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第6話「三食昼寝付きは最高だけど暇すぎる」
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あぁぁぁぁーーーー暇だぁぁぁぁああ!!
夢の三食昼寝付き!お金の心配もゼロ!!最高のはずの生活!!
……と思っていたけれど、十日間も続けたらさすがに暇すぎる。
前世では、休みの日といえばジャンクフード片手にラノベを読み耽り、配信動画をエンドレス再生。
スマホをポチポチしながら気付けば寝落ち……それが定番だった。
なのに今は、それすら叶わない。
あぁぁ……読みかけのアイドルと作曲家の女子高生もの……!
二人の幸せを最後まで見届けられなかったのは、マジで一生の不覚。
……いや、死んでたわ私。
でも……待てよ。
ひょっとしてこの世界にも、普通に本ってあるんじゃ?
思い立ったが吉日。さっそく部屋付きの侍女に声をかける。
「ねぇ、本を読みたいんだけど、買いに行けたりしない?」
「屋敷内の図書館に無いものでしたら、お取り寄せの手配をいたしますが……」
「え!?図書館なんてあるの!?」
なんだよーーーー!!もっと早く教えてよーーーー!!
「どこ!?教えて!!」
「え!?お嬢様、そのお召し物では……」
「えーーー、家の中でしょ?大丈夫だって!」
図書館の存在を知った瞬間、いてもたってもいられない。
ベッドから飛び降り、ミュールを突っかけて部屋を飛び出す。
「お嬢様!お待ちください……!」
「せめて羽織物を……!」
「えぇ~~、めんどくさい~~。早く行きたいんだって!」
勢いよくドアを開け放つと、背後から侍女たちの悲痛な声が追いかけてくる。
「お嬢様、お身体が冷えてしまいます……!」
「そのままでは……どなたかにお目に留まれば……!」
あ……これ、もしかして私がちゃんとしないと、彼女たちが怒られるやつ……?
年の頃は20歳前後だろうか。
わがまま放題の私に付き従ってくれているのに、そのせいで叱られるなんて心苦しすぎる。
でも……ドレスは嫌だ!絶対に着替えたくない!!
風呂キャン勢と呼ばれようと、ネグリジェで過ごしたいんだ!!
「お嬢様……どうかケープだけでも……!」
ケープ……ケープかぁぁぁぁ……
「……まぁ、ケープくらいなら、いいけど?」
大きな両開きの扉が、重厚な音を響かせてゆっくりと開いた。
ふわりと漂ってきたのは、インクと革、そして紙が長い年月をかけて混じり合った独特の匂い。
「……うわぁ」
思わず息が漏れる。
目の前に広がるのは、まさに知の宮殿。
高い天井まで届く本棚がいくつも並び、金の縁取りが施された梯子が規則正しく掛けられている。
天窓から差し込む陽光はステンドグラスを透け、赤や青の粒子となって背表紙を照らし出す。
光に染まった本の列が、幻想的に輝いていた。
「ちょ、待って。これ……図書館ってレベルじゃなくない?いや、下手したら国立図書館よりすごい……」
圧倒的な光景に足がすくむ。
革装丁の分厚い学術書、魔導に関する古びた羊皮紙、歴史を記した年代記や緻密な地図。
さらには詩集や物語まで……まさに知の洪水だった。
なにこれ……一生籠もってても飽きないじゃん……!
震える指先で一冊を抜き取る。
ざらりとした紙の感触と共に、鼻をくすぐるインクの匂い。
ページを繰ると、見慣れぬ異世界の文字が不思議と脳に直接染み込むように理解できる。
歴史書……戦記……魔導書……
うん、確かに立派。立派なんだけど……私が求めてるのはさぁ!
両手を広げて棚から棚へと小走りで移動する。
慌てて侍女が後を追う。
「お嬢様、走ってはなりません!」
「いやいや!絶対あるでしょ!?
異世界ラノベ的な冒険譚とか!王子様との恋物語とか!絶対どっかにっ!」
目についた本を片っ端から取り出しては、ぱらぱらとめくる。
けれど出てくるのは、難解な数式や魔法陣の設計図ばかり。
「ちがーう!そういうアカデミックなのじゃなくて!」
もっと私をワクワクさせて!きゅんきゅんさせてみせろよぉぉぉ!!
半ば諦めかけた、その時。
重厚な革張りの背表紙が並ぶ棚の奥。
一角だけ、場違いなほど軽やかな装丁が目に入った。
そこだけ空気が違う。
軽そうな紙装丁の冊子がぎゅうぎゅうに押し込まれ、表紙にはキラキラしたタイトルや、剣と魔法を掲げる派手なイラスト。
『追放されたけど実は神に愛されてました?』
『悪役令嬢ですが田舎でスローライフさせてもらいます』
『異世界料理で世界を救う!』
……瞳がキラッキラに輝くのを自覚した。
「そうそう!これだよこれ!!」
「お嬢様っ!?」
叫びながら飛びつき、鼻息荒くページをめくる。
こういうのでいいんだよ、こういうので!!
えっと……これと、これと……あ、これ続き物!?
外伝まであるじゃーん!
「これ……部屋でゴロゴロしながら読みたい!!ねぇ!部屋に運んで!!」
気が付けば、侍女三人でも抱えきれないほどの冊子を積み上げていた。
「あと、もしこれ系の本、他にもあったら追加してもらえる?」
ベッド脇には、山と積まれた本。
その隣には、美味しそうなお菓子の数々。
クッキーに、パステルカラーのマカロン。
ワンハンドで食べられるサイズのタルトや、瑞々しい果物の盛り合わせ。
あぁぁぁあ!最高!!
もう一生ベッドから出られる気がしない。
欲を言えば……もうちょっと塩味のあるお菓子。
ぶっちゃけ、つまみとお酒が欲しい。
なんなら、キッチンを借りて自分で作っちゃうのもアリだよな~……なんて、にんまり考えていたその時。
「お嬢様、本日のご夕食はご一緒にと旦那様が」
「え!?」
マジか!!!
目を覚ましてからこれまで、体調優先だと自室での食事ばかりだった。
けれど、いつかは来ると思っていた。……アリエルの両親との食事。
アリエルにとっては実の両親。
だけど…私にとっては出会って10日のおじさんとおばさんなんだよな。
簡単に『親だ』と割り切れるわけがない。
「今、この本めちゃくちゃ良いところなんだけどーーーー!!」
そもそも、さんざんお菓子をつまんでしまって、もうお腹はぱんぱん。
ベッドから一歩も動きたくない。
このまま毛布にくるまって、ダラダラ寝落ちしてしまいたいのに。
「お洋服などは、軽装のドレスで……とのことです」
私の返事を待つ間もなく、侍女たちはワンピースを何着も抱えてやって来た。
……これはあれか。断ることが許されないパターンだな。
まぁ、彼女たちの雇い主は私じゃなくて両親だし、命令には逆らえないよね。
持ち込まれたドレスは、色とりどり。
しかもすべて私の体にぴったり合わせて仕立てられている。
模様も刺繍もデザインも、どれひとつとして同じものは無い。
一目で『これは一点物のオーダー品だ』とわかるような出来栄えだった。
「どちらにいたしましょうか?」
……どちらにと言われてもさぁ。
目が覚めてからずーーーーっとネグリジェ生活なんだよ?
今さら他の服に着替えるなんて、正直したくないんだよな……
だってこのネグリジェだって、めちゃくちゃ可愛いんだよ!?
毎日毎日、違うデザインが出てくるのには感心していたくらい。
レースやリボン、色合いも全部可愛くて、これで行ける気しかしない。
……ダメかな?ダメだよね?やっぱり。
「えっと……全部お任せ!で!」
観念してそう告げると、侍女たちはすぐにお風呂の支度を始めた。
この『徹底したお世話』だけは、ダラダラ生活に慣れた今でも全然慣れない。
花びらを浮かべた広い湯船に浸かり、身体の隅々まで磨かれ、香油を丁寧に塗り込まれる。
最初は『エステ気分で最高!』って思ってたけど……もうそろそろ一人で本でも持ち込んで半身浴したいんだが!?
夢の三食昼寝付き!お金の心配もゼロ!!最高のはずの生活!!
……と思っていたけれど、十日間も続けたらさすがに暇すぎる。
前世では、休みの日といえばジャンクフード片手にラノベを読み耽り、配信動画をエンドレス再生。
スマホをポチポチしながら気付けば寝落ち……それが定番だった。
なのに今は、それすら叶わない。
あぁぁ……読みかけのアイドルと作曲家の女子高生もの……!
二人の幸せを最後まで見届けられなかったのは、マジで一生の不覚。
……いや、死んでたわ私。
でも……待てよ。
ひょっとしてこの世界にも、普通に本ってあるんじゃ?
思い立ったが吉日。さっそく部屋付きの侍女に声をかける。
「ねぇ、本を読みたいんだけど、買いに行けたりしない?」
「屋敷内の図書館に無いものでしたら、お取り寄せの手配をいたしますが……」
「え!?図書館なんてあるの!?」
なんだよーーーー!!もっと早く教えてよーーーー!!
「どこ!?教えて!!」
「え!?お嬢様、そのお召し物では……」
「えーーー、家の中でしょ?大丈夫だって!」
図書館の存在を知った瞬間、いてもたってもいられない。
ベッドから飛び降り、ミュールを突っかけて部屋を飛び出す。
「お嬢様!お待ちください……!」
「せめて羽織物を……!」
「えぇ~~、めんどくさい~~。早く行きたいんだって!」
勢いよくドアを開け放つと、背後から侍女たちの悲痛な声が追いかけてくる。
「お嬢様、お身体が冷えてしまいます……!」
「そのままでは……どなたかにお目に留まれば……!」
あ……これ、もしかして私がちゃんとしないと、彼女たちが怒られるやつ……?
年の頃は20歳前後だろうか。
わがまま放題の私に付き従ってくれているのに、そのせいで叱られるなんて心苦しすぎる。
でも……ドレスは嫌だ!絶対に着替えたくない!!
風呂キャン勢と呼ばれようと、ネグリジェで過ごしたいんだ!!
「お嬢様……どうかケープだけでも……!」
ケープ……ケープかぁぁぁぁ……
「……まぁ、ケープくらいなら、いいけど?」
大きな両開きの扉が、重厚な音を響かせてゆっくりと開いた。
ふわりと漂ってきたのは、インクと革、そして紙が長い年月をかけて混じり合った独特の匂い。
「……うわぁ」
思わず息が漏れる。
目の前に広がるのは、まさに知の宮殿。
高い天井まで届く本棚がいくつも並び、金の縁取りが施された梯子が規則正しく掛けられている。
天窓から差し込む陽光はステンドグラスを透け、赤や青の粒子となって背表紙を照らし出す。
光に染まった本の列が、幻想的に輝いていた。
「ちょ、待って。これ……図書館ってレベルじゃなくない?いや、下手したら国立図書館よりすごい……」
圧倒的な光景に足がすくむ。
革装丁の分厚い学術書、魔導に関する古びた羊皮紙、歴史を記した年代記や緻密な地図。
さらには詩集や物語まで……まさに知の洪水だった。
なにこれ……一生籠もってても飽きないじゃん……!
震える指先で一冊を抜き取る。
ざらりとした紙の感触と共に、鼻をくすぐるインクの匂い。
ページを繰ると、見慣れぬ異世界の文字が不思議と脳に直接染み込むように理解できる。
歴史書……戦記……魔導書……
うん、確かに立派。立派なんだけど……私が求めてるのはさぁ!
両手を広げて棚から棚へと小走りで移動する。
慌てて侍女が後を追う。
「お嬢様、走ってはなりません!」
「いやいや!絶対あるでしょ!?
異世界ラノベ的な冒険譚とか!王子様との恋物語とか!絶対どっかにっ!」
目についた本を片っ端から取り出しては、ぱらぱらとめくる。
けれど出てくるのは、難解な数式や魔法陣の設計図ばかり。
「ちがーう!そういうアカデミックなのじゃなくて!」
もっと私をワクワクさせて!きゅんきゅんさせてみせろよぉぉぉ!!
半ば諦めかけた、その時。
重厚な革張りの背表紙が並ぶ棚の奥。
一角だけ、場違いなほど軽やかな装丁が目に入った。
そこだけ空気が違う。
軽そうな紙装丁の冊子がぎゅうぎゅうに押し込まれ、表紙にはキラキラしたタイトルや、剣と魔法を掲げる派手なイラスト。
『追放されたけど実は神に愛されてました?』
『悪役令嬢ですが田舎でスローライフさせてもらいます』
『異世界料理で世界を救う!』
……瞳がキラッキラに輝くのを自覚した。
「そうそう!これだよこれ!!」
「お嬢様っ!?」
叫びながら飛びつき、鼻息荒くページをめくる。
こういうのでいいんだよ、こういうので!!
えっと……これと、これと……あ、これ続き物!?
外伝まであるじゃーん!
「これ……部屋でゴロゴロしながら読みたい!!ねぇ!部屋に運んで!!」
気が付けば、侍女三人でも抱えきれないほどの冊子を積み上げていた。
「あと、もしこれ系の本、他にもあったら追加してもらえる?」
ベッド脇には、山と積まれた本。
その隣には、美味しそうなお菓子の数々。
クッキーに、パステルカラーのマカロン。
ワンハンドで食べられるサイズのタルトや、瑞々しい果物の盛り合わせ。
あぁぁぁあ!最高!!
もう一生ベッドから出られる気がしない。
欲を言えば……もうちょっと塩味のあるお菓子。
ぶっちゃけ、つまみとお酒が欲しい。
なんなら、キッチンを借りて自分で作っちゃうのもアリだよな~……なんて、にんまり考えていたその時。
「お嬢様、本日のご夕食はご一緒にと旦那様が」
「え!?」
マジか!!!
目を覚ましてからこれまで、体調優先だと自室での食事ばかりだった。
けれど、いつかは来ると思っていた。……アリエルの両親との食事。
アリエルにとっては実の両親。
だけど…私にとっては出会って10日のおじさんとおばさんなんだよな。
簡単に『親だ』と割り切れるわけがない。
「今、この本めちゃくちゃ良いところなんだけどーーーー!!」
そもそも、さんざんお菓子をつまんでしまって、もうお腹はぱんぱん。
ベッドから一歩も動きたくない。
このまま毛布にくるまって、ダラダラ寝落ちしてしまいたいのに。
「お洋服などは、軽装のドレスで……とのことです」
私の返事を待つ間もなく、侍女たちはワンピースを何着も抱えてやって来た。
……これはあれか。断ることが許されないパターンだな。
まぁ、彼女たちの雇い主は私じゃなくて両親だし、命令には逆らえないよね。
持ち込まれたドレスは、色とりどり。
しかもすべて私の体にぴったり合わせて仕立てられている。
模様も刺繍もデザインも、どれひとつとして同じものは無い。
一目で『これは一点物のオーダー品だ』とわかるような出来栄えだった。
「どちらにいたしましょうか?」
……どちらにと言われてもさぁ。
目が覚めてからずーーーーっとネグリジェ生活なんだよ?
今さら他の服に着替えるなんて、正直したくないんだよな……
だってこのネグリジェだって、めちゃくちゃ可愛いんだよ!?
毎日毎日、違うデザインが出てくるのには感心していたくらい。
レースやリボン、色合いも全部可愛くて、これで行ける気しかしない。
……ダメかな?ダメだよね?やっぱり。
「えっと……全部お任せ!で!」
観念してそう告げると、侍女たちはすぐにお風呂の支度を始めた。
この『徹底したお世話』だけは、ダラダラ生活に慣れた今でも全然慣れない。
花びらを浮かべた広い湯船に浸かり、身体の隅々まで磨かれ、香油を丁寧に塗り込まれる。
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