婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊

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第二部 辺境の地

第8話 勇者レオン

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辺境領の浄化が終わって数日。
村人たちが少しずつ元気を取り戻しはじめたころ――

村の入口で、見慣れた気配がした。

馬を降りた青年が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
傷だらけの旅装。
だが、その瞳だけは変わらない。

「……レオン?」

私が呟くと、彼はようやく息をついたように微笑んだ。

「エリシア。無事だったんだな」

次の瞬間、膝が崩れそうになるほどの安堵が胸に落ちる。

彼は隣国アルヴェルの第三王子。
魔王戦では何度も連携し、命を預け合った“相棒”。

そんな彼が――なぜここに。

「どうして……辺境まで?」

問いかけると、レオンは少し視線を落として言った。

「王宮で、俺の居場所はもうなかった」

淡々とした声。
しかし、言葉の奥に深い痛みがある。

「兄たちは俺の帰還を“失敗”と受け取った。
 民が俺を支持するのが気に入らないらしい。
 そもそも……魔王討伐に行かされた時点で察すべきだったんだが」

彼は自嘲気味に笑う。

「王族ってのは、強すぎる存在を許さない。
 だから――追われるようにして出てきた」

エリシアの胸が少し痛む。
自分と同じだ、と気づいたからだ。

レオンは、私をまっすぐ見た。

「それで……他国の聖女が婚約破棄されて辺境送りにされたって噂を聞いた。
 誰のことか、すぐ分かったよ」

その声は静かで、決意に満ちていた。

「行ける場所は……君の隣だけだった」

心臓が、一瞬だけ跳ねた。
けれど恋ではない。
まだ、そこまで踏み込まない。

ただ――
彼がここへ来た理由は、痛いほど伝わってくる。

私は歩み寄り、真剣な声で言う。

「ここは、あなたを拒まないわ。
 あなたを追いやる人もいない」

レオンは、ほっとしたように目を細めた。

「なら……少し休ませてくれ」

「もちろん。あなたは、ずっと戦ってきたもの」

ミアが駆け寄り、レオンにタオルを渡す。

「レオン様、おかえりなさいませ!」

「ミア、強くなったな。声に余裕がある」

やり取りを見て、思う。

この場所は、私だけの居場所ではない。
旅でつながった仲間が、
再び帰ってこられる場所でもある。

レオンは深く息を吐いた。

「ここなら……もう一度、やり直せる気がする」

私は頷いた。

「ええ。あなたの力が必要になるわ」

風が吹き、二人の間をやさしく通り抜けた。

――これは恋ではない。
けれど、恋よりも先に築かれる“絆”が確かにあった。
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