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ルナ離宮に迎えてから数日。
カティアの生活も徐々に落ち着きを見せ始めていた。
私は執務室の隣にある小教室にカティアを呼び寄せ、まずは現状の学力査定を行っていた。
今後の教育方針を定めるためには、何よりもまず彼女の現在地を把握する必要がある。
「では、次は歴代王家の系譜についてだ」
「はい。初代王となったイオス陛下は当時の五大部族連合を統一し――」
カティアは淡々と答えていく。
歴史の知識量は年齢にしては驚くほど豊富だった。王家の系譜だけでなく、隣国の歴史もある程度把握している。
「……次に、隣国カルディアの貿易主要港は?」
「南部のルセラ港と、東岸のザルド港が中心です」
即答だった。地理もまた、想像以上に広く把握している。
私は思わず手元の書面にメモを取る。
(ここまでの水準に達しているとは……独学にしては異常だな)
「よし、次は計算だ。割合計算、利率、関税計算……これは?」
「――答えは、こうです」
カティアはすらすらと正確に解答していく。
筆算も早い。数字の処理能力は極めて高いと言っていいだろう。
「……見事だ」
思わず素直に口に出していた。
ここまで優秀な子を、後宮の隅で放置していたなど――
まったく、あの後宮の仕組みは欠陥の塊だ。
「カティア、本当に良く出来ている。君は、相当な努力をしてきたのだね」
私が褒めると、カティアはわずかに目を伏せた。
「……いえ、ただ、興味があっただけでございます」
どこか曖昧に言葉を濁す。
私を警戒しているわけではなく、これは――素直に誉め言葉を受け取れないだけだろう。
(自己評価が低い)
それもまた、育った環境ゆえか。
「君は本当に聡明だよ。……さて、では次は宗教に関する設問だ」
私は問題集をめくった。
だが――ここで流れは一変する。
「この祝祭は誰を讃える日だ?」
「……え、と……」
カティアが答えに詰まった。
(ああ、やはり)
宗教知識はほぼ壊滅的だった。
正典の教義はもちろん、祭儀、神官序列、聖遺物の位置付けも曖昧。
「これまで宗教の教育は?」
「……ほとんど受けたことがありません。後宮では、身分の低い妃の子が神事に触れる機会は少なく……」
なるほど。
位階の低い妃の出であることが、ここでも影響していたわけだ。
「ふむ。では宗教については一から学び直そう。焦ることはない。教える者も教材も、全て用意してある」
「……はい」
先ほどよりも小さな声で、カティアは頷いた。
その瞳には、どこか申し訳なさと安堵が混じっていた。
私はにこやかに微笑んだまま続ける。
「全体としては驚くほどの水準だよ。むしろ私が教わる側になりそうなくらいだ」
「……そ、そんなことは……」
カティアは、褒められるたびに微妙な顔をする。
イレーネが隅で小さく吹き出し、ノルベルトはまた苦笑を浮かべていた。
「素直に褒められることに慣れましょうね、カティア様」
イレーネの言葉に、カティアは困ったように目を伏せた。
私は静かに頷いた。
(――だが、やはり君は有望だ)
この素質を、今度こそ正しく伸ばす。
それが私の新たな役割だと、改めて胸の内で誓った。
カティアの生活も徐々に落ち着きを見せ始めていた。
私は執務室の隣にある小教室にカティアを呼び寄せ、まずは現状の学力査定を行っていた。
今後の教育方針を定めるためには、何よりもまず彼女の現在地を把握する必要がある。
「では、次は歴代王家の系譜についてだ」
「はい。初代王となったイオス陛下は当時の五大部族連合を統一し――」
カティアは淡々と答えていく。
歴史の知識量は年齢にしては驚くほど豊富だった。王家の系譜だけでなく、隣国の歴史もある程度把握している。
「……次に、隣国カルディアの貿易主要港は?」
「南部のルセラ港と、東岸のザルド港が中心です」
即答だった。地理もまた、想像以上に広く把握している。
私は思わず手元の書面にメモを取る。
(ここまでの水準に達しているとは……独学にしては異常だな)
「よし、次は計算だ。割合計算、利率、関税計算……これは?」
「――答えは、こうです」
カティアはすらすらと正確に解答していく。
筆算も早い。数字の処理能力は極めて高いと言っていいだろう。
「……見事だ」
思わず素直に口に出していた。
ここまで優秀な子を、後宮の隅で放置していたなど――
まったく、あの後宮の仕組みは欠陥の塊だ。
「カティア、本当に良く出来ている。君は、相当な努力をしてきたのだね」
私が褒めると、カティアはわずかに目を伏せた。
「……いえ、ただ、興味があっただけでございます」
どこか曖昧に言葉を濁す。
私を警戒しているわけではなく、これは――素直に誉め言葉を受け取れないだけだろう。
(自己評価が低い)
それもまた、育った環境ゆえか。
「君は本当に聡明だよ。……さて、では次は宗教に関する設問だ」
私は問題集をめくった。
だが――ここで流れは一変する。
「この祝祭は誰を讃える日だ?」
「……え、と……」
カティアが答えに詰まった。
(ああ、やはり)
宗教知識はほぼ壊滅的だった。
正典の教義はもちろん、祭儀、神官序列、聖遺物の位置付けも曖昧。
「これまで宗教の教育は?」
「……ほとんど受けたことがありません。後宮では、身分の低い妃の子が神事に触れる機会は少なく……」
なるほど。
位階の低い妃の出であることが、ここでも影響していたわけだ。
「ふむ。では宗教については一から学び直そう。焦ることはない。教える者も教材も、全て用意してある」
「……はい」
先ほどよりも小さな声で、カティアは頷いた。
その瞳には、どこか申し訳なさと安堵が混じっていた。
私はにこやかに微笑んだまま続ける。
「全体としては驚くほどの水準だよ。むしろ私が教わる側になりそうなくらいだ」
「……そ、そんなことは……」
カティアは、褒められるたびに微妙な顔をする。
イレーネが隅で小さく吹き出し、ノルベルトはまた苦笑を浮かべていた。
「素直に褒められることに慣れましょうね、カティア様」
イレーネの言葉に、カティアは困ったように目を伏せた。
私は静かに頷いた。
(――だが、やはり君は有望だ)
この素質を、今度こそ正しく伸ばす。
それが私の新たな役割だと、改めて胸の内で誓った。
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