黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

夏の対策

夏休みも半分が過ぎた頃、デイビッドとエリックは教員の緊急招集を受け、久々に教員室へ向かった。

どうやら親善会で、酒を出すよう業者を買収していた貴族が分かったらしい。
遡ること5年前、ルルーシェ侯爵家の長男が、学園が親善会で毎回使っている人材の派遣組合いに、酒を持ち込んだのが始まりだったらしい。

給仕達に金を掴ませ、教師は飲まないだろうカラフルなカクテルに仕立てて、それを知っている仲間同士でこっそりと、飲酒とスリルを味わっていたようだ

それを次男が継ぎ、そして妹も…
今回停学になったのは1年生のマリアンナ・ルルーシェ侯爵令嬢。
エリックにやたら執着していた淑女科の生徒だ。
当主はこの一連の出来事には関与せず、何も知らなかったとして、娘の措置に口は出さなかった。
先に卒業して、難を逃れたと安心している兄2人には、侯爵から何かしらの罰を課してくれるらしい。

それから、アレクシスのその後だが、家を出され、魔獣討伐隊の端員として再出発したようだ。

(アイツこれから大変だろうな。)
アレクシスが放り込まれたのは、泣く子も黙るクロノス部隊。
国とデュロック家が合同で運営している、国内最強を誇る猛者の集まりだ。
アレクシスのようなやんちゃ者には、うってつけの更生施設だろう。
もちろんアレクシスの父親に掛け合い、子息の預かり先としてクロノスを推薦し、ぶち込んだのはデイビッドだ。
(ま、せいぜいがんばれ!)


そして報告がもうひとつ。
二学期に、中等部から飛び級で1年に編入してくる生徒が1人。

名前は、リリア・ランドール

(デイビッド様…目が据わってますよ…)
ただでさえ悪い人相が更に険しくなり、殺気が漏れている。
(あくまで生徒ですからね?!叩き潰そうなんて物騒な事、考えないで下さいね?!……返事して?!ねぇ!)


不機嫌な顔のまま廊下に出ると、朝の授業へ向かう一団とすれ違った。
最後尾を歩くヴィオラと目が合い、軽く挨拶を交わす。

「おはようございますデイビッド先生!」

「おはよう!今日もがんばれ!?」

たったそれだけで、顔が緩んで殺気が収納されてしまう。
(単純…)
(なんとでも言え!)


この日は二学期から使う実習用の畑の整備と、農具の確認のため、午前中はひたすら農作業。
日が高くなる頃、抜いた雑草を持って研究室へ戻ると、騎士科の方が何やら騒がしい。
気になって様子を見に行くと、生徒が2人倒れていた。
カインが介抱しているが、不安げな顔をしている。

「何があった?!」

「デイビッド!!訓練中、いきなり2人倒れたんだ。今シモンズ先生の所へ行こうと思って…」

「あの人は王宮に帰ってて今いない。吐いてるな…とりあえず、日陰に連れて行こう。」

倒れたのは1年生の2人で、顔色が悪く、呼吸が早い。

「おそらく…栄養失調だな。で、この気温と天気にやられて日射病を起こしたんだ。吐瀉物がほとんど水分だ。昨夜辺りから何も食ってなかったんだろう。」

「そうか…騎士科じゃよくあるんだ。長期の休み中は飯を疎かにしがちな生徒が多くて…特に下級騎士の家じゃ小遣いだってそんなに無いし…満足に食えない奴は珍しくない。」

「教員達はなんて?」

「根性が足りないと。昔は食えなくても気合で乗り越えたそうだ。」

「世も末だな?!そんな三流以下の考えで騎士を育てようなんざ無理な話だ!ちょっと待ってろ…」


デイビッドがいなくなると、しばらくしてエリックが大きなボトルに水を持ってやって来た。

「お待たせしました!これをゆっくり飲ませてあげて下さい。」

2人の口元にコップを傾けると、一口ずつ喉が動いて飲めているのがわかり、カインは少し安心した。

「おい…しい…です…」

「ただの水じゃないのか?」

「レモンにライムにハチミツ、ハーブが何種類かと、お塩がひとつまみ!体が弱っている時に飲むと元気が出る飲み物ですよ。具合悪い時、デイビッド様がいつも作ってくれるんですよ!?」

「様?…エリック先生ってデイビッドと、どんな関係なんですか?」

「ちょっとここでは言えない関係…ですかね?」

「息をするように嘘を付くな!!」

ニヤつくエリックの後ろから、大鍋を抱えたデイビッドが現れ、エリックを蹴倒した。

「気にするな。親父が俺に付けた、ただの監視役だ!」

「冗談なのに…」

「その冗談で今俺の人生が終わりかけたわ!」

「なんだその鍋?」

「何って、飯作るんだよ。炊事場はどっちだ?」

「あ…炊事場…って言うか…火を起こしてるトコなら…」

案内されたのは騎士科の端の部屋。
ところ狭しと物の置かれた部屋の片隅に、ホコリと油まみれの焜炉が置かれていた。

「コレ…か…?!」

「湯を沸かすくらいしか使わないし、誰も料理なんてしてないから…」

「ええい!残ってる奴集めて外に竈作れ!!野営の実戦と同じだろ!?急げ!!」

デイビッドはぶつくさ言いながら、竈ができるまでの間、野菜と肉を細切れにし、下味をつけていく。

「この白いのは麦か?」

「これは米だよ。帝国の輸入規制の緩和で入ってきたんだが、こっちじゃ食べ慣れてないと見えて、市場でやたら余っちまっててな。何か大量に消費できないか考えてたトコだ。」

「食ったこと無いなぁ…」

「今日は病人食にするから、多少味気なくなるだろうが、どんなもんか味を見ておいてくれ。今後お前達の飯になるかも知れないぞ?!」

「竈できました!」

「ご苦労!じゃ、そのへんから焚き木拾って来い!」

火を起こすと、鍋の中は次第にグツグツと煮えてきて、いい香りが立ち上る。

「うん!こんなもんかな。さっきの2人を起こしてやってくれ。」

ベッドのある部屋へ行くと、顔色の悪い2人が体を半分起こして待っていた。

「熱いから冷ましながらゆっくり食べろ。いきなり胃袋に詰め込むとまた吐くぞ?!」

「あちちっ!あ、でもおいしい!」

「火傷しないように、ゆっくりだぞ?!その一杯が食べ切れたら、さっきの香草水を飲んで後は良く寝る事だ。また明日、似たような飯を持ってくるから、少しずつ体に慣らしていくといい。」

「ありがとうございます、先生…」

「次は倒れる前に、誰かに相談できないか?」

「ごめんなさい…僕達、お金もあんまり無くて…貴族の家の生徒にくっついてる人達は、時々何か食べさせてもらえてるみたいですけど、それもできないから…」

「うーん…しっかし、騎士には騎士で衛生兵とか、役割は幾らでもあるはずなんだが、ちょっとこりゃ指導が必要だな…専門家に頼むか…」

「…デイビッド先生って、なんだがお母さんみたいですね。」

「誰がお母さんだ?!」

本人は心外な顔をするが、悪態をつきながらも、小まめに人の世話をする辺り、たぶん似た所はあるかと思われる。
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