私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊

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第6話|もう一人の子

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ルイと同い年の少年がいる。

公爵の庇護下にある女性の子であり、離れで母親と暮らしている。
公式に認められた存在ではないが、隠されてもいない。

屋敷の者は皆、知っている。

彼の名はエドガー。

本来であれば、本邸へ頻繁に出入りする立場ではない。
それでも最近は、父親を追うようにこちらへ現れることが増えていた。

その日も、庭で子息たちが剣術の基礎を学んでいる最中に姿を見せた。

「俺もやる!」

教師が困惑した顔で私を見る。

「奥様……」

エドガーは訓練用の木剣を奪うように取り、構えもせずに振り回す。
他家の子息がとっさに身を引いた。

「危ない」

教師が制止に入るが、少年は笑っている。

「へたくそだな!」

その声に、空気が微かに冷える。

ルイは一歩下がり、静かに言った。

「順番があります。まずは並んでください」

注意というより、説明だった。

エドガーは睨み返す。

「お前、偉そうだな」

「偉いのではありません。決まりです」

淡々と返す。

教師が間に入ろうとした時、遠くから声が響いた。

「はは、元気があっていい」

夫だ。

エドガーはぱっと振り向く。

「父上!」

夫は歩み寄り、その肩を叩く。

「多少荒いくらいが男らしい。なあ?」

視線がルイへ向けられる。

「お前は真面目すぎる。もっと競え」

ルイは一礼した。

「承知しました」

反論しない。
表情も変えない。

けれど私は見逃さなかった。

ほんの一瞬、握られた拳。

エドガーは得意げに木剣を振り回す。
他家の子息たちは距離を取る。

教師は困りながらも、強くは言えない。

誰もが理解している。

この場で最も強い立場にいるのが誰かを。

訓練が終わったあと、庭には小さなさざめきが残った。

「あちらのご子息は、活発でいらっしゃいますね」

遠回しな言葉。

それが貴族社会の作法だ。

私は微笑む。

「教育の方針は、それぞれです」

それ以上は言わない。

けれど分かる。

評価は、静かに分かれている。

夜、ルイはいつも通り課題に向かった。

「今日は、どうでしたか」

私が問うと、彼は少し考える。

「……賑やかでした」

それだけ。

不満も愚痴も出さない。

私は胸の奥で理解する。

同じ年齢でありながら、求められているものが違う。

一方は、許される。
一方は、求められる。

それでも。

嫡子であるのは、ルイだ。

その事実だけは、まだ揺らいでいない。

今は。
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