黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

アデラの王太子

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「デイビッド!よく来てくれでふっ!!」
「俺が一番キライな連中の祭りにご招待どうも…次はねぇぞ…?」

デイビッドに顔をつかまれたアーネストは、泣きそうな顔で何度も頷いていた。

「デイビッド様、どうか兄をお許し下さい。これは父の…陛下の一存で決定した事ですので、私達も困っているのです。」
「そ…その通りだデイビッド!だから先回りしてこちらへ囲わせて貰ったんだ…父上はお前を教会の式典のど真ん中でも平気で歩かせようと考えるからな。」

現国王は、デュロックを信頼しているのは良いが、何故か万能な存在だと信じて疑わず、時折こうして無理難題を押し付けたり、わざと茨の道を歩ませようとする。
するとなんとか問題の解決に当たり、茨を耕しなだらかな道に変えようと必死に動くものだから、それを国に貢献している、己の期待に応えようとしているのだと信じて疑わない節がある。

デイビッドの父ジェイムスは、元の性質と国王とは友人であった事もあり20年耐えたが、その息子が同じではない事を今の国王は理解していない。
皆に好かれ逸脱した頭脳とカリスマ性を持ち、常に人の上に立っていたジェイムスと、幼少期から針の筵に包まれ、人から蔑まれて生きて来たデイビッドでは、持ち合わせるものがあまりにも違い過ぎるという事に、この致命的な思い違いがまだ若い次代当主を苦しめ、追い詰めている事実に、国王は未だに気がついていなかった。


「そもそも今回、他国の王族を招待したのは教会の式典のためじゃないんだ。」
「教会の結界張り直しは余興みたいなものです。その後に、ラムダ、アデラ、キリフ、エルムの四大国の友好国間同盟の結び直しと、それぞれの国から重大報告があるので、そのための集会が目的なんです。」
「ちなみに私は式典の方は不参加だ!ここでヴィオラと甘い時間を過ごす予定だからな!」
「王族の権限乱用し過ぎだろ!」

そこへ、外からいつくも足音が聞こえてきてノックの音がしてドアが開き、アデラの王族とセルジオが入って来た。

「デイビッド!!来てるのか?!」
「ジャファル、静かにしていなさい。申し訳ありませんアザーレア様。」
「よいよい、カミールも久しいな!」
「あ、姉上…ご無沙汰しております…」
「おお!セルジオか、随分と様変わりしたな。良い眼をするようになった。ラムダでの学びはどうだ?!」
「このセルジオ、人の心というものを知りました…」
「そうかそうか!デイビィ、甘やかす必要は無い、今後もビシビシ鍛えてやってくれ!」

その時、豪快に笑っていたアザーレアの顔が一瞬真顔に戻った。

「セルジオ、時に…そちらのご令嬢は……?」
「紹介が遅くなりました。友人のディアナ姫様です。」
「お初お目に掛かります。アデラ国第二王女、アデラール・ディアナリア・ルプシアナと申します。どうぞディアナとお呼び下さい。」
「なんと愛らしい姫君だ。私はリオ・アザーレア・ボルカノフ。エルムの第二王女だ、よろしくな。」
「ご高名は兼々!憧れの殿下にお会いでき、身に余る光栄でございます!」

アザーレアはデイビッドとディアナを何度も見比べると、にっこりと親しげに挨拶し、おもむろにデイビッドの肩を掴んで部屋の隅へ連れて行った。

「後で話がある!」
「なんかヤバい事考えてそうで嫌だ!!」
「そう言うな!国を動かす重大案件かも知れんのだぞ?!」

アザーレアは興奮した様子でデイビッドの肩を揺さぶった。
ようやく解放されると。お次はアデラの兄妹達が群がって来る。

「デイビッド殿。実は先程から兄が会いたいと言っておりまして、部屋まで連れて来いと…」
「デイビッド、すまないが顔を見せてやってくれないか?兄上も楽しみにしているんだ。」
「サラムの奴か…面倒くせぇぇ…」

そう言うとデイビッドは嫌々な態度を隠しもせず、まだ着替えすらしていないまま廊下を出て一番大きな扉の部屋をノックした。
後ろからディアナに手招きされついてきたヴィオラは、他国の王太子に挨拶するという事で緊張の色が隠せずにいる。

「ドキドキします…」
「大丈夫ですよ。基本気さくであまり細かい事は気にしない性格な人ですから。」
「私共もおりますのでそう気負わず。」
「何か言われたら、ヴィオラの事は僕が守るから安心するといい!」


コココンコココンと独特なリズムのノックの後、デイビッドは大きなノブを回し扉を開けた。
中にはデイビッドと同じ色をした肌を、恥ずかしげもなく晒した高貴な服の若い男が、真っ白な姫君を隣に侍らせ、横柄な態度で足を組んでいた。

「おお!デイビッド、久し…」

言いかけた言葉を遮るようにドアが閉まる。

「よし、顔見たからもういいか。」
「2秒で終わり?!」
「流石にそれはないだろ!?」
「デイビッド殿、せめて言葉くらいは交わしてやって下さい!」

中ではサラムがドアを開けようと、必死にノブに食らいついていた。

「開けろコラァ!こちとら王太子だぞ!?不敬だ不敬ぃー!謁見2秒って何考えんだアホが!脳みそ溶けてんじゃねぇのか?!」

「相変わらず口の悪い…」
「あれでも他人の前ではそれなりに王太子してるんですよ。」
「むしろ人に舐められないよう、ワザと横柄に振る舞うものだから人嫌いの偏屈だと言われているんだ。」
「兄上は多重人格を疑われる程、相手によって態度が変わるんだよ。」

ガチャガチャとうるさいドアノブからパッと手を離すと、部屋の中から何かがすっ飛んでひっくり返る音と共にドアが開いた。

テーブルの角に頭をぶつけて悶える一国の王太子を他所に、進み出て来たのは白磁の人形かと思う程美しい女性だった。
真っ白な肌に長い銀の髪、アイスブルーの瞳にサクランボ色の唇はまるで雪の上に落ちた花弁のようだ。

「ご無沙汰しておりました。お久しぶりですね。お元気そうで何よりですわ。」
「1年振りだな。婚約おめでとう、まさかとは思ったけど、上手くやってるみたいで安心した。」
「ありがとうございます!デイビッド様も、ご婚約が叶ったとお聞きしましたが…」
「まぁ…一応、相手がまだ未成年なんで仮のままだけどな。」

デイビッドは大丈夫と言うように、ヴィオラに視線を送り隣へ呼んだ。

「まぁ!では、こちらが?!」
「紹介するよ…ヴィオラ・ローベル令嬢、今はまだ王立学園の生徒なんだ。」
「まぁ!まぁ!!本当に?!…デイビッド様に婚約者が…良かった…本当に良かった……」

シャーリーンは肩を震わせながらホロホロと涙を流した。
それを見てヴィオラは驚いて固まってしまう。

「あら…申し訳ありません、つい感極まってしまって…キリフ国、シャーリーン・キリフ・ニクスと申します。どうぞよろしく!」
「キリフ国の王女殿下に、ご…ご挨拶申し上げます、ラ、ラムダ国、ヴィオラ・ローベルと申します!」
「そう、アナタがデイビッド様の運命のお相手なのですね!?」
「う…運命…?!」
「お会いできる日を心待ちにしておりました!私の事はシャーリーンとお呼び下さいヴィオラ様!」

ヴィオラがドギマギしていると、横からまた荒っぽい声が飛んでくる。

「オイ!!なに人の婚約者泣かしてやがんだ!離れろこの豚野郎が!!」
「でっけぇ声出すなよ!相変わらず血の気の多い奴め…」

驚いて萎縮しかけるヴィオラを、シャーリーンがそっと引き寄せ、背中を撫でた。

「申し訳ありません。あの方も、普段はもっと大人しいのですが、今日はなにかとはしゃいでしまっていて…」
「い…いえ!!」
「初対面の女の子の前で声を荒げる不届き者には、少しお灸を据えないといけませんね。」

そう言ってシャーリーンがパチンと手を叩くと、氷の茨がサラムの身体を縛り付け吊り上げた。

「あ゙ぁっ!痛いっ!冷たいっ!!」
「少しは静かになさいませ。せっかく友人の婚約者とお会いできましたのに、すっかり怯えてしまわれたではないですか!どうなさるおつもりですの?!」
「ゴメン!ゴメンよ、シャーリーン!!」
「謝る相手が違いましてよ?」
「あ゙ーっ!!申し訳ありませんでしたレディ!!」

床にベチャっと落とされたサラムは、よろよろ立ち上がり改めてヴィオラの前で挨拶した。
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