黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
101 / 411
黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

それぞれのやる事

しおりを挟む
「見て下さい!こんなに素敵な衣装ができました!」

この日は、ヴィオラが水の精霊の衣装を見せにやって来た。
水色の裾の長いローブに、レースの羽と雫の様な髪飾りを着けて、ヴィオラは部屋の真ん中でくるくる回る。

「変じゃないですか?」
「凄く似合ってる!本物の精霊みたいだなぁ!?」

(本物の精霊に拐われかけた人がなんか言ってる…)
エリックは連日、芸術祭の練習に付き合わされて、疲れ気味だ。

「これ終わったら休暇下さい!」
「それはかまわねぇけど…お前は休みでもいつもと同じな気がするな…」


2人が居なくなると、デイビッドも片付けを済ませ温室へ向かう。
アリーはだいぶ人との距離感を覚え、物を運ぶなど簡単な手伝いまでするようになった。

温室ではベルダがアリーの、デイビッドがヒュリスの研究をひたすら続けている。

「これだけ強力なアルラウネに、何故ヒュリスが寄生できたのか、そこが不思議でならないんだよ!何か特殊な寄生方法があるのかも知れない!」
「ヒュリスの種は蘭に近い微細な埃種子だ。虫から始まる食物連鎖で大型生物の体内に入り込んで、それを養分にしたアルラウネの根から直接養分を吸い取ってた可能性は?土地の魔素の濃度で成長にも差があった。アルラウネなんて魔力の塊みてぇなもんだろ?内側から一気に侵食されたのかもな。」
「君はやっぱり僕の研究室に来るべきだと思う!!」
「お断りします…」

アリーはデイビッドの隣でいくつも花を咲かせ、摘み取ってはデイビッドの髪に挿して遊んでいる。
こうしていると大人しいので、花だらけにされても、デイビッドはアリーの好きにさせてやっていた。

「頭、すごいことになってるねぇ…」
「痛くないなら、まぁ…」
「それひとつでとんでもない価値があるんだよ?1日で萎れるからとってもおけないし。」
「酒に漬けたら長持ちしねぇかな?サボテンの花を酒に入れて満開の状態を保つってやり方、どっかで聞いた気がする!真似できねぇかな?」
「君、もしかして知らないで言ってる?」
「え?保存が効くかなと思って…」
「絶対やらないでね?アルラウネやドライアドの生花は、酒精に漬けると強力な媚薬になるんだよ?!」
「…あっぶねぇーー…やる前で良かった…」

それを聞いてベルダがまたケラケラ笑う。

「アハハハハハ!!君って変な所で抜けてるねぇ!?」

蜜毒の媒介になった昆虫を解剖しながら、デイビッドは薬学系の勉強をもっとするべきかと真剣に悩んだ。
ヒュリスは構想だけならば、人工的な栽培が可能な段階まで来ている。
あとは実績を得るための試験栽培を行う許可を得るためにも、早く実用性と安全性を立証しなければいけない。


デイビッドがヒュリスにかまけている間、ヴィオラは仲間達と、芸術祭の準備に追われていた。

「さっきのところ、もう一度やってみよう!」
「いくよ!?せーのー…」

中庭で練習をしていると、学舎の方から誰かがやってくるのが見えた。

「あら、お姉様。こんな所で練習ですか?皆様のお邪魔になってしまいませんように、どうかお気をつけになって下さいませね?!」

共を引き連れたリリアが、相変わらずの笑顔で現れる。

「貴女のような罪人が精霊の役などして、本物の精霊の怒りを買わない事を祈りますわ!」
「私達、巻き込まれるなんて絶対に嫌よ?!」

逃げ出したくなる気持ちをぐっと堪えて、ヴィオラは背筋を正してスカートの裾をつまみ上げた。

「聖なる乙女、神に選ばれし唯一の星、リリア・ランドール伯爵令嬢様にご挨拶申し上げます。」
「お姉様…その様なことは…」
「私共の練習がお気に召さなかったご様子ですね。大変申し訳ございません。さぁ、皆さん。こちらは聖女様御一行のお邪魔になる様ですので、他の所で練習しましょうか!?」

これは牽制。
身分を問わず、平等を謳う学園では、貴族的な上下の分かりやすい挨拶は控えるのが暗黙の了解。
あえてそれを全面に出すことで、ヴィオラは、売られた喧嘩を買ったのだ。

「それもそうね。申し訳ありませんでした聖女様。」
「どうぞ?こちらはご自由にお使い下さい。」
「私共の様な下位の者が、お目汚し失礼しました!」
「教会の方は精霊など信じないのだと思っておりましけど、女神様以外の存在を信じられておられるとは、意外ですね。」

微笑みを絶やさず、それぞれ言いたいことを言ってその場を後にする。
リリア達は何も言えず、その場に立ち尽くして、こちらを睨んでいた。

小路を抜けて、東側の研究棟の中庭まで来ると、6人はどっと笑い出した。

「ヴィオラすごい!女優みたいだった!!」
「皆だって!あんな台詞、よくスラスラ出てきたね?!」
「ちょっと練習してた!いつか言い返したくて。」
「実は私も!少しスッキリした!」
「もうここで練習しちゃう?誰も来ないし!」
「よーし続きやろう!」

穏やかな午後の風に乗って、澄んだ乙女の合唱が、静かな学舎に響き渡る。


「うーー…」
「アリー?どうした、壁に張り付いて。」
「あーーあーー」
「外から何か聞こえるのかもね。彼女達は振動で音を聴き分けているから、かなり遠くの音でも聴こえるのさ!」
「ああ、芸術祭の練習か。」
「あーーあーーあーー…」
「もしかして、歌ってるつもりなのかも知れないね。」
「イェャァァーーッッ!!」
「シャウトしたぞ?…何が聴こえてんだ…?」


芸術祭の練習が佳境に入る頃には、温室の中もなかなか賑やかになっていった。

やがてリハーサルも始まり、いよいよ本番を来週に控えた生徒達は、授業どころでは無なっていく。

「…今日もサボりがちらほらいるなぁ…まぁ、出席は俺の授業には関係ねぇしな。お前達も、休むのはかまわねぇから、その代わり他のとこはちゃんと出ろよ?!」

授業中も、どこかしらから音楽や歌がかすかに流れてくる。
青春を謳歌する生徒達の姿が、経験の無いデイビッドには少しだけ不思議なものに見えた。


「講堂のリハーサル、今日は私達の番なんです!」
「衣装着てやるのか!見られないのが残念だ。本番までお預けかぁ…」
「一番上手に歌いますから!楽しみにしてて下さい!!」

本番まであとわずか。
久々に来た研究室で、ヴィオラはひたすらデイビッドの隣で話をしている。

「良く飽きないわね…」
「慣れましたね、この光景にも。」

シェルリアーナは魔法を使った劇に参加するらしく、台本とずっとにらめっこしている。

「何の劇をされるんですか?」
「あら、それは秘密よ!ヴィオラも楽しみにしててね?!」
「3年生は最後ですし、気合いの入り方が違いますからね。」
「本番であっと驚かせてあげるわ!だからそれまで甘い物を断つと決めたの!!」
「好きにすりゃ良いのに…」
「それができたら苦労しないわよ!この無限甘い物製造機が!!何作ろうと私の前に出したら承知しないわよ!?」

(((ここに来るのを止める選択肢は無いんだ…?)))


芸術祭は刻一刻と近づいてくる。
教員であるデイビッドも、日々やる事が山積みになっていった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

国王一家は堅実です

satomi
恋愛
オスメーモ王国…そこは国王一家は麗しくいつも輝かんばかりのドレスなどを身につけている。 その実態は、国王一家は国民と共に畑を耕したり、国民(子供)に読み書きを教えたり庶民的な生活をしている。 国王には現在愛する妻と双子の男女の子に恵まれ、幸せに生活している。 外部に行くときは着飾るが、領地に戻れば庶民的で非常に無駄遣いをしない王族である。 国庫は大事に。何故か、厨房担当のワーグが王家の子どもたちからの支持を得ている。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

冷徹侯爵の契約妻ですが、ざまぁの準備はできています

鍛高譚
恋愛
政略結婚――それは逃れられぬ宿命。 伯爵令嬢ルシアーナは、冷徹と名高いクロウフォード侯爵ヴィクトルのもとへ“白い結婚”として嫁ぐことになる。 愛のない契約、形式だけの夫婦生活。 それで十分だと、彼女は思っていた。 しかし、侯爵家には裏社会〈黒狼〉との因縁という深い闇が潜んでいた。 襲撃、脅迫、謀略――次々と迫る危機の中で、 ルシアーナは自分がただの“飾り”で終わることを拒む。 「この結婚をわたしの“負け”で終わらせませんわ」 財務の才と冷静な洞察を武器に、彼女は黒狼との攻防に踏み込み、 やがて侯爵をも驚かせる一手を放つ。 契約から始まった関係は、いつしか互いの未来を揺るがすものへ――。 白い結婚の裏で繰り広げられる、 “ざまぁ”と逆転のラブストーリー、いま開幕。

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

逆ハーレムを完成させた男爵令嬢は死ぬまで皆に可愛がられる(※ただし本人が幸せかは不明である)

ラララキヲ
恋愛
 平民生まれだが父が男爵だったので母親が死んでから男爵家に迎え入れられたメロディーは、男爵令嬢として貴族の通う学園へと入学した。  そこでメロディーは第一王子とその側近候補の令息三人と出会う。4人には婚約者が居たが、4人全員がメロディーを可愛がってくれて、メロディーもそれを喜んだ。  メロディーは4人の男性を同時に愛した。そしてその4人の男性からも同じ様に愛された。  しかし相手には婚約者が居る。この関係は卒業までだと悲しむメロディーに男たちは寄り添い「大丈夫だ」と言ってくれる。  そして学園の卒業式。  第一王子たちは自分の婚約者に婚約破棄を突き付ける。  そしてメロディーは愛する4人の男たちに愛されて……── ※話全体通して『ざまぁ』の話です(笑) ※乙女ゲームの様な世界観ですが転生者はいません。 ※性行為を仄めかす表現があります(が、行為そのものの表現はありません) ※バイセクシャルが居るので醸(カモ)されるのも嫌な方は注意。  ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

悲恋小説のヒロインに転生した。やってらんない!

よもぎ
ファンタジー
悲恋ものネット小説のヒロインに転生したフランシーヌはやってらんねー!と原作を破壊することにした。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...