黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

芸術祭

王立学園の二学期の目玉はなんと言っても芸術祭。
全生徒は必ず、1人一作品の制作物の提出と、演し物への参加が求められる。

演し物の種類は、ダンス、演劇、歌、楽器の演奏、魔術の披露などが多い。

ヴィオラは、友人達と昼休みに色々練習するらしく、またしばらく研究室には来られないという。

「芸術祭は楽しみですけど、その間会えなくてちょっとさみしいです…」
「ヴィオラは何に出るんだ?」
「歌曲です!皆で“妖精の花園”の一場面を歌うんです!」

「妖精の花園」とは、有名な歌劇で、妖精にいざなわれた少女の不思議な体験を元にした物語を描いたものだ。

「そうか、がんばれよ?!」
「私、泉の精霊やるんです!」
「ヴィオラなら妖精でも精霊でもなんでも似合いそうだ!楽しみだな!?」

(本物に連れて行かれた人がなんか言ってる…)
エリックも担当科目が音楽とダンスのため、今月は引っ張りだこで毎日帰りが遅くなるそうだ。
デイビッドは久々に1人だけの時間を過ごす事になる。


「それでお弁当持参でここに来るっていうのもすごいなぁと思うよ僕。」
「ヒュリスの論文、早いとこまとめちまいたいんで。」

暇を持て余す気は更々なく、立入禁止の温室の中で盛大にヒュリスのサンプルを広げ、ひとつずつわかったことを書き留めていく。
長らく禁忌の魔草とされていたヒュリスを、デイビッドは人工的に栽培し活用できないかと考えていた。

「麻薬の元となる魔草をかい?君、なかなかチャレンジャーだね!!」
「それを言えば麻もケシも同じだろ?!毒も薬になるし、その逆もある。未知の物だから手が出なかっただけで、解明されればかなり活用の幅が広がると見てんだ…」
「…君、僕の研究室に入ったりしない?」
「しませんけど……?」

アリーは、集中しているデイビッドの周りに寄っては来るものの、絡み付いたりはせず大人しく少し離れてた所から覗き込んでいる。

ガラス箱に入れた生きたヒュリスを観察中、アリーはどこか落ち着かず、デイビッドの背中に隠れようとした。

「怖いのか?そうか、お前はヒュリスに取りつかれてたんだっけ。」
「ディー…」
「それ時々聞くけど、俺のことか?!」
「ディー…」
「あー…なるほど、ちゃんと覚えてんのか、偉いなぁ…」

あんまり周りをうろうろするので、デイビッドは休憩の度にアリーを構ってやった。

「よし!アリー、アレは?」
「リィ…リィディ」
「おお、わかってるんだな。そう、リディアだな。」
「リィディア…」
「そうそう。じゃ、あっちは?」
「メガネ」
「エライはっきり喋ったな!?」

アリーはベルダをメガネと覚えてしまい、そこからの修正は難しかった。

「でも、言語で交流ができるとわかったら、だいぶ不安要素薄まった気がす…嘘です…怖いからいきなり巻き付くのヤメてくれ……」

隙あらば、アリーはすぐにデイビッドをぐるぐる巻きにしようとする。
その後も息抜きしつつ、ヒュリスの資料はどんどん増えていった。


二学期前半も終わり、学園全体が芸術祭の準備に向かっている。
どこを見ても忙しそうで、皆手が足りていない。
教員室は毎日、先生方の話し合いで賑やかだった。

「あ~ん!また差し戻されたぁ…」

今年の会計係は商業科長サイモン先生。
審査が厳しく、ビシビシ予算を却下している様だ。

向かいの席の女性教師が、がっかりしながら椅子にもたれ掛かっているのを見て、デイビッドは思わず話し掛けた。

「予算案ですか?確かにそろそろ提出期限ですね。」
「でも通らないのよ!!これで3回目よ!?何がいけないの!?」
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「デイビッド君、見てくれる?!」

受け取った3枚綴りの予算案は、きちんとできてはいるが、よく見ると穴がある。

「ここ、顔料と木炭とカンバス、在庫は確認しました?」
「在庫?在庫なんてあるの?」
「確か東の資料室に埋まってるの見た気がするんですよね。あと、この青の顔料、今ちょっとだけ値上がりしてるんで、この数字じゃ購入できないと思います。そのくらいかな?」

ひょいと書類を戻して、自分の机の資料を確認しようとするといきなり肩をつかまれて、体の向きを変えられた。

「ありがとうデイビッド君!!本当に助かったわ!!」
「ど…どうも…」
「ちょっと待って、私のも一度見てくれないかしら?」
「あの~僕のもいいですか?」
「ええ…?」

余計な事をしたかと思ったが仕方ない。
渡されたひとりひとりの予算案に目を通し、気付いた点を指摘していく。

「コレは原価なので、実際の売値を確認しないと。こっちは複数購入するなら単価を割り出して。ここは単位が違ってます。これは…既製品を買うより自作した方がかなり安上がりなので、たぶん自分達で作れという意味じゃないかなぁ…」

ちまちましたわずかなミスだが、金銭が絡む以上正確に仕上げなければならない。
サイモン先生も相当頑張っていることが、差し戻された予算案を見ると良くわかる。

「ありがとう!これで間に合うわ!」
「すまない…こういうのは苦手でね。助かったよ。」
「貴方が居てくれれば、サイモン先生だって怖くないわ!」

口々に礼を言われ、気恥ずかしくてすぐに研究室へ戻ってしまったが、力になれたのなら良かったと思う事にした。
(あんな事言って、俺が会計になったらどうすんだろう…?)

そのまさかな出来事が起こるのが現実だ。

「デイビッド先生。今日から監査を頼みたい。」
「え?!」

サイモン先生に呼ばれ、命じられたのは芸術祭の会計監査。

「監査って…どの程度です?」
「商会を運営する気で頼む。ここ数年、ずいぶん緩い会計がまかり通っていたようだからな!徹底的に削り落としてやれ!」
「まぁ、やれと言われたら、やりますよ?」

青い廊下側を牛耳る教師達はほとんどが貴族だ。
庶民の目から見た物の価値や、価格など気にせず、欲しい物を欲しいだけ購入しようとし、それをなぁなぁで通してしまう体勢が、この学園の中に長い事蔓延っていたそうだ。
それに便乗して、私物や関係ない備品などを購入するケースもあり、なかなかに悪質だ。
サイモンは、そのやり方に異議を申し立て、ここで会計に改革を起こすつもりらしい。

そこから、毎日届く予算案を、2人は容赦無く切り捨てて行った。

「通らない!!1枚も!!」
「あー…でも、修正箇所にコメントくれるだけ優しいじゃないですか…」
「そのその優しさが余計辛いんです…こんなのもわかんないのかよって声がどっかから聞こえて来そうで…」
「でも、2回目却下された時、修正のメモの重石にクッキー添えられてて、ちょっと頑張れました…」
「そう!差し戻しの時、ちょこっとごほうびくれるのよね!?アレで頑張れちゃうって言うのも単純だけど!」
「僕も、もらいましたよ。ごほうび…4回目にやっと通してもらった時、お疲れ様ですって、チーズ入りのグリシーニくれたんです…僕、甘い物苦手って一度も言ったことないのに、ちゃんと甘くないのくれました…」
「色々掌握されてる…」
「飴と鞭、使い分けてるのねぇ…」
「頑張ってる人の事はちゃんと見てるの偉いと思うわ…」
「でも通らないのよ!本人は全然甘くないのよ!なんならサイモン先生の方がまだ抜け道があった気がするわ!」

この日も教員室は、芸術祭の準備に追われた教員達が居残り、遅くまで明かりが点いていた。
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