黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

精霊薬

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「なぁエリック、見えないものを見ようとするとしたら、どんな方法がある?」
「はぁ、望遠鏡でも担いでいけばいいんじゃないですか?」

久々にのんびり昼食の支度をしながら、デイビッドがエリックに尋ねると、どうでも良さげな返事が返ってきた。

「そういうんじゃなくて!ヒュリスの研究でベルダ先生から魔道具の眼鏡をずっと借りてたんだが…調べたら金貨2枚(約200万)はするらしくて、ちょっと借りづらくなってな。」
「それは確かに…」
「なんか他に方法ねぇかなぁーと思って、俺は魔道具も魔法薬は詳しくねぇからよ。」
「うーーん、だとすると目薬とかどうです?」

討伐や特殊な魔物の研究に魔力の有無や強弱が関わらないよう、世の中には視界に魔力を集めたり、魔力の膜を張って、姿の見えない魔物や植物を可視化させる薬が売られている。
飲用するものもあるが、一番てっとり早いのが目薬だ。
効果は一時的だが、ここぞという時に使われる。
ただし、粗悪品に当たると失明の恐れもあるため、きちんと処方された物が望ましい。

「俺が使った瞬間、幻覚に襲われそうな気がするが…?」
「ベスト着てれば平気じゃないですか?…あ、それだと効果ごと打ち消されそうですね…割とめんどくさいな…」

ぶつぶつ言いながら、エリックは自分のデスクの本棚から、1冊の本を出してきた。

「だったら、精霊薬を作りましょう!!」
「精霊薬?」
「精霊の力は魔力とは異なり、人間で言う所の奇跡に近い神秘の霊力!これなら魔力抵抗に関係なく、使用者に効果をもたらしてくれますよ!?」
「へぇ~そんなのがあるんだな?!」
「まぁ材料費で金貨飛びますけどね。」
「結局同じか…」
「そこなんですよ…今、デイビッド様は自分がどれほどの財宝に囲まれているか、自覚が無さすぎるんです!」

デイビッドの身近にあるお宝。

その1
ヒポグリフの羽。
グリフィンの羽の代用品。
代用とは言え大変貴重で、魔力伝導に優れ、魔道具や魔法薬の媒体となる。
精霊薬との相性も良好。
ファルコは、尾羽根が生えてくると、すぐ引っこ抜いてデイビッドに突き刺そうとするので、ピカピカの真新しい羽が、無造作にデスクの瓶に何本も挿してある。

その2
新種の薬草。
名前はまだ無い。
南方のポナン川の水辺に生えるため、極一部地域でポナ草と呼ばれている。
地元でもとても希少な薬草。
種から栽培に成功し、現在温室の池で雑草かと思われるほど繁殖している。
薬効はかなり高いとのこと。

その3
妖精の祝福。
妖精の好意的感情は、そのまま祝福と呼ばれる驚異的な力を他者に与えてくれる。
対象者周辺の魔力や能力、薬の効能、魔石の性質などを最上級まで引き上げる、超常現象の一種。
先日エリックが接触を試みた妖精ルーチェは、おっきいの(デイビッド)のことが好きなので、よく背中などにくっついていて、常時発動中。

その4
世界樹の果実 
世の魔法使い、魔導師、錬金術師…数多の魔法に携わる者達が追い求めて止まない、理の外れから次元を超えてもたらされる万能の果実。
現在デイビッドのデスクの中にいくつも転がっている他、エリックとシェルリアーナが所有している。
一粒で大金貨20枚はする代物。(恐怖)


エリックは早速温室のベルダを訪ね、材料のひとつであるドライアドの花を分けてもらおうと、リディアを探した。

「リディア、お客様だよ?!大丈夫、魔法学棟の人じゃなくてエリック君だよ。」
「こんにちは!この前はツルを分けてくれてありがとう。今日は君の花の蜜が欲しくて…あれ?なんか増えてません??」
「聞いてないかな?!デイビッド君が連れてきたアルラウネのアリーだよ。」
「アルラウネ…ですか。すみません、ちょーっと出直しますねぇ…」

早足で研究室に戻り、呑気にミートパイの味見をしていたデイビッドの首根っこを捕まえて、そこから説教1時間…

「だからなんで毎度毎度毎度変なモン拾って来るんですかアンタは!!」
「変…ではなかっただろ…?」
「充分変ですよ!魔物なんか拾って来ないでしょう普通は!しかもアルラウネ!下手したら帰りの道中で絞め殺されてましたよ!!」
「弱ってたし…」
「内緒で猫拾って来るのと訳が違うんですよ?!アルラウネは第一級指定危険魔生物です!!過去には一個師団殲滅した記録も残ってんですよ?!わかってます??」
「ドライアドの仲間かと思ったんだよ…」
「ドライアドだって野生は人襲いますからね?!苗床にされてぐっちゃぐちゃになった動物も見たことあるでしょ?!なんでこんなに危機感なく平然と生きてられるんですか?自分の身の周りほとんどミラクル事変で構成されてるって、いい加減気付け!!」
「でも結果的に良かったと思…」
「バッドエンドの可能性を考えろって言ってんの!!しかもまた報告もしないで!!こっちはヒュリスの内密事項だって一緒に背負ってんですよ?!なんで一言相談してくれないんですか??!」
「……から…」
「ええ??」
「怒られるから……」
「子供か!!!!!」

エリックは気を取り直し、今度はデイビッドも連れて材料をもらいに再度温室に向かった。

「先程は失礼しました~。改めて、リディアの花頂けますか?」
「やぁ、ちょうど良かった。デイビッド君、アリーがそわそわしてるから、ちょっと顔見てってあげてよ。」

デイビッドが手渡された眼鏡をしかたなく掛けると、リディアの後ろにアリーが隠れていた。

「アリー、どうした?いつもみたいに絡んでこないな?」
「エリック君が気になるんだろうね。」
「おーい。大丈夫だぞ?」
「君、今エリック君に若干苦手意識があるだろう?感情とは電気信号と同じでね。彼女達は僅かな変化に敏感なんだ。君の嫌うものを怖いものだと思ってるんだよ。」
「心外な!報告義務を果たさないから、すこーしお説教しただけですよ!」

リディアは太い枝にいくつかの花を咲かせると、摘み取ってエリックに手渡した。
エリックはそのお礼に、魔力で満たした水の玉を魔法で出してリディアに渡す。

「ああして毎回律儀にお返ししてくれるから、リディアはエリック君を殊の外気に入っていてね。植物相手と思って必要箇所だけ乱雑に切り取って行く魔法学棟の連中とは大違いだよ。」
「へえ~。お?アリーどうした?」

花を咲かせるリディアを見て、対抗意識を燃やしたアリーが、自分も魔力を練って花を咲かせようとしている。
やがて長いツルの先に、真っ白な蕾が生えてきた。
何枚も重なった花弁が開いていき、やがて仄かに光る妖艶な花が咲く。 
  
「ディー…」
「ああ、くれるのかー。でも頭に刺すのはやめてくれな??なんでどいつもこいつも人の頭のてっぺんに何かぶっ刺そうとすんだ?!枝が刺さる!刺さってる!!」

デイビッドの頭から花が咲くのを見て、アリーは満足したのか、リディアと水辺の方へ行ってしまった。
アリーがいなくなるのを見計らい、花を引っこ抜くと頭から血が流れてきた。

「ほらぁ、乱暴に抜いたりするから。あのままでも良かったじゃないですか!?」
「頭に花咲かして歩けってか?!」
「大丈夫かい?けっこう出血してるけど。」
「あれは…俺を養分にしようとしてるとかじゃなくて…?」
「うーん…逆かなぁ。植物系魔物の最上級の愛情表現は相手の養分になる事なんだよ。たぶん君の一部になろうとしてるんだと思う。」
「怖ぁ……」

エリックはドライアドのみならず、アルラウネの花まで手に入り、ウキウキしながら温室を後にした。

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