魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

文字の大きさ
95 / 200
19章 終焉の谷

しおりを挟む
黒い影との激戦を終え、アリアとイアンはついに終焉の谷の中心にたどり着いた。そこに待ち受けるのは、魔族の秘密を解き明かす鍵と、二人の心を揺さぶる新たな試練だった。

二人が足を踏み入れた建物の内部は、荒廃しながらもどこか神聖さを感じさせる空間だった。高い天井に刻まれた古代魔族の文字と、中央に鎮座する巨大な魔法陣が目を引く。

「ここが……終焉の谷の核心?」

アリアが剣を構えたまま呟く。剣は淡い光を放ちながら魔法陣の中心を指し示していた。

「剣が導いている。あの魔法陣に何かがあるはずだ。」

イアンが杖を握りしめ、魔法陣に近づこうとしたその時、突然空間全体が震え出した。

天井から黒い霧が降り注ぎ、魔法陣を覆った。それはやがて一つの形を成し、巨大な魔族のような影が二人の前に現れた。

「これが……!」

アリアが剣を構え直すと、その影が深い声で語り始めた。

「選ばれし刃の持ち主よ。そして、魔族の血を引く者よ。ここは真実と力を試す場。お前たちの覚悟を見せよ。」

その言葉が終わると同時に、影が剣を振り上げて二人に襲いかかってきた。

「来るぞ!」

イアンが冷気の魔法を放ち、影の動きを一瞬止める。その隙にアリアが剣を振り上げ、強烈な一撃を叩き込んだ。

「効いてる……でも、まだ倒れない!」

影は動きを止めることなく、再び二人に向かって闇の刃を放った。イアンは防御魔法でそれを防ぎつつ、アリアの動きを支援する。

「アリア、奴の動きにパターンがある!左に回り込め!」

「分かった!」

二人は息を合わせ、影に少しずつダメージを与えていく。その連携はこれまで以上に洗練され、まるで互いの心が通じ合っているかのようだった。

戦いの中で、イアンはふとアリアの姿に目を留めた。彼女が全力で剣を振るい、影に立ち向かう姿。その強さと純粋さが、イアンの心を強く揺さぶった。

(こんなにも眩しい存在を……俺は本当に守れるのか?)

イアンは一瞬だけ迷いを感じたが、すぐにそれを振り払った。

(いや、守る。それが俺の役目だ。それ以上の感情を抱く資格は……俺にはない。)

彼は自分の中に芽生えた想いを必死に抑えながら、戦いに集中した。

アリアの剣が再び青白い光を放ち、その一撃が影を完全に貫いた。影は大きく揺らぎ、やがて光の粒となって消えていく。

「やった……!」

アリアが息を整えながら剣を収めると、魔法陣の中央に古びた台座が現れた。その上には一冊の古い書物と、淡く輝く宝珠が置かれている。

「これが……この谷の秘密?」

「間違いない。この書物には剣と魔族の関係、そしてこの力の真実が記されているはずだ。」

イアンが慎重に書物を手に取り、ページをめくり始めた。

書物には古代魔族の文字でこう記されていた。

「選ばれし刃は、魔族の力を制御するために創られたもの。しかし、その力は人間と魔族の絆を必要とする。」

イアンはページを読み進めるにつれ、その顔が僅かに険しくなった。

「……この剣の力を完全に発揮するには、人間と魔族の間に信頼が築かれていなければならない。そして、その絆が試される。」

「絆……?」

アリアがイアンを見つめる。その時、イアンは少し目を伏せ、低い声で呟いた。

「俺の力が……君の足枷にならないことを願うばかりだ。」

その言葉を聞いたアリアは、一歩イアンに近づいた。そして剣を地面に立て、真剣な表情で彼を見上げる。

「イアン、そんなこと言わないで。君の力は私にとって足枷なんかじゃないよ。むしろ、君がいるから私はここまで来れたんだ。」

「……アリア。」

イアンはその言葉に目を見開いたが、すぐに視線をそらそうとした。しかし、アリアはその手をそっと握りしめた。

「君がいるだけで、私は強くなれる。だから、君がどう思っていても……私は君のそばにいたいの。」

その言葉に、イアンの心が大きく揺れるのを感じた。

(俺は……彼女を受け入れてもいいのか?)

抑えきれない想いと理性の間で揺れるイアンの瞳を、アリアはまっすぐに見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...