転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風

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転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

第5話「悪役令嬢の婚約破棄」

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「これ以上、リリィを追い詰めないでくれ」

……予想もしなかった言葉に、頭の中が一気に混乱する。

追い詰める……?わたくしが?リリアナ嬢を?

「仰っている意味が……」
「気が付いてるだろうが、僕の心が君に戻ることは無い」

……あんな光景を見せられて、わたくしがルシアン様の心を求めるなど、有り得ないのに。

「できれば穏便に済ませたいと思っている」
「……あの……」
「二度とリリィに近付かないでくれ」

どういうこと?
わたくしから近付いたことなど、一度たりとも無かったのに。

「優しいリリィは全て許すと言ってくれている」
「……リリアナ嬢から許されるようなことをした覚えは無いのですが」
「君はまだ認めないのかっ!」

怒声が中庭に響き渡る。
青空の下、夏の陽射しさえ冷たく感じられるほど、心は凍りついた。

話の意味がわからない。
ルシアン様が何を伝えたいのか……わたくしに、いったい何を言わせたいのか。

「他の男性と関係を持っていることも、口外するつもりはない」
「!!ルシアン様!それは、ご自身の発言の意味を理解して仰っているのですか?」

胸の奥が一瞬で凍りついた。
婚約者でさえ、婚姻前に関係を持つなど、貴族としては醜聞以外の何物でもない。
それなのにこの方は……自分は既にリリアナ嬢と男女の仲にあると、誰もが知っているというのに。
どこまでわたくしを貶めれば気が済むのか。

「君が認めなくても……いずれ事実は明らかになる」

この人は、わたくしにまでそんな嫌疑をかけるのか。
心が削られていく。

「……婚約破棄の件は、折を見て僕からクローバー家に申し込ませてもらう」

くだらない。本当にくだらない。
ルシアン様は、かつてこんな顔をなさっていただろうか。
あまりにも久方ぶりに見るその表情に、以前はどんな面差しを向けてくださっていたのか、もう思い出すことすらできない。

「……お話は以上でしょうか?わたくし、次の予定がございますので、これで失礼いたします」

軽蔑を隠さずに視線を突きつけ、その場を立ち去る。
12年間も婚約を結んでいたのに、終わりはあっけなく、冷たく。
一時は心からお慕いしていたはずの人が、今はただただ矮小にしか映らなかった。

中庭を抜け、廊下へ。
階段に差し掛かったその時……まるでタイミングを狙っていたかのように階段を上ってくるリリアナとすれ違う。

よりにもよって。
ルシアン様に未練など一片も残っていない。
それでも、今この瞬間だけは会いたくなかった。

「アリエル様♡」

やはり、ルシアン様とどんな会話をするのか。事前に聞いていたのだろう。
こちらが答えぬことを愉しむかのように、まるで喜びを隠しきれない声音で話しかけてくる。

「アリエル様がいけないんですよ?早くルシアン様を解放して差し上げればよかったのに」

下卑た笑みがぞわりと心を撫でる。
この女の言葉に、これ以上耳を貸すだけ無駄だ。
胸の奥にざらつきばかりが残るだけ。

無視して通り過ぎようと、階段を数段降りた……その瞬間。
リリアナが唐突に腕を掴み、甲高い声で叫んだ。

「止めてください!!アリエル様っ!!!」
「は?……ちょっ……離し……」
「何をしているんだ!!!」

遅れて廊下に現れたルシアンの声が響く。
だが段差と二人の身長差のせいで、ルシアンからはリリアナがアリエルの手を掴んでいる様子は見えない。

「助けてくださいっ!ルシアン様っ!!」
「アリエル!温情をかけてやったのに!!お前など今この場で婚約破棄してやる!!!」

一瞬の静寂。
ふとリリアナに目を落とすと、口元が確かに歪んだ。
その刹那、ものすごい力で腕を引かれ、階段から足を踏み外す。

すべてがスローモーションのように流れた。

廊下に差し込む光の中で、その場に座り込んだリリアナのもとへ駆け寄り抱きしめるルシアン。
遠くからは歩いてくる誰かの話声が聞こえる。
視界に映るその光景に、思わず右手を伸ばす……誰も取ってくれないとわかっていながら。

次の瞬間、石造りの階段を何十段も転がり落ちる。

「なんだ!?すごい音がしたぞ!」
「誰か倒れている!!!」

身体が……痛い。指先ひとつ動かせない。

薄れゆく意識の中で、元婚約者に抱かれながら満足そうにほくそ笑むリリアナを見つめる。
最後に目にする光景がこれだなんて……
絶望に囚われながら、アリエルはそっと瞳を閉じた。

……29歳で死んだ私だけれど、少なくとも友人には恵まれていた。

センター直前にインフルエンザで倒れたとき、グズグズ泣く私を『涼子なら大丈夫!』と励ましてくれた。
大学に受かった日には、みんなで手を取り合って私以上に泣いてくれた。
仕事柄、忙しくてろくに連絡もできなかった私を、それでも遊びや飲み会にマメに誘い出してくれた。

……あ、ヤバい。向こうの私は、もう死んでるんだよな。
親にも友達にも二度と会えない。そう思うと、実感が押し寄せて涙が込み上げる。

アリエルには……そんな友人が一人もいなかったんだな。

もったいない。こんなにいい女なのに。
私だったら、絶対にお前の友達になった。
こんなに綺麗で、努力家で、人を傷つけることを嫌う人。
男に生まれていたら、間違いなく惚れていた。

もし日本に生まれていたら、どれほどモテて、人生だってきっとイージーモードだったのに。

「……お前みたいな純粋な女に、あんな男、似合うわけないだろ」

誰に聞かせるでもなく、ただぽつりと呟いた。

時を同じくして……

宮殿内の庭園。
色とりどりの花が咲き乱れ、緑の香りを運ぶ風が心地よく吹き抜ける。
清らかな空気に包まれながらも、二人の男性は真剣な面持ちで人目を避けるように会話を続けていた。
鳥のさえずりと噴水の水音が、まるで二人の声を覆い隠すかのように響き渡る。

「気持ちは変わらんのか?」
「はい」
「……もう、12年になるか」

……12年前。
この場所で、初めて彼女と出会った。

大人たちが必死に探し回っているのが、この幼い少女だと気付いた瞬間。
思わず声をかけたが、本人は迷子になっていることすら自覚していなかった。
フラフラと蝶を追いかけたり、ガゼボのベンチに腰掛けては足をぶらつかせたり。
木に登ろうとして盛大に尻もちをつき、泥で裾を汚したり。
自由気ままに散策する姿に、幼いながら心配で目が離せなかった。
気付けば、両手いっぱいに花を抱え……その無邪気な笑顔に胸を撃ち抜かれていた。

「きれい!」

逆光の中、花びらが無数に舞い散る。
その光の粒子の中で、4歳の少女はにっこりと笑った。
どんな大輪の花も霞むほどの光景に、幼い少年はただ見とれて立ち尽くした。

「ただ……あれが黙ってないぞ」
「……覚悟の上です」

あの時の情景は、12年を経た今も瞼の裏に鮮やかに焼きついている。
幾人もの令嬢と会い、幾度もダンスを踊った。
けれど彼女の手を引いた時の温もりを、未だ忘れられない。
忘れようと思っても、些細なきっかけで思い出してしまう。
気が付けば、心はいつも彼女に引き戻されていた。

……今度こそ。
固く握る手に、決意を込める。
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