黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
80 / 411
黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

開き直り

しおりを挟む
すっかり遅くなったデイビッドは、昼は簡単に大皿のグラタンとスープと残り物で作り、ヴィオラ(とシェルリアーナ)と他愛ない話をした。
そして昼休みが終わり、2人が授業へ戻って行くと、昼前の騒動を思い出し、デスクにうなだれた。

「アーハッハッハッハッ!!馬小屋半壊させて始末書って!?ウケるーー!!めっちゃ恩を仇で返されてる!!」
「うるせぇよ!!」
「まぁまぁいいじゃないですか、貴方は減給されたって痛くも痒くもないでしょ?」
「処分を受けた事自体が問題なんだよ!!」

午後も遅くになって帰って来たエリックは、始末書を横から覗き込み、大爆笑している。

「えー…なんか、すっごい書き慣れてません?始末書なんてそんなスラスラ書ける人あんまりいませんよ。経験豊富なんですね。」
「受け取る側のな!!?書かれたヤツ散々見たから書けるだけで!俺が書くのは初めてだよ!!」
「え!?意外!!」
「お前は少し黙ってろ!!」

無事始末書を提出すると、今度はファルコを引き取りに行く。
壊れた馬房にいた馬達は、一時別の厩舎に移したが、ファルコを見ると怯えてしまうようになったので、完全に切り離さないとストレスを与えてしまう。

半壊した屋根の下でのんびりしていたファルコを連れて行こうとすると、まだ残っていたムスタが髪を引っ張った。

「痛い痛い!!わかったよ!お前も連れてくよ!!」

大砂鳥もいることで、この際大きめの畜舎でも建てようか考えながら歩いていると、遠目から生徒達がこっちを見ているのに気がついた。
やはりヒポグリフは特に男子生徒からの人気が高い。

「良かったなお前、人気者じゃねぇか…イダダダダ!!ちょっ…待て!頭に羽を刺そうとするな!!そこには刺さらない!!むしろ刺さる!なぜ脳天?!そこは野生のヒポグリフでも無理だろ!!」

立派な尾羽根を引き抜いて、なぜかデイビッドの頭のてっぺんに刺そうとするファルコ。

「普通は羽毛とか!人間相手なら髪に刺すのは聞いたことあるけどよ!?なぜそこに刺したがる!!逆に本当に刺さってみろ!人間が頭のてっぺんから羽生やしてたらアホみてぇだろ!ここには刺さない!だ!め!だ!」

羽を取り上げ叱りつけると、シュンとして上目遣いにこっちを見上げて来る。
叱ると一応止めてはくれるので、そこそこ聞き分けはいい方のようだ。

「求愛行動にしちゃ乱暴過ぎないか?それじゃ相手に嫌われちまうぞ?…そもそも俺にするな!!」

ヒポグリフは、気に入った相手の羽毛に、自分の羽根や綺麗な他の鳥の羽根を拾って来て飾る習性がある。
若い個体のファルコは、仲間と離されて暮らしていたのか、本来は親兄弟や群れから教わるはずの行動が、いまいちうまいことできていない。
それを見て、しかたないとでも言うように、今度はムスタが手本を見せる。

「いっってぇ!!いきなり髪を引くなムスタ!!鞭打ちになるわ!!あーもーなんでこんな人の頭ばっかり狙って…イデデデ!真似するなファルコ!!それは違う!!尻尾じゃない!!離せ!!その先輩の言う事は聞くんじゃない!」
「…コントですか?」
「笑ってみろ、ぶっ飛ばすぞ?!」

エリックは改めて見るヒポグリフにやや引き気味だ。
研究室の前の庭先にムスタを繋ぎ、ファルコは一番太い木の根本に鎖を掛けて、更に縄も太い物に替えた。

「動物系は控えるとか言ってたクセに、1年立たずに動物園ですね?!」
「自前はムスタだけだろ?その内、そっちの空き地に畜舎を作らせてもらえないか申請してみる。それまで雨が振らないといいんだがなぁ…」

文句も言いながら、益々賑やかになる庭先が、悩みの種であると同時に、少しだけ嬉しく感じるデイビッドだった。


次の日の授業は領地経営科。
生徒達は、なかなか集中できなかった。

「先生…イメチェンですか…?」
「あー、こうしてないと馬に食われるから、しかたなくだ…」

今日のデイビッドは、長い髪をかんざしにグルグル巻き付けて、高い位置に括り付け、派手なヒポグリフの羽根を刺している。
デイビッドが自分の羽を身に着けているとわかると、ファルコも満足するのかイタズラがいくらか内場になる。

「先生…窓の外にいるのって…」
「俺の馬とヒポグリフだ。気にするな。」
「え、でも…めちゃくちゃこっち見てる…」
「かまって欲しいだけだ。気にしたら負けと思え!それじゃ前回の続きからーーー」

ファルコはデイビッドの声が聞こえる場所にいると、安心するのか静かだ。
日溜まりでムスタにじゃれながら、チラチラ教室の方を見ているが、もう音を立てたり鳴いたりはしない。

ファルコが落ち着くまで、デイビッドは自分の授業に2頭を毎度連れて行くことにした。
これなら監視もできて、ファルコもムスタも大人しい。
簡易の柵も付けて、生徒とも距離を設け、これで文句は無いだろうと開き直って学園内を堂々と連れ回すようになった。

おかげで、ファルコの人気はどんどん高くなる。

「デイビッド様…頭エライことになってますよ?」

ファルコは気に入った物をなんでもデイビッドの頭に刺すので、カラスの羽や木の枝や、落ちていた紐や紙切れなど、好き放題くっつけられて、とんでもないことになっている。
エリックが遠巻きにそれを見て、怪訝な顔をする。

「…毟られるよりマシだろ…」
「虫の羽根まで突っ込まれてますよ…髪、ちゃんとよく洗って下さいね?!」

ゴミを払って髪を解くと、ヒポグリフの羽が落ちる。
髪を結い直し、羽根を拾おうとすると、丁度研究室のドアが開いた。

「デイビッド様!今日の髪型とっても素敵でした!!」
「ヴィオラ…アレをステキと言われても、ちょっと嬉しくはならないなぁ…」

羽根を拾い、立ち上がるとシェルリアーナと目が合った。

「…ねぇ、貴方、その手に持ってるの…」
「あぁ、聞いてないか?保護したヒポグリフの…」
「欲しい!!」
「え?!」
「欲しい!欲しい!欲しい!!ちょーだい!!」
「シェルが幼児退行した!?」

常日頃、魔術式超過重ね掛けのベストやら、魔鉱石やら、アダマントやら、王宮の魔術師でさえ、早々お目に掛かれないようなお宝を見せびらかされて来たシェルリアーナは、デイビッドのことだから、ねだればもしかしたらくれるかもしれないヒポグリフの羽に、食いついて離れなかった。

「ちょーだい!ちょーだい!!」
「こんなんでいいのか…?変な奴。」

腕程ある大きな羽を渡すと、シェルリアーナの目がキラキラした。

「すごい…綺麗な尾羽根…古くなって抜けた羽じゃないのね!!」
「自分で引っこ抜いて、人にぶっ刺してきたヤツだからな。」
「これがあれば、魔法の錬成の精度が更に上がりますの!先生達が話してましたわ!うふふ。魔法棟で一番に手に入れたのは私ですわ!ありがとう!」
「やけに素直だな…雨でも降るのか…?」
「お礼にそのうっとうしい髪、私が引き千切って差し上げましょうか?!」
「やめてくれ!」

デイビッドはそれからしばらくの間、いきなり髪を引かれる恐怖から、無意識に髪をまとめ上げるのが癖になった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

国王一家は堅実です

satomi
恋愛
オスメーモ王国…そこは国王一家は麗しくいつも輝かんばかりのドレスなどを身につけている。 その実態は、国王一家は国民と共に畑を耕したり、国民(子供)に読み書きを教えたり庶民的な生活をしている。 国王には現在愛する妻と双子の男女の子に恵まれ、幸せに生活している。 外部に行くときは着飾るが、領地に戻れば庶民的で非常に無駄遣いをしない王族である。 国庫は大事に。何故か、厨房担当のワーグが王家の子どもたちからの支持を得ている。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

冷徹侯爵の契約妻ですが、ざまぁの準備はできています

鍛高譚
恋愛
政略結婚――それは逃れられぬ宿命。 伯爵令嬢ルシアーナは、冷徹と名高いクロウフォード侯爵ヴィクトルのもとへ“白い結婚”として嫁ぐことになる。 愛のない契約、形式だけの夫婦生活。 それで十分だと、彼女は思っていた。 しかし、侯爵家には裏社会〈黒狼〉との因縁という深い闇が潜んでいた。 襲撃、脅迫、謀略――次々と迫る危機の中で、 ルシアーナは自分がただの“飾り”で終わることを拒む。 「この結婚をわたしの“負け”で終わらせませんわ」 財務の才と冷静な洞察を武器に、彼女は黒狼との攻防に踏み込み、 やがて侯爵をも驚かせる一手を放つ。 契約から始まった関係は、いつしか互いの未来を揺るがすものへ――。 白い結婚の裏で繰り広げられる、 “ざまぁ”と逆転のラブストーリー、いま開幕。

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

逆ハーレムを完成させた男爵令嬢は死ぬまで皆に可愛がられる(※ただし本人が幸せかは不明である)

ラララキヲ
恋愛
 平民生まれだが父が男爵だったので母親が死んでから男爵家に迎え入れられたメロディーは、男爵令嬢として貴族の通う学園へと入学した。  そこでメロディーは第一王子とその側近候補の令息三人と出会う。4人には婚約者が居たが、4人全員がメロディーを可愛がってくれて、メロディーもそれを喜んだ。  メロディーは4人の男性を同時に愛した。そしてその4人の男性からも同じ様に愛された。  しかし相手には婚約者が居る。この関係は卒業までだと悲しむメロディーに男たちは寄り添い「大丈夫だ」と言ってくれる。  そして学園の卒業式。  第一王子たちは自分の婚約者に婚約破棄を突き付ける。  そしてメロディーは愛する4人の男たちに愛されて……── ※話全体通して『ざまぁ』の話です(笑) ※乙女ゲームの様な世界観ですが転生者はいません。 ※性行為を仄めかす表現があります(が、行為そのものの表現はありません) ※バイセクシャルが居るので醸(カモ)されるのも嫌な方は注意。  ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

悲恋小説のヒロインに転生した。やってらんない!

よもぎ
ファンタジー
悲恋ものネット小説のヒロインに転生したフランシーヌはやってらんねー!と原作を破壊することにした。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...