黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

エルムの王女

「ラムダの誇り高き姫君、アリスティア・セル・ラムダ王女!エルムの第二王女リオ・アザーレア・ボルカノフが弟に代わり深く謝罪する。貴国の勇士を大衆の面前で貶し、嘲った罪は重い!如何な罰でも受けさせよう!この失態、エルムを上げて償わせて頂きたい!」

白目を剥く弟の横に跪き、頭を垂れるアザーレアの目は真剣だった。

(……なかなか情熱的な方ですね…)
(早くなんか言ってやれ!下手すると首とか差し出してくるぞ?!)
(それは困りますね…)

「どうかお立ちになって下さい。アザーレア様、エルムとラムダ、この程度で揺らぐ仲ではございません。一度の失敗は誰しもあるものです。当人もこの通り、気にされておりません。ラムダの王女として、謝罪を受け入れます。」

アザーレアの手を取りアリスティアが微笑むと、アザーレアがその手に口付けを落とす。

「寛大な姫の心遣いに感謝する。」

アザーレアが指を鳴らすと、床の亀裂が一瞬で燃え上がり炎が消えると全て元に戻っていた。

エルムは魔術大国。
魔道具や魔法陣の精度もかなり高い。
アザーレアは炎を操る魔法に長け、同時に武術も心得る戦士でもあった。
元は内乱も多かった国の治安を護る部隊に所属する予定が、
先代の尽力もあり各所で和平条約が交わされ、大安の時代となったので仕方なく姫として外交に携わっているらしい。
故に少々手荒く基本的に大雑把だが情に厚く、熱意と責任感は非常に強い。


飛んできたエルムの使用人達に気絶した王子を運び出させ、会場は何事もなかったかの様にまた賑わい出す。
アザーレアはその場が落ち着くと、人目など気にせずデイビッドに近づいて両手を広げて抱きしめた。

「デイビィ久しぶりだなぁ!!なんだやっと髪を切ったのか?!男前が上がったぞ?!ウチの馬鹿がすまなかった!後で煮るなり焼くなり好きにするといい!相変わらずツンケンしおって!コイツめ!!」
「いいから離せ!毎度人を人形扱いしやがって!!」

もみくちゃにされるのを抵抗しているデイビッドを、残る4人は珍しげに見ていた。

「いたんですね、女性の知り合い。」
「コイツを女性と認識するのは少し待った方がいいぞエリック…」
「ここまで押される相手は珍しいわ。」
「浮気ですか…?」
「違う!断じて!!やめてくれヴィオラ!!」

「ハッハッハッ!!コイツは私が大使になる前にエルムに来て、砂漠周辺の立て直しに一躍買ってくれた恩人なんだ!流浪の民かと思って取り立てようとしたら、既に他国の貴族だなんて言うからそりゃもう驚いたものさ!ふらっと現れて功績だけ残したら名も残さずに居なくなろうとしたんで、追いかけようとしたら一悶着あってな!以来腹心の仲だ!」
「ただの外交官と一交易窓口だよ!」

デイビッドはしつこいアザーレアの手から逃れると、なるべく距離を置こうとする。

「すごい温度差ですね。」
「一悶着とは…?」
「人探しのはずが伝聞先が間違ってお尋ね者にしてしまってな?!憲兵が捕らえて罪人として僻地の牢に入れてしまったんだ。」
「豪快なミス!!」
「なんとか誤解を解いて城へ連れてったまではいいが、その途中で賊に襲われたりしてなぁ!まぁ散々な目に遭わせてしまった訳だ!ハッハッハッ!!」
「そんな目に遭ってたんですか?!」
「すごかったぞぉ!?国の兵士も圧される中、敵の刀剣を奪って応戦する姿は凄まじいものだった…私も初めて見ず知らずの相手に背中を預けようと思わされた。激戦の最中、相手の命までは奪わず戦い抜く姿勢にも感銘を受けたものだ…」

「なんか、思ってたのと違う感じね…」
「エピソードの展開が熱過ぎてついていけません…」

豪快かつ激情的な面はあるが、アザーレアはこれでもエルムの重要な大使であるため、ラムダ国にも良く来るそうだ。

「アザーレア様はこの国の専任大使なんです。エルム帝国は今後もアザーレア様を通して国交を結ばれるという事で、良くお越しになってるんですよ。弟さんの事は存じませんでしたけど…」
「アレは本当に申し訳ない。王家としても重く見よう。改めて兄からも謝罪をさせる。あれは外に出して良いものではないな。デイビッド、冗談抜きにすまなかった。」
「何の余興かと思ったよ。まったく、2度目ともなりゃもう立つ腹もない。忘れてくれ。」
「お前、こんな事が前にもあったのか?!」
「あったから今ここに居るんだよ!でなきゃ今頃…」

今頃、どうなっていただろう。
ふと考えて、デイビッドはヴィオラの方を見た。
チョコレート色のくりくりした瞳が見上げて来る。

「今頃ヴィオラともこうしていられなかったのか…人生何が良いか悪いかわかんねぇな。」
「私は良かったですよ!?確かに良くはなかったけど、今幸せです!それで全部終わりにできます!デイビッド様に会えてそのくらい幸せになりました!」

そんな二人のやり取りを見て、今度はアザーレアの目が点になった。

「そう言えば…さっきからずいぶん可愛いお嬢さんがくっついているじゃないか…なぁ、まさかとは思うが、デイビィその…彼女は…」
「あの、私…こ、婚約者のヴィオラ・ローベルと申し…」
「お前、こんな可愛い子どっから攫って来た!?」
「なんで全体的にそこに行き着くんだよ!!極一般的な家同士のやり取りで決まった普通の婚約者だよ!!」

「何を以って一般的と?!」
「少なくとも普通ではないですわね。」
「それにしても、アザーレア様ですらデイビッド様の女性関係に関してはその認識なんですね。」

アザーレアは頭を抱えて考え込んでしまった。

「クソッ…兄になんと報告すればいい…」
「いらねぇよ!!あと10年くらいは放っとけ!」
「ラムダから帰るたびにお前の話を楽しみにしてるんだぞ…知らなかったではすまないだろう…」
「いい加減気持ち悪ぃ奴だな!まだ引きずってんのか?!」
「仕方ないだろう!?一世一代の一目惚れだったんだぞ?!」


「はいっ!その話詳しく聞きたいです!」
「手を挙げるなエリック!」
「あの…私も、今後の国交の参考に…」
「なるわけねぇだろ!!」
「気になりますわ!腰据えて聞きたい!」
「私も!」
「おい!!」
「よし!あそこの長椅子が空いてるな。」
「やめろっつってんのによ!」

嫌がるデイビッドを他所に、一同は歓談のスペースに移動し、アザーレアの話を聞くことになった。

「だったら先に渡すモン渡してからにしてくれ!」
「無粋な奴め。堅苦しい話は後ですれば良いものを…」

アザーレアは懐から細い筒を取り出すと、中から紙の束を引き出した。
魔法筒にすかさずシェルリアーナが反応したが、今は少し堪えてもらい、中身を受け取るとデイビッドは嫌そうな顔をしながら何処かへ行ってしまった。

「あ…」
「追わない方がいいぞ?アレは今から獲物を狩りに行く所だ。嫌な場面はかわいい婚約者に見られたくないだろうからな。」

アザーレアに引き止められて、ヴィオラは大人しくその場に留まった。
紅玉の様な瞳がヴィオラを写し、赤い唇がニッと弧を描く。
ドキドキしながらヴィオラの視線が泳いだ。

「実に愛らしい。そうか、良い出会いがあったようだな。アイツも遂に身を固めるのか…全く想像できんな!!ハッハッハッ!」

ヴィオラを気に入ったアザーレアは、そこからしばらくヴィオラの隣を占領し、反対側のシェルリアーナとの間に挟まれたヴィオラは、最強の女性陣を侍らせた猛者としてパーティーの後少しの間話題になったそうだ。
感想 5

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