黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

繁栄と代償

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宝飾品を扱っていたランドール家は、長年懇意にしていた買い付け先から締め出され、これからはかなり困窮する事だろう。
1年近く情報を集め、細い抜け道から少しずつ追い込んだ甲斐があったというものだ。
今後は家格が上で、頭を下げなければ商品が手に入らない所ばかりとのやりとりになるが、いつまで耐えられるか見物だ。

更にデイビッドの目的はもうひとつ。

散々人を馬鹿にし、終いには命まで狙ってくれた連中を表舞台から引きずり降ろすこと。
筆頭はさる公爵家と教会の関係者。
だが、動いているのが個人なのか家なのかはっきりせず、探りを入れている所だ。


テオは食後に香ばしい香りの発酵茶を淹れ、デイビッドに差し出した。

「あの、ところで、クーロンって名前の商会をご存知ですか…?」
「エルムの東国側から来てるとこだよな。扱いは確か酒と食料品と調味料と…あと生薬とカラン特有の魔道具の類だったか?数年前、ある公爵家が独占販売してた薬草をうっかり持ち込んで王都を出禁になったって話だったよな?」
「そこまで知ってましタか…実は私の婚約者の実家なんです。その一件以来ラムダへの参入は難しかったんですが、今回の騒動で例の公爵家が一線を退くかも知れなくて、それで…その…」

『 この機会にどこかねじ込めないか狙ってるって訳か…お前、始めからそれが狙いで俺んトコに来たな? 』

母国のそれも地元の言葉で話しかけられ、テオは観念したように両手を上げた。

『 敵いませんね。父は仕事の都合上中立の立場なので便宜が測れないんです。こんな好機逃したら次はもうないかもでしょ? 』
『 取引の条件は? 』
『 売上げの一部とかじゃダメですか? 』
『 金銭は止めとけ。他所に嗅ぎつけられて競合になった時泥沼になるぞ? 』
『 こちらの心配をしてくれるんですね…アザーレア様が勧めてくれる訳だ… 』
『 なんだよ紹介先があるんじゃ断れねぇじゃねぇかよ 』
『 なら生徒として相談した方が良かったですか、先生? 』
『 どの道交渉には来るつもりだったんだろ?絶好の機会だもんな。 』
『 もちろん。貴方だって婚約者のためなら何だってするでしょう? 』
『 その通りだよ!ったく…先方にこっちで育てられそうな生薬があったら種が欲しいと伝えてくれるか?それから、郊外地でよければ直ぐに拠点を用意すると話しておいてくれ。できたら薬の製法の一部も手に入れたいところだが…まぁそれは追々かな。そんなんで良ければグロッグマン商会の会頭に話を通しておくから、明日以降顔を出してみてくれ。俺に出来るのはここまでだな。 』

テオは急に立ち上がると、デイビッドの足元に片膝を付き、頭を下げ両手重ねて額に当てた。

「それ、古い宮廷挨拶だろ?」
「我が家は故カラン国の皇族の末裔なのです。エルムに仕えてはおりますが、亡き祖国の誇りを失ったことはありません。我等を受け入れて下さる心遣いとご恩に感謝を…」
「そういうの重いからいいや。」
「本当に変わってますね。」
「良く言われる。」


そこへパタパタと足音がしてヴィオラが現れた。

「ただいま戻りました!何かいい匂いがしますね!美味しい匂い!何か美味しい物食べました?私に内緒で!?」

寸胴鍋の中に揺れる黄金色のスープを見つけたヴィオラは、キラキラした目でデイビッドをみつめた。

「さっきの麺、まだありますよ?」
「流石に冒険過ぎねぇか?」
「冒険したいです!アリス様もアザーレア様もお城に呼ばれて、シェル先輩もそちらへ行ってしまったので私だけ帰って来たんです。私は王女様ではないので、どんな料理でも頂けますよ!ね?」

押し負けて鍋を火に掛け始めると、テオがニヤニヤしながら隣に立った。

「クーロン商会でも扱いましょうか?乾麺。まだこっちじゃ珍しいし、売れないから入れてませんけど。卸しますよ?」
「マジか…」

麺を茹でていると器が2つ出て来て、テオが何も言わず二杯目を要求してきた。
確かに後を引く美味しさがあり、また食べたくなる味だ。

「美味しいです!!パスタとも違ってツルツルした麺の喉越しが良いですね!シンプルなのに…ハフッ…スープが美味しくて…フゥフゥ…手が止まらない!」

『 先生の婚約者さん、めちゃくちゃ美味しそうに食べますね。 』
『 だろ?この顔見たさに料理してるようなもんだよ。 』
『 気持ちわかります… 』

「何のお話ですか?」

2人にじっと見られて、ヴィオラはきょとんとしながらフォークを動かしていた。
テオが箸を使って食べるのを不思議そうに見ながら、自分も真似してスープを飲み干していく。

「ぷはぁ!美味しかった!また食べたいです!」
「材料が手に入ったらな。」
「先に大使館に卸ろさせましょうか?良ければ学園に持って行きますよ?」
「マジかぁ…」

あっと言う間に昼食が終わり、他に用もないのでヴィオラとデイビッドは一足先に学園へ帰ることにした。

「私はもう少し父の仕事を手伝ってから帰ります。アザーレア殿下がお戻りになったらお伝えしておきますね。」
「ああ、頼む!」

馬車に揺られながらアザーレアの色に染められたヴィオラを見ていると、少しだけ対抗意識が出てしまう。
次は絶対に淡い優しい色合いのドレスを作らせようと、デイビッドは密かに決心した。


学園へ戻ると、まずは学園長へ報告があるためヴィオラを先に寮へ帰し、普段歩かない本舎の廊下を堂々と進み学園長室へ向かった。
丁度授業の合間だったため、大勢の目に晒されながら先にシモンズの元へ顔を出した。

「先生戻りました。」
「はいよ!次は無いと思いな!?」
「次あったら本気でこの学園ヤバいですよ。」
「毒物混入と監禁事件の後に暗殺未遂と冤罪だぞ?!既に最悪の事態なの自覚しろこの馬鹿が!!」

シモンズに蹴り出され、今度は学園長の部屋をノックするとそこにも意外な人物が待っていた。

「失礼します、デイビッドです。」
「おお、丁度良い入りなさい。」

ドア開けるとそこに居たのはアーネストだった。

「デイビッド!無事で良かった!!」
「アーネスト?!なんだお前、暇なのか?」
「な訳あるか!王都が荒れまくりで僕まで駆り出されてたんだぞ!やっと収拾が着きそうなんでここにも報告に来ただけだ!お前こそ、殺されかけた挙句陥れられかけたんだぞ?!もっと慌てろよ!!」
「大袈裟な奴だな。こっちも対策はしてたよ。シモンズ先生に予め相談はしてあったし、そもそもあの人俺の監視役だろ?」
「う…それは、その…」
「王家の目なのはとっくに知ってたよ。むしろ事情を知ってる人間がいて助かってたしな。今回もかなり迷惑かけちまった。」

アーネストは目の下に隈ができていて、眠れていないのが一目でわかる。

「なんだ寝不足か?」
「誰のせいだと思ってるんだよ!市井の経済情勢ひっくり返しやがって!貴族から苦情殺到で大変だったんだ!」
「もちろん蹴ったよな?ほとんど自業自得だろ?」
「蹴るにも名分とかが要るんだよ!おかげで僕まで出突っ張りだったんだぞ!?」
「人に変な土地押し付けるから罰が当たったんだろ?」
「押しつけたの僕じゃないのに!?」

デイビッドは学園長に簡易の報告書を渡すと、さっさと自室へ戻って行った。

「王太子に対してあの態度ってどう思います?アルフレッド先生!?」
「ジェイムス殿と陛下の時はもっと酷かったので、なんともですなぁ…」
「アイツ絶対いつか王命出してこき使ってやる!!」

アーネストの虚しい決意は果たして実行される日が来るのだろうか。


領地経営科の研究室棟は、相変わらずデイビッドの入っている所以外空っぽだ。
行き止まりの部屋を開けると、案の定カエルもどきとなったエリックが爆睡していた。

テーブルに溜まった手紙の束をひとつひとつ開きながら、やっと落ち着く場所に戻れた事に一安心して、デイビッドは少しの間うとうとと目を閉じた。
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