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第8話|期待しない息子
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翌朝、訓練場にはまだ薄い霧が残っていた。
ルイは教師よりも早く庭へ出て、木剣を手にしている。姿勢を正し、ひとつずつ型を確かめるように振る。その動きに焦りはない。ただ、繰り返している。
「早いですね」
私が声をかけると、彼は振り返って一礼した。
「昨日のご指摘を修正したくて」
父の言葉ではない。
教師の助言でもない。
自分で足りないと判断した部分を、静かに埋めている。
やがて夫が庭へ姿を見せた。
珍しいことだった。
「ほう、朝から熱心だな」
エドガーも一緒だ。
眠たげな顔で、父の横に立っている。
「父上」
ルイは一礼する。
それだけだ。
視線を上げるが、すぐに戻す。
表情も変えない。
「昨日の続きか?」
夫が問う。
「はい」
「根を詰めすぎるな。もっと力で押せ」
軽い助言。
エドガーは笑いながら言う。
「俺は昨日、三人倒したぞ」
「そうか」
夫は満足そうに頷く。
ルイは何も言わない。
ただ、再び木剣を構えた。
夫の視線はエドガーへ向いている。
肩を叩き、豪快に笑う。
ルイはその光景を見ない。
見ていないのではない。
視線を置かない。
教師が合図を出し、模擬試合が始まる。
ルイは正確に間合いを取り、無理をせずに勝ちを積み重ねる。
派手さはない。
だが、崩れない。
「面白くないな」
夫が呟く。
その声は、ルイの耳にも届いているはずだった。
それでも、振り向かない。
試合が終わると、ルイは木剣を収め、一礼して教師のもとへ向かう。
夫はすでにエドガーと話し込んでいた。
私はその背を見つめる。
怒りはない。
ただ、分かる。
ルイは父に認められようとしていない。
期待していない。
だから傷つかない。
その代わりに、何かを切り離している。
八歳の子どもが、そうする必要があるのだろうか。
「母上」
気配に気づき、振り向く。
「本日は予定通り、歴史の講義を受けます」
「ええ」
それだけの会話。
父については、何も言わない。
父の方も、呼び止めない。
距離は、静かに出来上がっている。
私は理解する。
この家で最も冷静なのは、あの子かもしれないと。
そして同時に思う。
冷静であることと、守られていることは、同じではない。
ルイは教師よりも早く庭へ出て、木剣を手にしている。姿勢を正し、ひとつずつ型を確かめるように振る。その動きに焦りはない。ただ、繰り返している。
「早いですね」
私が声をかけると、彼は振り返って一礼した。
「昨日のご指摘を修正したくて」
父の言葉ではない。
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自分で足りないと判断した部分を、静かに埋めている。
やがて夫が庭へ姿を見せた。
珍しいことだった。
「ほう、朝から熱心だな」
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「父上」
ルイは一礼する。
それだけだ。
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「昨日の続きか?」
夫が問う。
「はい」
「根を詰めすぎるな。もっと力で押せ」
軽い助言。
エドガーは笑いながら言う。
「俺は昨日、三人倒したぞ」
「そうか」
夫は満足そうに頷く。
ルイは何も言わない。
ただ、再び木剣を構えた。
夫の視線はエドガーへ向いている。
肩を叩き、豪快に笑う。
ルイはその光景を見ない。
見ていないのではない。
視線を置かない。
教師が合図を出し、模擬試合が始まる。
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派手さはない。
だが、崩れない。
「面白くないな」
夫が呟く。
その声は、ルイの耳にも届いているはずだった。
それでも、振り向かない。
試合が終わると、ルイは木剣を収め、一礼して教師のもとへ向かう。
夫はすでにエドガーと話し込んでいた。
私はその背を見つめる。
怒りはない。
ただ、分かる。
ルイは父に認められようとしていない。
期待していない。
だから傷つかない。
その代わりに、何かを切り離している。
八歳の子どもが、そうする必要があるのだろうか。
「母上」
気配に気づき、振り向く。
「本日は予定通り、歴史の講義を受けます」
「ええ」
それだけの会話。
父については、何も言わない。
父の方も、呼び止めない。
距離は、静かに出来上がっている。
私は理解する。
この家で最も冷静なのは、あの子かもしれないと。
そして同時に思う。
冷静であることと、守られていることは、同じではない。
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