転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風

文字の大きさ
7 / 55
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

第7話「婚約破棄の正式発表は食卓で」

しおりを挟む
されるがまま身体を拭かれ、ふわふわのタオルに包まれて椅子に座らされる。
そして髪を乾かしてもらっているとき、ふと気付いた。

あれ……?これ、ドライヤーじゃないよな?
侍女の手から、自然に温かい風が髪を吹き上げている……

「ねぇ?それ、魔法ってやつ……?」
「?はい?」
「うわーーー!!見せて見せて??」

興奮して彼女の手に触れてみる。
確かに出てる。ほんのり暖かい風が。

「私は魔法が使えないので、魔法石の力をお借りしているんです」

魔法石?

説明によれば……
魔法は誰でも使えるわけではなく、適性のあるなしで分かれるらしい。
明かりを灯す、風を起こす、お湯を温めたり逆に冷やしたり。
そういう生活に密着した簡単な魔法なら、庶民でも適性さえあれば扱える。
でも使えない人のために、魔力を込めた『魔法石』というものがあって、それを媒介にすれば誰でも効果を得られるのだとか。

彼女の手首に光るブレスレットも、その魔法石でできているらしい。
そこから発せられる力で、今まさに天然ドライヤーのような効果を生んでいるわけだ。

……ナニコレ?宝具?チートアイテムなの???

「王家の方などは、とても強い魔力を持たれているそうですよ」
「え~~すごい!私も使えるようにならないかな~~」

興奮して両手を前に突き出し、それっぽく力を込めてみる。

「んっ……!」

……当然、何も出るわけがない。

「……出るわけないっか!!」

でも、魔法かぁ……
やっぱり一度はこの目で見てみたい。
できれば、あの……中二病心をくすぐるような、意味あるんだかないんだかわからない詠唱付きで!
長い呪文を唱えたあとに、ドカーン!って火の玉とか飛んでったら最高じゃん!?

しかも、それが詠唱破棄とかいう必殺技でバシッと決まったら、もう鳥肌モノ!!
あぁ、さらに声がイケボだったら……うわぁぁぁ!私、絶対惚れる!!

服に合わせた上下お揃いの下着まで、侍女の手によってきっちり身につけさせられる。

ここまで、私が自分で動かした身体って、湯船を跨ぐときに足を上げたのと、下着を履くときにちょっと足を上げて両手を広げたくらいだからな!?
何か物を落とそうものなら、秒速で侍女が飛んできて拾ってくれる。

マジ貴族半端ない。
本当に一切、自分で何もしない。

侍女が選んだ綺麗なドレスに袖を通す。
胸元には無数のレースが重なり、薄い緑の布地にピンクがかった金髪がふわりと映える。
髪は軽く結い直され、繊細な髪飾りが差し込まれる。

「お嬢様、お顔のお色を調整させていただきますね」

そう言われたけど。
いやいや、そもそも素の状態でびっくりするくらい肌のキメも血色も良いんですけど!?
それでも、ほんのり頬にチークを乗せられ、唇に艶を加えられる。

「とてもおきれいです!」

……いや、マジで完全同意。
これだけの薄化粧でこの完成度、素材力がバグってる。
やっぱり睡眠の質がめちゃくちゃ良いからなのか?
連日そこそこ自堕落な生活を送ってるのに、吹き出物ひとつ出てないし。
16歳のアンチエイジング力とターンオーバー力、恐るべし。

アリエルが学園であんな目に遭ったのは、公爵令嬢という身分ももちろんだけど、この見た目も大きな理由の一つなんだろうな。

記憶の中のリリアナを思い出す。
どう見ても『か弱い』って印象のリリアナ。

座り込んで泣いているリリアナの隣に、堂々と立つアリエル。
その構図だけで『アリエルが何かしたんじゃないか』と思い込む者が大半になる。
見た目が良すぎるせいで、不遇を被る。そんな馬鹿な話。
でも現実にあるのが世の中なんだよな……

「お嬢様、お食事のお時間でございます」

深々と頭を下げる侍女に促され、そのまま長い廊下を進む。

高い天井。大きな窓。
窓の外は既に暗闇に沈んでいるのに、計算された照明が広大な庭園を浮かび上がらせる。
壁を彩る調度品や絵画、精巧な装飾……どれもがクローバー家の豊かさと権威を誇示していた。

ずっと部屋に籠もっていたから気付かなかったけど……さすが公爵家、広すぎ。
もうどれだけの部屋を横切って、どれだけの角を曲がったか覚えてない。
正直『案内なんていらないでしょ』って思ってたけど、全然無理だわ。
自宅なのに迷子コースまっしぐら。
29歳にもなって『おうち帰れない』って泣きそうになるとか、マジでホラー。

そして今から、貴族のコース料理ですか。

鳥の方の『貴族料理』にはよくお世話になってたけど、ガチのフレンチフルコースなんて、人生で数えるほどしか食べたことないんですけど!?

いや、言うてもね、私だって29歳。コース料理くらい経験はあるさ。
友達の結婚式でだけどね!!!!

ナイフとフォークの順番って、外側からで合ってたよね……?

肉の焼き加減って指定できるんだろうか。
レアとか半生っぽい肉は正直あんまり好きじゃないんだよな。
医者目線で考えると、火が通ってない肉って寄生虫とか細菌リスクが頭をよぎって不安になるし。

よし、できれば『ウェルダンで』って言いたいけど、果たしてこの世界のマナー的に通じるのか?

食堂に通されると、長いテーブルの奥に父と母はすでに着席していた。
天井のシャンデリアの光が煌々と照らし、まるでドラマのワンシーンのよう。

うわ、なんかドラマでしか見たことないシチュエーション。

「アリエル、今日は顔色も良さそうね」

母の声に促され椅子を引かれる。
座ると、父が軽く頷き、重厚な声で告げた。

「では、始めよう」

執事の合図と共に、静かに扉が開く。
白手袋をした給仕が一礼し、流れるような所作で次々と皿を運んでくる。

最初に置かれたのは、小さな白い皿。
薄く切られた燻製の鴨肉に、鮮やかな木苺のソースが添えられていた。

おお、めちゃくちゃ美味しそう。

続いて、透き通ったコンソメスープ。
琥珀色の液体の中、小さな野菜が宝石みたいにきらめく。

え、これ……家庭の鍋とは完全に別物なんですけど!?

焼きたてのパンが銀のバスケットに盛られ、香ばしい香りが漂ってきた。
さらに、淡水魚を使った前菜。白身の上にはキャビアのような粒が輝いている。

ちょっと待って。
貴族のコースって、これ全部食べきれるの?

さっき自室で、あんなにお菓子つまんじゃったんですけど!?
私、すでにお腹パンパンなんですけど!?

その後も料理はテンポよく進む。
サラダ。魚料理。そして……肉料理へ。

鹿肉のロースト。
切り分けられた断面は、鮮やかな赤を残したレア。
芳醇なソースの香りと香草の匂いが立ち上り、空腹中枢を刺激してくる。

いやいやいや!これ、大丈夫なの!?
中心ピンクどころか、ほぼ赤いよ!?
この世界の衛生観念とかどうなってんの!?
寄生虫検査とか、細菌培養検査とか、絶対無いよね!?
医者やってた人間からすると、一番落ち着かないタイプの肉なんだけど!?

……食べるしかない、のか……?

父がナイフとフォークを静かに置いた。
その低い声が、広い食堂に響き渡る。

「……アリエル。ルシアン殿との婚約は、正式に破棄された」

一瞬、胸の奥がひやりと冷える。
え、今さらっと重大発表しなかった!?
このフルコースの途中で!?

ていうか、『この場で婚約破棄してやる!』って叫ばれた記憶だったけど……
実際には即時破棄じゃなく、正式な手続きが必要なのか。

母が優しく微笑む。

「これで、あなたは自由よ。もう気に病むことはないわ」
「……はい。ありがとうございます」

……良かったな、アリエル。
少なくとも、おまえの両親は、ちゃんと味方だ。

父が続ける。

「それと、陛下からお見舞いも頂いていたからな」

陛下?ってことは、王様!?

「明日辺り、お礼にアリエルも同席しなさい」

は?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

気付けば名も知らぬ悪役令嬢に憑依して、見知らぬヒロインに手をあげていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
私が憑依した身体の持ちは不幸のどん底に置かれた悪役令嬢でした ある日、妹の部屋で見つけた不思議な指輪。その指輪をはめた途端、私は見知らぬ少女の前に立っていた。目の前には赤く腫れた頬で涙ぐみ、こちらをじっと見つめる可憐な美少女。そして何故か右手の平が痛む私。もしかして・・今私、この少女を引っ叩いたの?!そして何故か頭の中で響き渡る謎の声の人物と心と体を共存することになってしまう。憑依した身体の持ち主はいじめられっ娘の上に悪役令嬢のポジションに置かれている。見るに見かねた私は彼女を幸せにする為、そして自分の快適な生活を手に入れる為に自ら身体を張って奮闘する事にした―。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ

夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」 華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!

断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。 (ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい

ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26) 鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。 狭い個室にはメイド服がかかっている。 とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。 「この顔……どこか見覚えが……」 幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。 名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー) 没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。 原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。 「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」 幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。 病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。 エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18) 全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。 タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。

処理中です...