魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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29章 王都召喚命令

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王都の外れに広がる狩猟場は、朝から多くの人々で賑わっていた。鮮やかな衣装に身を包んだ貴族たちと、その護衛を務める冒険者や衛兵たちが一堂に会する壮観な光景だった。

アリアは人々の華やかさに目を奪われながら、隣を歩くイアンに呟く。

「すごいね……こういうの、初めて見るよ。」

「見るだけなら楽しいだろうな。」

イアンは相変わらず淡々とした口調で答えたが、彼の視線は周囲を警戒するように動いている。

セオドリックが二人を案内しながら、静かに説明を始めた。

「狩猟大会は、貴族の社交と実力を見せつける場です。王族も後ほどご覧になるでしょうから、油断しないように。」

「えっ、王族も来るの?」

アリアが驚くと、セオドリックは「当然です」と頷いた。

「彼らがどのような人材がいるのかを見極めるためでもありますからね。ですから、くれぐれも目立ちすぎないようにしてください。」

その言葉に、アリアが「それが一番難しいんだけど……」と呟き、イアンが微かに笑みを浮かべた。

狩猟大会の開始を告げる鐘が鳴り響き、参加者たちはそれぞれの役割に従って動き始めた。

アリアは前衛として剣を構え、イアンは後衛で杖を手にしている。

「さあ、行こうか!」アリアが意気込むと、イアンは短く「無茶はするな」と答える。

最初に現れたのは中型の魔物――黒い毛並みを持つ狼型の群れだった。

アリアは迅速な動きで狼たちに接近し、片手剣を振り抜いた。

「はっ!」

彼女の攻撃が正確に決まり、一体の狼が即座に倒れる。さらに、後続の狼に向けて盾を構え、突進を防ぎつつ次の一撃を繰り出す。

その様子を遠くから見ていた貴族たちがざわつき始める。

「あの白い防具の剣士、冒険者なのか?」

「いや、あれだけの剣技を持つのは普通の冒険者ではないな……」

「王宮の騎士かもしれない。装備も異常なまでに特注品だ。」

アリアはそれらの噂に気づくことなく、軽快な動きで敵を倒し続けていた。

イアンの冷静な後衛支援

一方、後衛に立つイアンは、黒杖「グレイシャル・アーク」を構えて冷静に魔法を放つ。

「フリーズ・バースト。」

その呪文と共に氷の矢が放たれ、群れの後方にいる狼たちを次々に凍結させていく。

「後衛も相当な腕前だな……」

「いや、彼の動きは貴族の魔法使いにしか見えない。そもそも普通の冒険者があんな品のある動きができるわけがない。」

イアンは貴族たちの視線に気づきつつも特に意に介さず、黙々と支援を続けていた。

狩猟大会の終盤、アリアとイアンが巨大な魔物――鋼の毛を持つ熊型のモンスターと対峙する場面が訪れる。

「イアン、どうする?」

アリアが構えながら尋ねると、イアンは冷静に答えた。

「まず足を止める。その隙にお前が斬れ。」

イアンが地面に杖を突き刺し、「アース・バインド」の呪文を唱えると、魔物の足元から土の手が現れて絡みつく。

「今だ!」

アリアがその瞬間を見逃さず、一気に間合いを詰めて剣を振り抜いた。

「やった……!」

魔物が崩れ落ちると、会場中が歓声に包まれた。

狩猟大会が終了し、結果発表が行われる中、貴族たちの間で二人の噂が広がっていた。

「白い防具の剣士と黒衣の魔法使い……どう考えてもただの冒険者じゃない。」

「王族の隠し騎士ではないか?」

「いや、あの魔法使いは間違いなく貴族の出だ。仕草が普通の冒険者のものではない。」

イアンとアリアはその噂に全く気づくことなく、会場の隅で休んでいた。

「いい感じだったね。イアンの魔法、すっごく助かったよ!」

アリアが笑顔で言うと、イアンは「アリアが無事ならそれでいい」とだけ答えた。

その短い言葉に、アリアはふと顔を赤らめる。

「そ、そっか。まあ、ありがとね。」
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