黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

帝国の王子

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カミールはカミールで、泣きそうになっているヴィオラを恍惚とした表情で見つめていた。
ヴィオラの隣りに座り、俯く顔を追いかける。

「申し訳ありません!私…本当に…」
「無理にとは申しません。困った顔もとても可愛らしいので、ついイジワルしてしまいました…せめてその婚約者が来るまで、隣でお話させて頂けませんか?これも外交の練習と思って!」

そこへこそこそとアリスティアが声をかけた。

「カミール様、カミール様…ちょっと…」
「え?なんです?」
「それ以上は…多分バレたらかなり怒られますよ?!」
「ああ、こんな素敵なレディを放置する無神経な婚約者など、怖くはありませんよ!他国の王族に意見できる程の度胸をお持ちだといいですね?!」
「意見どころか、捻じ伏せに来るんじゃないかしら。物理的に。」
「アハハハハ!面白い冗談ですね?そうしたら外交問題にしてやりますよ!」

「やってみろよ…」

カミールが振り向くより早く、背後に現れた人物が笑っていたカミールの襟首を乱暴に掴み、ソファから引き摺り上げると床に放り出した。

「うわぁぁっ!!いきなり何を…は?デイビッド?!なにするんだ!用があるなら口で言ぐぇっ!!」

心底不機嫌な顔のデイビッドが、カミールを見下ろし、今度は襟元を掴んで強引に立たせる。

「ゲホッゲホッ!いきなり来て酷いじゃないか!私が何したって言うんだ!!何をそんなに怒って…」
「だから言いましたのに。」
「怒られますよって…」
「は??そんな…待ってくれ!嘘だろう?!それじゃ、まさか…彼女の婚約者って…」

「デイビッド様!」

緊張顔から一転。
目一杯の笑顔でヴィオラがデイビッドに抱き着いた。

「会えなくて心細かったです…」
「悪い、子爵の相手をしてたら遅くなった。…デビュタントおめでとう。」
「アリスティア様と真ん中で踊って来たんです!もう夢を見てるみたいでした!」
「それも見てたよ。あそこまでよく練習したな。」
「シェル先輩の特訓のおかげです!」

「嘘だろう!?だってお前…アデラでですら美人局くらいにしか声かけられなかったクセに…婚約者?!上手く騙して攫って来たとかじゃないよな…一体どんな手を使ったんだ…?」
「そこだけ信用が底辺になるのは何なんだ?!」

どうやら同系の特徴を持つ国でも、デイビッドは女性に人気がなかったらしい。
ヴィオラはそんなデイビッドの顔をじっと見つめてにっこり笑った。

「どうした?」
「なんでもないです。ただ、やっぱりデイビッド様の方がカッコいいなって!」

「嘘だろう?!!でも…そうか…彼女の趣味という事なら…」
「多分、あれは後天性の性癖ですわよ。」
「むしろあの方はきっかけですね。」
「イヤ!おかしいでしょう?!あの見てくれですよ?!惚れる要素どっかにあります?!」
「パーツは似てますのに…」
「ここまで言われるといっそ清々しいですね。」

愕然とするカミールに今度はシェルリアーナが手を差し伸べた。

「さ、仕切り直しましょ。カミール様、私と踊って下さるかしら?」
「ハハハ…ありがとう…カッコ悪い所をお見せてしてしまいましたね。挽回出来るといいな。」

シェルリアーナとカミール。
対称的な印象を持つ2人が踊り出すと、皆が注目し感嘆の溜息があちこちで溢れる。

「素晴らしいダンスをありがとうシェルリアーナ様。」
「こちらこそ、本物の王子様と踊れて光栄でしたわ。」

2人が離れると辺りは拍手で包まれた。

「兄上!!」
「途中でお会いしたので、こちらまで案内してきました。」

そこへ人混みをかき分け、ジャファルとエリックも現れる。

「ジャファル。パーティーはどうだ、楽しんでるか?」
「ここはあんまり好きじゃない…皆がジロジロ見るんだ。どうせ僕の色が黒いからって馬鹿にしてる…」
「そんな事ないさ。お前の笑顔はチョコレートと同じだ。世界中を魅了できる。王族が他国で不機嫌な顔をしていてはいけない。アリスティア様にきちんと謝りなさい。」

兄に諭され、ジャファルはおずおずとアリスティアに向き直る。

「先程は失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした。」
「気になさらないで。その代わり、私と一曲踊って下さると嬉しいわ。」
「は、はいっ!喜んで!」

初々しい2人のダンスもやはり大勢の注目を浴びた。
二つの国の友好を現すように楽し気に踊る姫と王子を、皆が温かく見守っている。

踊り終わると、アリスティアはジャファルを連れて友人達のいる所まで連れて行った。

「あ、デイビッド!探したぞ?今までどこに…って、おい!なんでお前が女の子侍らしてんだ!しかも2人も!!」
「兄弟揃って人をなんだと…」
「天変地異みたいに言いますねぇ。」
「2人って何?!私はヴィオラに侍ってるのよ!!コイツなんか眼中に無いわ!訂正なさい!!」
「わ、私は婚約者ですから!くっついていいんです!当然の権利です!」

ジャファルはそれを聞いて信じられないという顔をした。
カミールはその様子を見てくすくす笑っている。

「ホント、君達面白い組み合わせだよね。花の妖精に月の女神に正真の王女が、揃いも揃って醜男の側に平気で居るんだもの。ねぇ、本気でどんな魔法を使ったの?」
「うるせぇな!魔法は使えねぇって言ってんだろ?!」
「確かに、考えてみたら女の子ばっかり集まって来ますよね。今までだったら考えらんない事ですよ。」
「知るかっ!俺に聞くな!!」

そこへ、アデラの大使達が2人の王子を探しにやって来たので、ジャファルとカミールは離れて行った。

「ジャファル、そろそろ他へもご挨拶に行かないと。外交も含め兄上に任されているのだから、気を引き締めなさい。」
「はい兄上。それじゃデイビッド、また後で会おう!」

賑やかな2人が去ると、アリスティアも兄を探すと言うので皆で会場へ赴いた。

ホールでまず目立つのがアリスティアとシェルリアーナ、そしてエリック。
ヴィオラもドレスとダンスのおかげでずいぶん顔が売れてしまった。
なんでコイツが?という目で見られるのがその後ろのデイビッド。
この組み合わせは余程他人の目には不自然に写るようだ。


だから変な奴にも絡まれてしまうのだろう。

「おい、そこの豚男!目障りだ、下がれ!」

5人の足が同時に止まり、ゆっくりと声のする方へ顔を向ける。

「その醜い姿で良く人前に出られたものだ!ここは豚の来るところじゃない、即刻出て行け!」

この会場で再びこのセリフを聞くことになるとは思わなかった。
声の主はハニーブロンドに明るい水色の瞳の帝国貴族の顔立ちをした青年だった。

(待て待て待て!!エリック、ヴィオラ、魔力をしまえ!シェル、姫も前に出るな危ねぇぞ?!)

臨戦態勢に入ろうとする4人をデイビッドが抑え、後ろへ下がれと言う。

(落ち着け!コイツを始末するのは俺達じゃない…)
(あら、つまらない…)
(こちら、どこのどなたです?まだ名前も伺ってません。)
(帝国の第四王子だ、名前が確か…)

デイビッドが思い出そうとしている時、すっかり開けた人混みから、ガツガツと物凄い足音が近づいて来た。

「セルジオォッ!貴様そこに直れぇぇっ!!」

人垣が割れて、現れたのは燃えるような赤いドレスに艷やかなブリュネットの巻き髪、瞳は血のように紅い帝国の第二王女アザーレア。
腰から引き抜いた扇に魔力を流すと、容赦無く弟の顔を殴り付けた。

王子はあまりの力に声も無く、床が割れる程の衝撃で叩き付けられ、身体が何度も跳ねて気を失った。
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