黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

それぞれのやる事

「見て下さい!こんなに素敵な衣装ができました!」

この日は、ヴィオラが水の精霊の衣装を見せにやって来た。
水色の裾の長いローブに、レースの羽と雫の様な髪飾りを着けて、ヴィオラは部屋の真ん中でくるくる回る。

「変じゃないですか?」
「凄く似合ってる!本物の精霊みたいだなぁ!?」

(本物の精霊に拐われかけた人がなんか言ってる…)
エリックは連日、芸術祭の練習に付き合わされて、疲れ気味だ。

「これ終わったら休暇下さい!」
「それはかまわねぇけど…お前は休みでもいつもと同じな気がするな…」


2人が居なくなると、デイビッドも片付けを済ませ温室へ向かう。
アリーはだいぶ人との距離感を覚え、物を運ぶなど簡単な手伝いまでするようになった。

温室ではベルダがアリーの、デイビッドがヒュリスの研究をひたすら続けている。

「これだけ強力なアルラウネに、何故ヒュリスが寄生できたのか、そこが不思議でならないんだよ!何か特殊な寄生方法があるのかも知れない!」
「ヒュリスの種は蘭に近い微細な埃種子だ。虫から始まる食物連鎖で大型生物の体内に入り込んで、それを養分にしたアルラウネの根から直接養分を吸い取ってた可能性は?土地の魔素の濃度で成長にも差があった。アルラウネなんて魔力の塊みてぇなもんだろ?内側から一気に侵食されたのかもな。」
「君はやっぱり僕の研究室に来るべきだと思う!!」
「お断りします…」

アリーはデイビッドの隣でいくつも花を咲かせ、摘み取ってはデイビッドの髪に挿して遊んでいる。
こうしていると大人しいので、花だらけにされても、デイビッドはアリーの好きにさせてやっていた。

「頭、すごいことになってるねぇ…」
「痛くないなら、まぁ…」
「それひとつでとんでもない価値があるんだよ?1日で萎れるからとってもおけないし。」
「酒に漬けたら長持ちしねぇかな?サボテンの花を酒に入れて満開の状態を保つってやり方、どっかで聞いた気がする!真似できねぇかな?」
「君、もしかして知らないで言ってる?」
「え?保存が効くかなと思って…」
「絶対やらないでね?アルラウネやドライアドの生花は、酒精に漬けると強力な媚薬になるんだよ?!」
「…あっぶねぇーー…やる前で良かった…」

それを聞いてベルダがまたケラケラ笑う。

「アハハハハハ!!君って変な所で抜けてるねぇ!?」

蜜毒の媒介になった昆虫を解剖しながら、デイビッドは薬学系の勉強をもっとするべきかと真剣に悩んだ。
ヒュリスは構想だけならば、人工的な栽培が可能な段階まで来ている。
あとは実績を得るための試験栽培を行う許可を得るためにも、早く実用性と安全性を立証しなければいけない。


デイビッドがヒュリスにかまけている間、ヴィオラは仲間達と、芸術祭の準備に追われていた。

「さっきのところ、もう一度やってみよう!」
「いくよ!?せーのー…」

中庭で練習をしていると、学舎の方から誰かがやってくるのが見えた。

「あら、お姉様。こんな所で練習ですか?皆様のお邪魔になってしまいませんように、どうかお気をつけになって下さいませね?!」

共を引き連れたリリアが、相変わらずの笑顔で現れる。

「貴女のような罪人が精霊の役などして、本物の精霊の怒りを買わない事を祈りますわ!」
「私達、巻き込まれるなんて絶対に嫌よ?!」

逃げ出したくなる気持ちをぐっと堪えて、ヴィオラは背筋を正してスカートの裾をつまみ上げた。

「聖なる乙女、神に選ばれし唯一の星、リリア・ランドール伯爵令嬢様にご挨拶申し上げます。」
「お姉様…その様なことは…」
「私共の練習がお気に召さなかったご様子ですね。大変申し訳ございません。さぁ、皆さん。こちらは聖女様御一行のお邪魔になる様ですので、他の所で練習しましょうか!?」

これは牽制。
身分を問わず、平等を謳う学園では、貴族的な上下の分かりやすい挨拶は控えるのが暗黙の了解。
あえてそれを全面に出すことで、ヴィオラは、売られた喧嘩を買ったのだ。

「それもそうね。申し訳ありませんでした聖女様。」
「どうぞ?こちらはご自由にお使い下さい。」
「私共の様な下位の者が、お目汚し失礼しました!」
「教会の方は精霊など信じないのだと思っておりましけど、女神様以外の存在を信じられておられるとは、意外ですね。」

微笑みを絶やさず、それぞれ言いたいことを言ってその場を後にする。
リリア達は何も言えず、その場に立ち尽くして、こちらを睨んでいた。

小路を抜けて、東側の研究棟の中庭まで来ると、6人はどっと笑い出した。

「ヴィオラすごい!女優みたいだった!!」
「皆だって!あんな台詞、よくスラスラ出てきたね?!」
「ちょっと練習してた!いつか言い返したくて。」
「実は私も!少しスッキリした!」
「もうここで練習しちゃう?誰も来ないし!」
「よーし続きやろう!」

穏やかな午後の風に乗って、澄んだ乙女の合唱が、静かな学舎に響き渡る。


「うーー…」
「アリー?どうした、壁に張り付いて。」
「あーーあーー」
「外から何か聞こえるのかもね。彼女達は振動で音を聴き分けているから、かなり遠くの音でも聴こえるのさ!」
「ああ、芸術祭の練習か。」
「あーーあーーあーー…」
「もしかして、歌ってるつもりなのかも知れないね。」
「イェャァァーーッッ!!」
「シャウトしたぞ?…何が聴こえてんだ…?」


芸術祭の練習が佳境に入る頃には、温室の中もなかなか賑やかになっていった。

やがてリハーサルも始まり、いよいよ本番を来週に控えた生徒達は、授業どころでは無なっていく。

「…今日もサボりがちらほらいるなぁ…まぁ、出席は俺の授業には関係ねぇしな。お前達も、休むのはかまわねぇから、その代わり他のとこはちゃんと出ろよ?!」

授業中も、どこかしらから音楽や歌がかすかに流れてくる。
青春を謳歌する生徒達の姿が、経験の無いデイビッドには少しだけ不思議なものに見えた。


「講堂のリハーサル、今日は私達の番なんです!」
「衣装着てやるのか!見られないのが残念だ。本番までお預けかぁ…」
「一番上手に歌いますから!楽しみにしてて下さい!!」

本番まであとわずか。
久々に来た研究室で、ヴィオラはひたすらデイビッドの隣で話をしている。

「良く飽きないわね…」
「慣れましたね、この光景にも。」

シェルリアーナは魔法を使った劇に参加するらしく、台本とずっとにらめっこしている。

「何の劇をされるんですか?」
「あら、それは秘密よ!ヴィオラも楽しみにしててね?!」
「3年生は最後ですし、気合いの入り方が違いますからね。」
「本番であっと驚かせてあげるわ!だからそれまで甘い物を断つと決めたの!!」
「好きにすりゃ良いのに…」
「それができたら苦労しないわよ!この無限甘い物製造機が!!何作ろうと私の前に出したら承知しないわよ!?」

(((ここに来るのを止める選択肢は無いんだ…?)))


芸術祭は刻一刻と近づいてくる。
教員であるデイビッドも、日々やる事が山積みになっていった。

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