黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

臨時収入

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道端で騒いでいるのも周りの迷惑なので、荷馬車は憲兵隊の詰所まで引いて行かれ、盗賊共を引き渡す事になった。
悪党の処分は最終的には国の機関に任される為、この方が手間が省ける。

憲兵隊も警戒していた盗賊が捕まったと聞き、直ぐに人相を確認すると、捕らえた8人の内3人が国からも懸賞の掛かった盗賊であると分かり、デイビッドはその場で金貨5枚分の大銀貨を渡された。

「懸賞金?!そんなに強ぇ連中だったのか?!」
「なんだい、あんたが倒したんじゃないのか?」
「俺が…ってより、俺の飼ってる魔物が倒したと言うか…」
「なんだ、あんたテイマーか?なら資格は充分だろ。」

軽く調書を取ると憲兵に敬礼され、もどかしいまま次はギルドで保護されているという商隊の方へ向かう。

ギルドの裏に荷馬車を着けると、裏口から転げるように初老の男性が飛び出して来た。

「にっ荷物が!荷物が無事だというのは本当ですか?!」
「落ち着いて下さい、まだ本当に貴方の物かどうかわからないんですから…」

従業員達に窘められながらそわそわしている男性の前に木箱を降ろすと、従業員達が目の前で蓋を開けていく。

「いかがですか?」
「ああ…間違いありません!私の大切な商品です!」
「証明できるものは?」
「お待ち下さい…仕入れの伝票がここに…」

男性が鞄の中から商品の目録を取り出して見せるのを、デイビッドもクセでチラッと覗いてしまった。

「あ、クレッセント商会の方でしたか。」
「はい、その通りですが…貴方は?」
「グロッグマン商会の関係者です。この度は本当にご無事で何よりでした。荷物はこれで全部ですか?」
「酒と食料はやられてしまいましたが、そんな物よりこれが戻って来ましたので、一安心です…」

思わず商売向きの対応をすると、男性も安心したようににっこり笑い、箱から取り出して見せたのは、瓶に詰められた灰色の石だった。

「これは…?」
「珍しい“雪の魔石”ですよ。」

男性がひとつ取り出して手の平に乗せると、たちまちその周囲に雪が降り出した。

「へぇ…こんな物があるなんて知らなかったな…」
「周りの水分を凍らせて雪に変えてしまうという物でして、キリフの古い坑道跡の奥で見つかったそうです。これは王家からのご依頼で、さるお方へお渡しせねばならない大切な預かり物でして…本当に戻って来てくれて良かった…この首もまだ切られずに済みそうです…ありがとうございました!」

男性は深々頭を下げると、他の手続きの為ギルドの中へと戻されて行った。

積み荷を持ち主に返せてほっとしたデイビッドは、そのまま帰ろうとして身体の向きを変えると、目の前に見覚えのある顔が立ち塞がっていた。

「あ、お前さん!騎士科の引率にいたあんちゃんじゃねぇか!?」
「あ…ヤバい…ギルド長か…」
「オイオイ!逃げるなよ!大活躍じゃねぇか!ほらこっち来い!お前さんにも話があるんだからよ!?」

デイビッドをギルドに引きずり込むと、ギルド長がニヤニヤしながら手を出して来た。

「聞いたぞ?お前さん、冒険者なんだって?しかもシルバー級の!ほら観念しろよ、さっさと出す物出しな!」
「チッ…どっから流れるんだよそういう情報は…」

本当にどこから流れたのやら。
銀色のプレートを乱暴に放ると、受け取ったギルド長は嬉しそうに装置に通し、デイビッドの名前を自分のギルドにも登録してしまった。

「シルバーなんざめったに来ねぇからよ!これで少しは箔が付くってもんよ!何か捕れたら今度こそウチに頼むぜ!?」
「こっちは目立ちたかねぇんだよ…ったく…」

返されたプレートには新しく5つ目のスクレープが打ち込まれ、あと半分で水晶クラスになってしまう。
(ま、流石にすぐには埋まらねぇけどな…)
この考えの甘さが後に何度自分に跳ね返って来た事か、デイビッドは未だに学習していない。

プレートをしまい、すぐにギルドを出ようとすると、更にカウンターから名前を呼ばれてしまう。

「デイビッド様。こちらで報酬をお受け取り下さい。」
「いや、金ならもう憲兵隊で貰ったぜ?!」
「そちらは国から出された手配書の懸賞となります。こちらは盗賊団の残党捕縛のためにキリフから出された報酬でございます。荷主からも追加が出ておりますので、お収め下さいませ。」
「えぇ…」

デイビッドは更に金貨3枚分と大銀貨7枚の報酬を受け取り、大勢の視線を集めながら急いでギルドから出ると、ムスタを連れて草地へ戻って行った。


(あれは…何してんだ?)
道中、道に生えた草を山羊に食べさせている子供の一団を見かけ声をかけた。

「よぉ!こんな所で放牧か?」
「こんにちわ!道の草むしりの代わりだよ。」
「根本まで食べてくれるから楽なんだ。」
「なるほど…その手があったか…」

あの雑草まみれの農村地帯も、山羊がいれば解決するかも知れない…そんなことを考えながら街道を外れ、何度か通った轍の跡を辿って行くと森が見えてくる。
漠然と広がる森林に呑まれた領地をぼんやり眺めていると、ある事に気がついた。
(……あんな木…あったっけ…?)

四方のどこからでも見えるのではないかと思われる程大きな木。
昨日までは無かったような気がする木…
こんもりと大きく広がった枝も、それを支える幹も、他の木とは比べ様もない程太くて立派な木。
(まさかな…)
思い当たる節に蓋をして、デイビッドはこれからの予定に集中する事にした。


「キュールルルールル!!」
「わかったわかった!連れてくから大人しくしてろよ!」

キャンプに戻ってムスタを離すと、一休みと言ったように木陰に寝そべってしまい、拗ねたファルコが代わりにデイビッドに甘えて来た。

昼用のサンドイッチをどっさり作り、バスケットに詰めて野営具を担ぐと、今日はファルコの背中に乗せて森の奥を目指して行く。

「行ってらっしゃ~い!」
「お前、本気で動かねぇ気か?!」
「ヤダなぁ、一番重要な拠点の見張り役ですよ?!ここのことは任せて、楽しんできて下さいな!」
「特等席陣取る猫みてぇ…」
「猫…っていうか、冬眠中のカエルなんじゃない?」
「一年中寝てんじゃねぇかよ…」

ヴィオラとシェルリアーナを連れて湖を目指し歩いていると、色々な物が見えて来た。
古い井戸、畑の跡、朽ちた家々、そして魔物の痕跡。
しかし、それについてシェルリアーナは疑問に思った。

「ねぇ、これだけ濃い魔素が湧いてるのに、魔物の数が妙に少なくないかしら…?」

更に言えば魔力の痕跡は残っているのに、魔物自体がすっかり姿を消してしまっている事が気になるようだ。

「あー…夕べ、アリーが駆け回ったから逃げちまったのかもな…」
「アリー…って、まさかここに来てるの?!」
「ベルダも一緒だから安心しろよ。」
「安心要素どこよ!?大丈夫なの?どんなに可愛くたってアリーは魔物なのよ?!」
「今は「ああ魔物だなぁ」って見た目してるよ…」

何にせよ魔物が寄って来ないのはありがたい。
今や獣道と成り果てた道を歩いて行くと、やがて蒼い湖が現れた。

「わぁぁ…キレイ!デイビッド様、砂辺があんなに白くて光ってますよ!?」
「確かに、湖にしちゃ砂が白いな。」
「あ!水の中で何か動きました!」
「魔物かも知れないから気をつけるのよ!?」
「デイビッド様!お魚いました!すっごい大きなお魚!」
「わかったよ。向こうの岩場から釣り糸垂らしてみる。ヴィオラはもう少しこっちにいるか?」
「はい!水に入ってみたいので、ここで遊んでます!」
「足が浸かる程度にしとけよ?!」

ファルコは水が苦手らしく、砂浜にすら入って来ない。
代りに湖の周りで草を食みながらバッタやトカゲを追い回している。
デイビッドが釣りの用意をすると、餌の虫まで食べようとして怒られていた。

「こーら!ダメだぞファルコ!あっちで遊んでろよ。」
「キュールルキュールル!」
「なんか取れたら分けてやるから、な?」

そう言うとファルコは大人しくデイビッドの横に座り込んだ。
久々に釣り竿を握ると、デイビッドはようやくのんびりとした時間を手に入れた事を実感した。
(ここ数年無かったな…こんな事ができる暇も時間も…)
少し離れた砂辺では、ヴィオラとシェルリアーナが冷たい水にはしゃぐ姿が見える。
デイビッドは手頃な石に腰掛けて、少しの間何も考え無くて良い贅沢に浸る事にした。
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