黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

マーケット

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「よし、俺の欲しい物は手に入ったから、次はヴィオラの見たい物を探しに行こう!」
「いいんですか?!」
「せっかく出てきたんだ。少しは楽しまなきゃな!」

ヴィオラはさっきから気になっていた雑貨や小物が集まっているテントの方へ向かい、早速しゃがみ込んであれこれ夢中で眺めている。
カラフルな小石のビーズを売っている店や、民族柄のリボンに見惚れたり、アクセサリーの前で動かなくなったり、実演販売に見入ったり、わくわくしながら知らない国の文化に触れ、マーケットを楽しんでいるようだった。 

その頭の上でほいほいやり取りがされている事には全く気がつかない程、真剣に何かを探しているようだ。

「なんか欲しい物があるのか?」
「お揃いの物が欲しいです!!せっかくデートに来たので!デイビッド様とお揃いの何か素敵な物が無いか探してます!!」
「マーケットはデートに入るのか?!」
「十分入ります!」
「まぁ、ヴィオラがそれでいいなら…」
「次はあっちに行きたいです!!」

雰囲気のあるテントの下には、色んな種類のチャームやアミュレットが並んでいた。
他にもおまじないの道具や占い師の店が出ていて、お客も若い女性が多い。
相手に触れされるとその感情が模様で現れるという水晶玉や、意中の相手の顔だけ映す鏡など、魔道具も多く出ていて面白い。

「これは?」
「えーと…お互いの身に何かあった時知らせてくれるお守りだと。この石が相手の感情に合わせて曇ったり光ったりして、状態を教えてくれるらしい。魔道具だな。」
「これ欲しい…デイビッド様に危険が迫ったらすぐわかりますよね!?」
「あー…そういうのって微小でも魔力に反応するもんだから…俺は無理だな…」

普通、魔力無しでも体内には微量の魔力が蓄積しているものだ。
しかし、デイビッドにはそれが一切無い。
ヴィオラは魔道具は諦めて、石のついたチャームを買うことにした。

「何色にしようかな…どれもキレイで迷っちゃう!」

『これとこれとこれ下さい。』
『はいよ。』

「あ!また何か買ってる!!」
「そりゃ買うだろ!これでもだいぶ我慢した方だ。ほらヴィオラ、これ魔石が付いてんだ。ここに魔力を流してみな?」

魔石を編み込んだチャームがヴィオラの手の中で魔力に反応し、透明な石が徐々に淡い紫色になった。

「これがヴィオラの魔力の色だよ。」
「魔力にも色があるんですか?!」
「お遊びだけどな。これは呪い用の魔石で、何かしら色が付くようにできてんだ。この色で運勢を占ったりするんだと。」
「嬉しい…キレイな紫…」
「あとひとつ欲しい物があるんだ。付き合ってくれるか?」
「はい!」

向かった先は少し高級感のある区域で、テントではなく簡易の店が並び、宝飾品や銀細工、絹やガラスなどが売られている。
その中のひとつに入ると、そこは魔石の店だった。

「これ、全部魔石ですか?!」
「そう。ここは魔石の専門店なんだ。宝飾用から日常使いまで揃ってる。王都に入ってるヤツより純度の高いのを仕入れてるから、魔石が欲しいなら割とお勧めの店だ。」

天井まで埋め尽くす程の魔石がズラリと並び、ヴィオラの目はキラキラし通しだった。

「どれがいい?」
「私が選ぶんですか?!!」
「俺が欲しいのはヴィオラの魔力を込めた魔石だからな。石はヴィオラが選んでくれよ。」
「こ…この中から…」

ドキドキしながら棚の魔石を眺めているヴィオラの後ろで、デイビッドは声を殺して笑っていた。

『お連れさんかわいいですね。』
『こういう所は初めてらしい。楽しそうで何よりだ。』
『悪い人ね。相場の分からない子に選ばせて。ほら、あんな方に行っちゃったわよ?』
『なぁに、構わねぇよ。』

「デイビッド様!これ!これにします!!」

ヴィオラは、夜空のような色合いの小指程の結晶を選んで来た。

『それじゃこれと、彼女が最初に見てたヤツをペンダントにしてくれないか?』
『お兄さん気前が良いね。ちょっと待ってて。』

「ヴィオラ、早速だけどこれに魔力を注いでみてくれよ。」
「はいっ!頑張ります!」

店員が奥に下がると、ヴィオラに手に結晶を乗せ、魔力で満たしていく。
すると石の真ん中に何かが光った。

「星が入ってるな。」
「どこですか?!あっ本当だ!」

魔石の中には極稀に、星と呼ばれる魔力に反応して輝く結晶が入っていることがある。
魔力を注がないと分からない上に、魔力の質や量によっては発現しない場合もあるので、幸運の象徴にもされコレクターなどもいるらしい。

「引きがいいな。ヴィオラは幸運の女神かも知れない。」
「そんなこと無いです!偶然、偶然ですよ!」

そこへ店員が加工を終えて戻ってきた。

『できましたよ。いかがかしら?』

「わぁ!すごくステキなペンダントですね。」

『ほら、お兄さん。早く着けてあげて?!』
「あ?!お、俺が??」

手渡されたペンダントを、ヴィオラの後ろから首元に掛けると、鏡に映った胸元に濃い青と紫が綺麗に馴染んだ魔石が揺れる。

「こ…これ、私にですか?!」
「ずっと見てただろ?良く似合ってる。」
「うわぁ~っ!!」

言葉にならずデイビッドに抱き着いたヴィオラは、後ろで金貨が動いた事には気が付かなかったようだ。


夕暮れの前に学園に引き上げる道中、2人は屋台の通りで夕飯の代わりを買って気軽に食べながら帰った。
デイビッドは湯気を立てている店をいくつか回り、小振りの饅頭を何種類か買っていた。

「なんですか?これ。」
「ダンプリングの一種だよ。帝国の東側じゃ定番の屋台飯だな。」
「ふわふわですね!ダンプリングってサクサクしたのしか食べた事なかったです。」
「小麦粉の使い方が基本違うからな。お、旨い。」

ぶらぶら歩きながら学園に戻り、守衛にも何か一袋渡して、寮へ向かう道でヴィオラと別れる。

「今日は付き合わせて悪かったな。」
「そんなこと無いです!すごく楽しかったです!また行きたいです!!」
「ただのマーケットだろ…?次はちゃんとした所に連れて行くよ。」

ヴィオラの分の袋を手渡し、さっさと研究室へ戻ると、エリックがニコニコしながら待っていた。

「おかえりなさーい!どうでした、デートは?」
「だから、マーケットに行っただけだっての!」
「わかってないなぁ~!好きな人と行けばどこだって最高に楽しいんですよ!?それはもうデートなんですって!あ、お土産ないんですか?」

饅頭の袋を渡すと、エリックはすぐにお茶の支度を始めた。

「どれでしたっけ?発酵茶?花茶?」
「黄色い花の入ったやつが合うんじゃないか?」
「これか~!こういう時飲み合わせのわかる人がいると助かりますよ!」

香ばしい中に花の香りが漂う異国の茶を飲みながら、エリックは満足そうに饅頭を楽しんでいる。

「で?何かプレゼントしたんですか?!」
「…したよ…細かいもんいくつかと、魔石…」
「ふ~~~ん…そのデスクに置いたやつも買ったんですか?」
「それはヴィオラが引き当てた星入りのヤツ。」
「うっわ!!黒曜魔石の星入りなんて滅多に手に入りませんよ!?ヴィオラ様持ってるなぁ…にしてもこれダイヤより高いヤツでしょ?驚かれませんでした?」
「…絶対言うなよ…」
「うわぁ~そういうとこですよ!?」

本当の値段を知っているエリックは、少し引き気味に魔石を見ている。
(この様子じゃ他にも何か買ったんだろうなぁ…)


その夜デイビッドは、新しいレシピや買って来た物を色々試してから、久々に楽しい気分のまま布団に入ることが出来た。

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