黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

マッドネスな空間

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「……ふ…不発…?」
「条件が揃わなくて術が発動しなかったんだ…」

「ほら見てよ!僕の立てた仮説通りだったでしょ?!旧式の魔道具は体内の魔力か魔素に反応して発動するんだって!使用者の魔力伝導によるものじゃないんだよ!」

はしゃぐ魔道具マニア達の横で、デイビッドは極度の緊張から開放されてぐったりしていた。

「もうイヤだ…魔法系は頭のおかしい奴しか居ない…」
「ごめんよデイビッド君!僕が付いていながら…ねぇ、君達、終わったなら早くコレ外してあげてよ!」
「あ、ごめんね!今はずし…あれ?おかしいな…外れない?」
「は?!」
「あ!わかった。解除コードを入れるのに魔力が足りないんだ!」
「誰か解除できる人呼んでこよう!」
「あ!おい!?」

元凶達が勝手にどこかへ行ってしまったので、残されたデイビッドは手枷付きのまま、その場で待つより他なくなった。

「最悪だ……」
「あの…気を落とさないで!すぐ外してもらえるよ!それに、えーっと、ホラ!なかなか似合ってるよ?!」
「手枷が似合ってたまるか!!」
「うーん…相当強い魔力に当てないと解除できそうにないな…そうだ!シェルリアーナの魔力量なら解除できるかもしない!すぐ呼んで来るよ!」
「…最悪だ……」


その頃、隣の第七研究室の中では、イヴェットとシェルリアーナが騒ぐ男子達の声を聞いていた。

「外がずいぶん賑やかだね。」
「どうせ隣でしょ?いつものことじゃない。また変な魔道具でも試して失敗してるのよ。」

そこへ慌てた様子のエドワードが入って来た。

「シェルリアーナ!良かった居てくれて!すぐ来て欲しい、緊急事態なんだ!」
「今度は何事ですの?!」

シェルリアーナは溜め息をつくと、苛立った口調で席を立った。

「作業の途中にごめんよ。でも、本気で困ってるんだ!手を貸してくれないか?」
「わかったわよ!で?何がどうし…」

隣の研究室の戸を開けると、憔悴し切ったデイビッドと目が合う。

「何してんのアンタ!?」
「…後悔してる…」
「ちょっ…ヤダこれ旧式の軍用魔具じゃない!何考えてんの!変なもんで遊んでんじゃ無いわよ!!」
「怒らないで、シェルリアーナ。悪いのは彼じゃなくて、彼に手枷を掛けた奴等なわけで…」
「どうせ流されて言うこと聞いちゃったんでしょ?!他人にやすやす自分の腕差し出すバカがどこにいるのよ!?挙げ句手枷掛けられて、自業自得よ!次は首輪でも着けてやりましょうか?!」

シェルリアーナは一息にまくし立てると、気が抜けたように椅子に座り、手枷の留め具に手を掛けた。

「あぁ…これはダメね。コードが必要だもの。下手に弄ると二度と外れなくなるわ。魔力で上書きしようにも手順がいるタイプよ。」
「シェルにも無理か…」
「私だけならね。もう一人いるでしょ?変わり者が。ウチの研究室に。」
「ああそうか!リズを連れてくればいいのか!待っててくれ、直ぐに探してくる!」

飛び出して行くエドワードを見送ると、イヴェットもこちらへやって来た。

「ずいぶんと楽しそうな事してるじゃないか。僕も仲間に入れてよ。」
「コレが楽しそうに見えるか?」
「背徳的でそそられない?思わず鎖で繋いでみたくなるよ。」
「コイツじゃ絵になんないわよ!?」
「逃げ場が無い…」

しばらくしてエドワードがエリザベスを連れて戻って来た。

「えーウケる!なにコレ、サバトでも始めるの?」
「何言ってんのよ。普通、生贄はヤギか羊でしょ?」
「否定するとこ、そこか…」
「アハハ冗談よ!でもかなり頑丈な奴着けられちゃったね!古い魔道具は製作者の癖が強く出ることが多いの。手順を探るからシェリーは合図したら魔力ぶち込んで?」

エリザベスは、細い金具が何本も入った職人用の解除具を取り出し、手枷の留め具に差し込んだ。

「旧式の魔道具って、全部手作業で作られてて素材がいいからあんまり壊したくないのよ。また使えるように丁寧に扱いたいのよね!」
「拷問具に出番があったら世も末だろ!!」
「このずっしりした手応え、堪らないわよね?!着け心地はどう?この腕に当たる金具の曲線とか、セクシーじゃない?」
「やっぱここには変な奴しか居ねぇのか…」
「なんで私の方見ながら言うのよ!!言っとくけど、一番変な奴はアンタだからね?!」

エリザベスは、真剣な目付きで魔術式の組まれた金具をなぞっている。

「こういうのは単純な造りなだけに、開けるのは少し手間が掛かるのよ。腕、痛くない?」
「あぁ…なぁ、そんだけ魔道具が好きなら、なんで魔草学の方に来たんだ?」
「あー、先生と相性悪くて?ウチは代々魔道具師の家系でそさ。なんかある度に家の名前出されて嫌気が差しちゃって!その点ベルダ先生は課題さえすれば、あとは好きなことしていいし、卒論もテーマは自分で決めていいって言ってくれたから!」
「旧式魔道具の解除は相当な腕が無いと出来ねぇよ。ためらいなく手が出せる程の実力なら、どこも欲しがるだろうな。」 
「えー?アタシなんかは昔からただ好きで色々やって来ただけなんだけどなぁ…」
「一番重要な素質だろ?道具を見ればどれ程努力してきたかも分かる。リズなら腕の良い職人になれるはずだ…」

途端エリザベスの手が止まり、道具を手放すと立ち上がってはしゃぎ出してしまう。

「聞いた?!ヤバい!今のセリフこの3年間で一番嬉しかったぁ!やっぱ理解してくれる人いたじゃん!え?え?どうしよう!嬉しすぎて弾けそう!」
「まだ終わってねぇって!どっか行くな!!」
「…デイビッド君、エリザベスにはずいぶん興味をお持ちみたいだね…妬けちゃうよ?」
「なんか喋ってないと頭がおかしくなりそうなんだよ!この状態で平常心が保てると思うなよ?!」

なんとか引き戻したエリザベスに解除の続きをさせると、少しして魔針を3本差した隙間を指差した。

「ここ、この細いトコにビリっとお願い。なるべく高出力で、でも一瞬だけね。」
「わかったわ。」

シェルリアーナの指先から、銀色の光が一瞬弾けて魔針を通り抜けていく。

「イッテェェッッ!!」
「うるさいわね。静かにしなさいよ!」
「はい!外れたよ!?」
「うわ…腕、真っ赤になってるね。」
「魔力が少しはみ出ちゃった。ミミズ腫れみたいになっちゃったね。大丈夫?」
「ゼェ…ゼェ…手枷よりマシだ!」

急いで自分達の研究室へ戻り、作業に取り掛かろうとするがデイビッドは手が思うように動かなかった。
傷の裂けた所から血が滲んで来るので、絆創膏を探しているとエドが持って来てくれる。

「少し休みなよ。酷い目に遭ったんだから。」
「あぁ…」
「腕の傷…僕、診ようか?血が出てるよ?」
「いや…それよりお前…目の色おかしくないか?」

エドの青い瞳が見る間に紅く輝いていく。

「エドは吸血鬼ヴァンパイアの血統だもの。たまになるのよ。」
「サラッと言っていい話かそれ?」
「怖がらないで?!もう何十代も世代は経ってるし、吸血衝動だって無いよ?!普通に日中も活動してるでしょ?今はもう血統魔法がそっち寄りってだけだよ!ちょっと興奮すると目が赤くなるくらいで…」
「今、興奮する要素どっかにあったか?!」
「だってスゴいイイ匂いがするんだよ?!甘くて果汁たっぷりの果物みたいな…もちろん食べないよ?!食べないけど美味しそうだなとは思うでしょ?!かぶり付いたらどんな味がするのかなって、想像するくらいは誰でもあるよね?」

ヴァンパイアも古い血の血統だ。
昔は生命維持に鮮血が必要だったと言うが、世代を重ねた現代では滅多な事で血を求めたりはしない。
特殊な魔法の発動や、特別な儀式に提供された血を口にする程度だという。
吸血行為は相手との理解と合意と安全が成り立ち、緊急性や止むに止まれぬ事情がある上で、かつ秘匿が可能な状態でないと行われないものらしい。
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