黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

生活改善

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2人の様子を見た後、静養室から出たデイビッドはまずカインを呼び付けた。

「騎士科は男所帯とは言え、あまりにも改善点が多過ぎる!月明け、専門の指導者を呼ぶから、よーーーく話を聞くことだな。後は今後の飯の話だが…少し協力して欲しい。」

デイビッドは茶色い物体の詰まった瓶を取り出し、カインの前に置いた。

「これは?」

「今試作中の調味料だよ。さっきの粥にも入れてみたが、味はどうだった?」

「え?美味かったよ?薄味だったけど。」

「これは即席のスープの素みたいなもんなんだが、何に入れても下味になるから、多少の料理下手でも、それなりに美味いもんが作れると思うんだ。試行錯誤中で使用実績も欲しいから、騎士科で使ってみないか?」

「いいのか?!」

「あと、米の食い方もここで確立させれば、市場の在庫もうまく捌けないかと思ってる。商会の方に掛け合って、売れなかった分を持って来て貰うから、使い方を考えよう。後は肉と野菜だな。」

デイビッドは建物の脇に、日当たりの良い手頃な空き地を見つけると、地面にガリガリと線を描き、生徒達を呼んだ。

「よし!お前等、ここを耕せ!!」

「「ええ~~?!」」

「つべこべ言うな!体力作りと思ってしっかりやれぃ!!」

木剣を持っていた生徒達に、鍬とシャベルを持たせ、文句も言わせず手足を動かさせ、地面を耕していく。

「…なんだそのへっぴり腰は…情けねぇな!体幹もグズグズじゃねぇか!腰に力入れろ!素振りじゃねぇんだよ!」

土がほぐれたら、そこへトマトの欠き芽と、芋のツルと、発芽した豆のこぼれ種を植え、水をまく。

「肥料とか要らないのか?」

「いずれは入れるが、コイツ等はほとんど砂地でも育つ野菜だからな。まずは土を安定させるための選抜隊ってとこだよ。」

騎士科には、下級騎士や平民も多くいるため、農作業をしたことのある者もいるだろう。
新学期になれば、多少任せられるかも知れない。

そんなことを考えながら、水場で汚れを落としていると、後ろから鈴を転がすような声が聞こえてきた。

「デイビッド様!お疲れ様です。」

「ヴィオラ?!なんでここに?!」

「エリック様が、こちらにいらっしゃると…お邪魔でしたか…?」

途端、周りの目がわっとヴィオラに集中する。

「え?女の子?!」
「この子が先生の婚約者??」
「エエー?!かわいい!!」
「ねぇ、名前教えてよ!」

「お前等寄ってくんな!!」

「な…デイビッド…お前、まさか…本当に婚約者がいたのか…?しかも、こんなかわいい…」

カインが絶望的な目でデイビッドを凝視する。

「悪いかよ!?貴族家系には普通の事だろ!!」

「ただの噂だと思ってたのに…だって明らかに美女と野獣じゃねぇか!!」

「はっきり言ったなぁオイ!?」

「なぁ、本当に婚約者なのか?お前の勘違いとかじゃ…」

「勘違いで婚約者名乗ったら犯罪だろ!!」

「あ、あの!私ヴィオラと申します。デイビッド様のこ、こ、婚約者…です!」

ヴィオラは、デイビッドの隣に進み出て庇おうとしたものの、自分で口にした言葉に真っ赤になって俯いてしまう。

「……帰るぞヴィオラ!ここにいると危険だ!!」

「な、なんだよ!次は何したらいい!?もう少しいてくれよ!」

「明日また来てやる。俺だけな!!」

「デイビッド様、お仕事の途中だったのでは?」

「もう終わった!ここは危ない場所だから、二度と近づいたらダメだぞ?!」

ヴィオラを連れ、騒ぐ騎士科をさっさと後にして研究室に戻ると、今度は不機嫌なエリックとシェルリアーナが待っていた。

「遅いですわよ!もうお昼休み始まってますわ!!」

「お腹すきました~。早く何か作りましょ?!」

「しかたない…今日はピザでも焼くか!?」

作り置きの半発酵の生地を広げ、薄くなるまで伸ばし、好きな具材とチーズをたっぷり乗せたら、外の丸窯に入れていく。
今日は即席の野菜スープと、ピザで簡単な昼食となった。

「ナイフとフォークは…?」

「手でいけよ。」

「シェル先輩。ほら、こう持って食べるといいですよ?!」

育ちの良いシェルリアーナは、手づかみの食事など初めてで、困惑しながらピザと格闘している。

「熱いっ!ああ、チーズがこぼれて…どうしましょう、助けてヴィオラ!!」

「大丈夫ですよ、シェル先輩。こうして傾けて、そうそう上手です!」

「ふぅふぅ…熱いっ!けど、すごくおいしいですわ!」

「焼きたてのピザって最高ですよね!」

「私は初めて食べたわ…ヴィオラは何度も食べた事があるのね?!」

「私はローベル領の片田舎で育ちましたから、でもピザが広まったのはずいぶん後でした。」

(手伝いに行かされて、腹ごしらえに適当に作ってたら領民に大受けしたんだっけか…)
デイビッドはふと、そんな事を思い出した。
それが巡り巡ってヴィオラの口に入ったと考えると、少し嬉しい気持ちになる。

「シェル先輩は、所作も佇まいも、とてもおキレイで憧れます。」

「あら、憧れは叶えるものよ?!私で宜しければ、しっかり見て倣って精進なさい!」

「はいっ!」

「笑顔で返事しながらソーセージ丸かじりすんじゃないわよ!!はしたない!!誰よこんなの丸焼きにしたのは!?」

「あ、僕です!いいでしょ?丸ごとソーセージ!」

「こんなごんぶとソーセージ、レディに齧らせんじゃ無いわよ!チョン切って持ってこい!!」

「シェルリアーナ様…下ネタはちょっと…」

「何が下ネタよ!!ヴィオラも、顔中肉汁まみれになってんじゃない!あんた達は、アレを見て何とも思わないの?」

「やっぱり女の子はいいなぁって思います!!」

「ガッツリ下心!!」

「デイビッド様すごいです。こんな大きいのふた口で食べちゃうなんて!」
「ヴィオラ、顔に汁が飛んでるぞ?!」
「えへへ、恥ずかしい…」

気にせずモリモリ食べる2人を見て、シェルリアーナは何かに負けたような気持ちになった。

「くっ…これじゃまるで、私の心が汚れてしまってるみたいじゃない…」

「そうやって人は大人になるんですよ!大丈夫、シェルリアーナ様は正常です!」

「それ以上調子に乗ったら、チョン切りますわよ…?!」

「ひぇ…」
 
そこからエリックは大人しくなり、切り分けたソーセージを食べたシェルリアーナも満足気だった。
昼下がりの風を受けながら、賑やかな昼食も終わり、ベンチで足を伸ばしていると、デザートが運ばれてきた。
食後の冷えたフルーツが、熱のこもった体を優しく冷やしてくれる。

「はっ!めちゃくちゃ甘やかされてる?!」

「そうか?貴族なら普通なんだろう?」

「緊張も気疲れしないし、なんなら家より快適だわ!」

「シェルはヴィオラのついでだけどな…」

夏休みが終わったら、この生活が終わってしまう。
しかしこのままでは本当に、豚の悪魔に太らされてしまう…
シェルリアーナの葛藤は、この後ももうしばらく続くのだった。
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