3 / 10
第3話 婚約破棄
しおりを挟む
沈黙は、長くは続かなかった。
エドガーは一度、咳払いをしてから、
まるで話題を切り替えるように口を開いた。
「さて、もう一つ話がある」
その声音に、
ヴァレリアは既視感を覚えた。
決定事項を伝えるときの声だ。
相談ではない。
確認でもない。
「君との婚約を、ここで解消したい」
謁見の間に、
小さなどよめきが走る。
形式上、
騎士団長家と王家の結びつきは、
この国の抑止力の一つだった。
それを切るという意味を、
理解していない者はいないはずだった。
「理由は簡単だよ」
エドガーは、
ヴァレリアではなく、
マリエルを見ながら言った。
「僕は、もっとこの国に相応しい未来を選びたい」
「武力ではなく、信頼と優しさで成り立つ国を」
マリエルは、
困ったように微笑み、
エドガーの腕にそっと触れた。
守られることを前提に、
そこにいる仕草だった。
「君は強すぎる」
エドガーの視線が、
ようやくヴァレリアに戻る。
「剣を持ち、軍を率い、
戦を前提に物事を考えてしまう」
それは、
彼女が騎士団長である理由そのものだった。
「君がいるから、
周囲は警戒する」
「君が火種になるんだ」
ヴァレリアは、
一瞬だけ目を伏せた。
つい先日、
滅んだ国の城壁を思い出す。
守る力を失った街が、
どれほど簡単に踏みにじられたか。
それを知った上で、
彼は今、この言葉を選んでいる。
「だから、君には国外へ出てもらう」
その宣告は、
静かだった。
処刑でも、幽閉でもない。
ただの追放。
この国にとって、
一番都合のいい形だ。
「安心してほしい」
エドガーは、
まるで慈悲を与えるように続けた。
「命までは取らない。武力を持たない場所で、静かに生きてくれればいい」
――その言葉で、
ヴァレリアは理解した。
彼は、
自分がどれほど無知であるかを、
最後まで知らない。
「異議はあるか?」
王が、形だけの問いを投げる。
ヴァレリアは、顔を上げた。
謁見の間にいる誰もが、
彼女の言葉を待っている。
怒号か。
嘆願か。
それとも、涙か。
だが――
彼女は、何も選ばなかった。
「……いいえ」
短い答えだった。
「承知いたしました」
その言葉に、
側近の一人が息を呑む。
エドガーは、
安堵したように息をついた。
「分かってくれて嬉しいよ。
君なら、きっと理解してくれると思っていた」
ヴァレリアは、
一拍置いてから口を開いた。
「一点だけ、確認を」
場の空気が、
わずかに引き締まる。
「国外追放とのことですが、私の周囲の者が、共に行くことを望んだ場合、それを、拒む理由はありますか」
意外そうな顔をしたのは、
エドガーだった。
だが、その問いを
深く考える様子もなく、
すぐに肩をすくめる。
「構わないよ」
軽い返事だった。
「侍女や使用人は、
普通、ついて行くものだろう?一人では不便だろうしね」
側近たちも、
それ以上口を挟まない。
“連れて行く物”の話として、理解したのだろう。
「ありがとうございます」
ヴァレリアは、それだけ答えた。
彼らは気づいていない。
彼女が想定しているのが、
単なる侍女や使用人ではないことを。
剣を共に取り、
命を預け合い、
この国を守ってきた者たちであることを。
エドガーは、
すでに興味を失ったように、
話を締めにかかった。
「準備は即日で進める。早い方が、お互いのためだ」
追放の準備は、
その言葉通り、即座に始まった。
形式的な書類。
最低限の荷。
護衛もつかない旅程。
それでも、
誰も疑問を呈さなかった。
騎士団長家を切り捨てることに、
この国の上層部は、
何の痛みも感じていない。
王城を出るとき、
ヴァレリアは一度だけ振り返った。
高くそびえる城。
花の国と呼ばれたフローリア王国。
その城壁が、
どれほど脆いかを、
彼女は知っている。
「……七日も、持たないわね」
それは、
誰に聞かせるでもない、
ただの事実だった。
ヴァレリア・グランツは、
そうして国を去った。
剣も、力も、何一つ失わないまま。
エドガーは一度、咳払いをしてから、
まるで話題を切り替えるように口を開いた。
「さて、もう一つ話がある」
その声音に、
ヴァレリアは既視感を覚えた。
決定事項を伝えるときの声だ。
相談ではない。
確認でもない。
「君との婚約を、ここで解消したい」
謁見の間に、
小さなどよめきが走る。
形式上、
騎士団長家と王家の結びつきは、
この国の抑止力の一つだった。
それを切るという意味を、
理解していない者はいないはずだった。
「理由は簡単だよ」
エドガーは、
ヴァレリアではなく、
マリエルを見ながら言った。
「僕は、もっとこの国に相応しい未来を選びたい」
「武力ではなく、信頼と優しさで成り立つ国を」
マリエルは、
困ったように微笑み、
エドガーの腕にそっと触れた。
守られることを前提に、
そこにいる仕草だった。
「君は強すぎる」
エドガーの視線が、
ようやくヴァレリアに戻る。
「剣を持ち、軍を率い、
戦を前提に物事を考えてしまう」
それは、
彼女が騎士団長である理由そのものだった。
「君がいるから、
周囲は警戒する」
「君が火種になるんだ」
ヴァレリアは、
一瞬だけ目を伏せた。
つい先日、
滅んだ国の城壁を思い出す。
守る力を失った街が、
どれほど簡単に踏みにじられたか。
それを知った上で、
彼は今、この言葉を選んでいる。
「だから、君には国外へ出てもらう」
その宣告は、
静かだった。
処刑でも、幽閉でもない。
ただの追放。
この国にとって、
一番都合のいい形だ。
「安心してほしい」
エドガーは、
まるで慈悲を与えるように続けた。
「命までは取らない。武力を持たない場所で、静かに生きてくれればいい」
――その言葉で、
ヴァレリアは理解した。
彼は、
自分がどれほど無知であるかを、
最後まで知らない。
「異議はあるか?」
王が、形だけの問いを投げる。
ヴァレリアは、顔を上げた。
謁見の間にいる誰もが、
彼女の言葉を待っている。
怒号か。
嘆願か。
それとも、涙か。
だが――
彼女は、何も選ばなかった。
「……いいえ」
短い答えだった。
「承知いたしました」
その言葉に、
側近の一人が息を呑む。
エドガーは、
安堵したように息をついた。
「分かってくれて嬉しいよ。
君なら、きっと理解してくれると思っていた」
ヴァレリアは、
一拍置いてから口を開いた。
「一点だけ、確認を」
場の空気が、
わずかに引き締まる。
「国外追放とのことですが、私の周囲の者が、共に行くことを望んだ場合、それを、拒む理由はありますか」
意外そうな顔をしたのは、
エドガーだった。
だが、その問いを
深く考える様子もなく、
すぐに肩をすくめる。
「構わないよ」
軽い返事だった。
「侍女や使用人は、
普通、ついて行くものだろう?一人では不便だろうしね」
側近たちも、
それ以上口を挟まない。
“連れて行く物”の話として、理解したのだろう。
「ありがとうございます」
ヴァレリアは、それだけ答えた。
彼らは気づいていない。
彼女が想定しているのが、
単なる侍女や使用人ではないことを。
剣を共に取り、
命を預け合い、
この国を守ってきた者たちであることを。
エドガーは、
すでに興味を失ったように、
話を締めにかかった。
「準備は即日で進める。早い方が、お互いのためだ」
追放の準備は、
その言葉通り、即座に始まった。
形式的な書類。
最低限の荷。
護衛もつかない旅程。
それでも、
誰も疑問を呈さなかった。
騎士団長家を切り捨てることに、
この国の上層部は、
何の痛みも感じていない。
王城を出るとき、
ヴァレリアは一度だけ振り返った。
高くそびえる城。
花の国と呼ばれたフローリア王国。
その城壁が、
どれほど脆いかを、
彼女は知っている。
「……七日も、持たないわね」
それは、
誰に聞かせるでもない、
ただの事実だった。
ヴァレリア・グランツは、
そうして国を去った。
剣も、力も、何一つ失わないまま。
79
あなたにおすすめの小説
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
お前が産め!
星森
ファンタジー
結婚して3ヶ月、夫ジュダルから突然の離婚宣言。
しかし妻アルネは、あっさり「はい、いいですよ」と返答。
だがその裏には、冷徹な計画があった──。
姑ロザリアの暴走、夫ジュダルの迷走、義父バルドランの混乱。
魔方陣が光り、契約精霊が応え、屋敷はいつしか常識の彼方へ。
そして誕生するオシリーナとオシリーネ。
「子供が欲しい? なら、産めばいいじゃない」
冷静沈着な契約者アルネが、家族の常識を魔法でぶち壊す!
愛も情もどこ吹く風、すべては計画通り(?)の異色魔法家族劇、ここに完結。
⚠️本作は下品です。性的描写があります。
AIの生成した文章を使用しています。
追放即死と思ったら転生して最強薬師、元家族に天罰を
タマ マコト
ファンタジー
名門薬師一族に生まれたエリシアは、才能なしと蔑まれ、家名を守るために追放される。
だがそれは建前で、彼女の異質な才能を恐れた家族による処刑だった。
雨の夜、毒を盛られ十七歳で命を落とした彼女は、同じ世界の片隅で赤子として転生する。
血の繋がらない治療師たちに拾われ、前世の記憶と復讐心を胸に抱いたまま、
“最強薬師”としての二度目の人生が静かに始まる。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
私を追放した王子が滅びるまで、優雅にお茶を楽しみますわ
タマ マコト
ファンタジー
王国の茶会の場で、マリアンヌは婚約者である王子アレクシスから突然の婚約破棄を告げられる。
理由は「民に冷たい」という嘘。
新しい聖女リリアの策略により、マリアンヌは「偽りの聖女」として追放される。
だがマリアンヌは涙を見せず、静かに礼をしてその場を去る。
辺境の地で彼女は小さな館を構え、「静寂の館」と名づけ、紅茶と共に穏やかな日々を過ごし始める。
しかし同時に、王都では奇跡が失われ、作物が枯れ始めていた――。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する
タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。
社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。
孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。
そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。
追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる