【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました

藤原遊

文字の大きさ
5 / 63

4

しおりを挟む
ルナ離宮に到着してから間もなく、私はカティアを伴って内部を案内していた。

この離宮は、私の外交執務のために整えられたものだが、後宮のような煩雑さはない。
静謐な回廊、柔らかな光を取り込む窓、過剰すぎないが上質な調度品――まさに私の好みに整えられた空間だ。

だが、カティアの歩き方はどこかぎこちない。
まるで侍女のように身を小さくし、歩幅すら抑えているのがわかる。

「カティア、君は客人でもなければ侍女でもない。堂々と歩いていいのだよ?」

「……は、はい」

答えはするものの、そのまま控え目な姿勢を崩さない。
思わず苦笑が漏れた。

「まったく。では、もう少し分かりやすく言おう。ここは君の住まいでもある。だから――君が歩くべき場所を、私が案内する」

私は柔らかな微笑みを浮かべ、そのまま彼女を客間の方角ではなく、居住区画の最奥へと導いた。

◇ ◇ ◇

カティアは一歩、足を止めた。

そこは私の私室の並びに位置する特別室――ルナ離宮で第二位の部屋。
もともとは将来の正妃、第一夫人となる者の居室として用意されていた部屋だった。

「……殿下?」

「ここが君の部屋だ。隣は私の執務室と私室になっている」

「……私の?」

カティアは思わず、目の前の豪奢な扉と私を交互に見比べた。
警戒よりも、今度はあからさまに困惑が滲んでいる。

私は扉を開け、彼女を部屋の中へ誘う。

内装は過剰な金飾りは避け、亜麻色の髪に映える淡いローズとクリームの基調でまとめられている。
書架には彼女向けの教育用書籍がずらりと並び、奥の衣裳棚には既に仕立てられたドレスが整然と揃えられていた。

「全て君の寸法に合わせて用意してある。衣服だけでなく、日用品も、勉学の道具も、教材も揃えてあるよ」

「……」

カティアは無言のまま、そっとドレスに触れた。
その指先に僅かに柔らかな感情が浮かぶのを、私は見逃さなかった。

(少しは喜んでくれたかな)

だがその反面、彼女の表情は複雑さも伴っている。
まるで、「こんな優しさには何が隠されているのだろう」と言いたげに。

もちろん、その警戒心も予想済みだ。

「いずれ君には様々な場面で人前に出てもらう。学ぶことは多いが、焦らなくていい」

私は微笑を崩さず続けた。

「それと、もう一人紹介しておこう」

そう言うと、脇に控えていた少女が一歩前に進み出た。
年の頃は十五、栗色の短髪に快活な雰囲気を漂わせている。

「彼女はイレーネ。君の専属侍女兼、補佐役になる」

カティアは丁寧に頭を下げた。

「第十一王女殿下、これよりお仕えいたします。至らぬ身ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」

イレーネは礼儀正しくも、どこか柔らかい親しみを滲ませていた。

「彼女は孤児だったところをノルベルトが保護し、私の許可で離宮へ引き取った。いずれ妃を迎えるとき、その侍女候補として育てていたのだが……先に君に仕えてもらう方が良さそうだ」

カティアは微かに驚きの色を浮かべつつ、また静かに頭を下げた。

「……宜しくお願いいたします、イレーネ」

「はい!」

イレーネはぱっと花が咲くような笑顔を見せた。
その屈託のない笑みに、カティアの警戒心もほんのわずか、緩むのがわかった。

ノルベルトが苦笑しながら控えている。

(まぁ……良い滑り出しかな)

心の中で私はそっと呟いた。

こうして、ルナ離宮での新たな生活が幕を開けた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです! 12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。  両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪  ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/07/06……完結 2024/06/29……本編完結 2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位 2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位 2024/04/01……連載開始

不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。 和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。 政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。

「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ

西野歌夏
恋愛
前世でフラれた記憶を思いだしたフローラ・ガトバンは、18歳の伯爵令嬢だ。今まさにデジャブのように同じ光景を見ていた。 エイトレンスのアルベルト王太子にまつわるストーリーです。 ※の付いたタイトルは、あからさまな性的表現を含みます。苦手な方はお気をつけていただければと思います。 2025.5.29 完結いたしました。

【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」  ……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……? ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募しています。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。 ※小説内容にはAI不使用です。

恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。

長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様! しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが? だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど! 義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて…… もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。 「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。 しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。 ねえ、どうして?  前妻さんに何があったの? そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!? 恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。 私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。 *他サイトにも公開しています

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

冷遇された妻は愛を求める

チカフジ ユキ
恋愛
結婚三年、子供ができないという理由で夫ヘンリーがずっと身体の関係を持っていた女性マリアを連れてきた。 そして、今後は彼女をこの邸宅の女主として仕えよと使用人に命じる。 正妻のアリーシアは離れに追い出され、冷遇される日々。 離婚したくても、金づるであるアリーシアをそう簡単には手放してはくれなかった。 しかし、そんな日々もある日突然終わりが来る。 それは父親の死から始まった。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...