婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊

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第五部 辺境の日々

第8話 市場視察

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市場が立った。
収穫されたばかりの野菜と果物、手作りの工芸品。
行商人の声が響き、街に活気が満ちていく。

「視察に行こうか。エリシアと一緒に見たい」

レオンに促され、エリシアは頷いた。
本当は“恋人として”歩くのだと思うと、心臓が少し忙しい。


「聖女様だ!」「エリシア様、いつもありがとうございます!」

村人の笑顔が増えたことが嬉しい。
嬉しいのに、横から飛んでくる声がさらに熱を足した。

「お二人……とても、お似合いですよ」

「っ……!」

エリシアの耳まで熱くなる。
レオンは、わずかに目を細めた。

「そうだ。俺もそう思っている」

さらりと言われ、完全に固まる。

そのままレオンが、当たり前のように手を取った。

指先が焦げそうだ。

「視察中だぞ……落ち着け」

「無理よ……!」

「俺が?君が?」

「わ、私が!」

返した声が少しだけ大きくて、周囲の視線が集まる。
レオンは苦笑しながら、エリシアの手を軽く引いた。

「離した方がいい?」

「だめ。……今は、離さないで」

小さな声。けれど、間違いなく自分の意志。

レオンはその言葉に、目をゆっくり細めた。

「了解だ。ずっと隣にいる」

当たり前のように。
けれどどうしようもなく甘くて、胸がまた跳ねる。

二人が繋いだ手は、
市場の喧騒の中で、ひときわ熱を帯び続けていた。

この街の未来と同じように。

――恋も、はっきりと動き出した。
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