで婚約者名乗ったら犯罪だろ!!」

「あ、あの!私ヴィオラと申します。デイビッド様のこ、こ、婚約者…です!」

ヴィオラは、デイビッドの隣に進み出て庇おうとしたものの、自分で口にした言葉に真っ赤になって俯いてしまう。

「……帰るぞヴィオラ!ここにいると危険だ!!」

「な、なんだよ!次は何したらいい!?もう少しいてくれよ!」

「明日また来てやる。俺だけな!!」

「デイビッド様、お仕事の途中だったのでは?」

「もう終わった!ここは危ない場所だから、二度と近づいたらダメだぞ?!」

ヴィオラを連れ、騒ぐ騎士科をさっさと後にして研究室に戻ると、今度は不機嫌なエリックとシェルリアーナが待っていた。

「遅いですわよ!もうお昼休み始まってますわ!!」

「お腹すきました~。早く何か作りましょ?!」

「しかたない…今日はピザでも焼くか!?」

作り置きの半発酵の生地を広げ、薄くなるまで伸ばし、好きな具材とチーズをたっぷり乗せたら、外の丸窯に入れていく。
今日は即席の野菜スープと、ピザで簡単な昼食となった。

「ナイフとフォークは…?」

「手でいけよ。」

「シェル先輩。ほら、こう持って食べるといいですよ?!」

育ちの良いシェルリアーナは、手づかみの食事など初めてで、困惑しながらピザと格闘している。

「熱いっ!ああ、チーズがこぼれて…どうしましょう、助けてヴィオラ!!」

「大丈夫ですよ、シェル先輩。こうして傾けて、そうそう上手です!」

「ふぅふぅ…熱いっ!けど、すごくおいしいですわ!」

「焼きたてのピザって最高ですよね!」

「私は初めて食べたわ…ヴィオラは何度も食べた事があるのね?!」

「私はローベル領の片田舎で育ちましたから、でもピザが広まったのはずいぶん後でした。」

(手伝いに行かされて、腹ごしらえに適当に作ってたら領民に大受けしたんだっけか…)
デイビッドはふと、そんな事を思い出した。
それが巡り巡ってヴィオラの口に入ったと考えると、少し嬉しい気持ちになる。

「シェル先輩は、所作も佇まいも、とてもおキレイで憧れます。」

「あら、憧れは叶えるものよ?!私で宜しければ、しっかり見て倣って精進なさい!」

「はいっ!」

「笑顔で返事しながらソーセージ丸かじりすんじゃないわよ!!はしたない!!誰よこんなの丸焼きにしたのは!?」

「あ、僕です!いいでしょ?丸ごとソーセージ!」

「こんなごんぶとソーセージ、レディに齧らせんじゃ無いわよ!チョン切って持ってこい!!」

「シェルリアーナ様…下ネタはちょっと…」

「何が下ネタよ!!ヴィオラも、顔中肉汁まみれになってんじゃない!あんた達は、アレを見て何とも思わないの?」

「やっぱり女の子はいいなぁって思います!!」

「ガッツリ下心!!」

「デイビッド様すごいです。こんな大きいのふた口で食べちゃうなんて!」
「ヴィオラ、顔に汁が飛んでるぞ?!」
「えへへ、恥ずかしい…」

気にせずモリモリ食べる2人を見て、シェルリアーナは何かに負けたような気持ちになった。

「くっ…これじゃまるで、私の心が汚れてしまってるみたいじゃない…」

「そうやって人は大人になるんですよ!大丈夫、シェルリアーナ様は正常です!」

「それ以上調子に乗ったら、チョン切りますわよ…?!」

「ひぇ…」
 
そこからエリックは大人しくなり、切り分けたソーセージを食べたシェルリアーナも満足気だった。
昼下がりの風を受けながら、賑やかな昼食も終わり、ベンチで足を伸ばしていると、デザートが運ばれてきた。
食後の冷えたフルーツが、熱のこもった体を優しく冷やしてくれる。

「はっ!めちゃくちゃ甘やかされてる?!」

「そうか?貴族なら普通なんだろう?」

「緊張も気疲れしないし、なんなら家より快適だわ!」

「シェルはヴィオラのついでだけどな…」

夏休みが終わったら、この生活が終わってしまう。
しかしこのままでは本当に、豚の悪魔に太らされてしまう…
シェルリアーナの葛藤は、この後ももうしばらく続くのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

国王一家は堅実です

satomi
恋愛
オスメーモ王国…そこは国王一家は麗しくいつも輝かんばかりのドレスなどを身につけている。 その実態は、国王一家は国民と共に畑を耕したり、国民(子供)に読み書きを教えたり庶民的な生活をしている。 国王には現在愛する妻と双子の男女の子に恵まれ、幸せに生活している。 外部に行くときは着飾るが、領地に戻れば庶民的で非常に無駄遣いをしない王族である。 国庫は大事に。何故か、厨房担当のワーグが王家の子どもたちからの支持を得ている。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

冷徹侯爵の契約妻ですが、ざまぁの準備はできています

鍛高譚
恋愛
政略結婚――それは逃れられぬ宿命。 伯爵令嬢ルシアーナは、冷徹と名高いクロウフォード侯爵ヴィクトルのもとへ“白い結婚”として嫁ぐことになる。 愛のない契約、形式だけの夫婦生活。 それで十分だと、彼女は思っていた。 しかし、侯爵家には裏社会〈黒狼〉との因縁という深い闇が潜んでいた。 襲撃、脅迫、謀略――次々と迫る危機の中で、 ルシアーナは自分がただの“飾り”で終わることを拒む。 「この結婚をわたしの“負け”で終わらせませんわ」 財務の才と冷静な洞察を武器に、彼女は黒狼との攻防に踏み込み、 やがて侯爵をも驚かせる一手を放つ。 契約から始まった関係は、いつしか互いの未来を揺るがすものへ――。 白い結婚の裏で繰り広げられる、 “ざまぁ”と逆転のラブストーリー、いま開幕。

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

逆ハーレムを完成させた男爵令嬢は死ぬまで皆に可愛がられる(※ただし本人が幸せかは不明である)

ラララキヲ
恋愛
 平民生まれだが父が男爵だったので母親が死んでから男爵家に迎え入れられたメロディーは、男爵令嬢として貴族の通う学園へと入学した。  そこでメロディーは第一王子とその側近候補の令息三人と出会う。4人には婚約者が居たが、4人全員がメロディーを可愛がってくれて、メロディーもそれを喜んだ。  メロディーは4人の男性を同時に愛した。そしてその4人の男性からも同じ様に愛された。  しかし相手には婚約者が居る。この関係は卒業までだと悲しむメロディーに男たちは寄り添い「大丈夫だ」と言ってくれる。  そして学園の卒業式。  第一王子たちは自分の婚約者に婚約破棄を突き付ける。  そしてメロディーは愛する4人の男たちに愛されて……── ※話全体通して『ざまぁ』の話です(笑) ※乙女ゲームの様な世界観ですが転生者はいません。 ※性行為を仄めかす表現があります(が、行為そのものの表現はありません) ※バイセクシャルが居るので醸(カモ)されるのも嫌な方は注意。  ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

悲恋小説のヒロインに転生した。やってらんない!

よもぎ
ファンタジー
悲恋ものネット小説のヒロインに転生したフランシーヌはやってらんねー!と原作を破壊することにした。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...