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ルナ離宮に到着してから間もなく、私はカティアを伴って内部を案内していた。
この離宮は、私の外交執務のために整えられたものだが、後宮のような煩雑さはない。
静謐な回廊、柔らかな光を取り込む窓、過剰すぎないが上質な調度品――まさに私の好みに整えられた空間だ。
だが、カティアの歩き方はどこかぎこちない。
まるで侍女のように身を小さくし、歩幅すら抑えているのがわかる。
「カティア、君は客人でもなければ侍女でもない。堂々と歩いていいのだよ?」
「……は、はい」
答えはするものの、そのまま控え目な姿勢を崩さない。
思わず苦笑が漏れた。
「まったく。では、もう少し分かりやすく言おう。ここは君の住まいでもある。だから――君が歩くべき場所を、私が案内する」
私は柔らかな微笑みを浮かべ、そのまま彼女を客間の方角ではなく、居住区画の最奥へと導いた。
◇ ◇ ◇
カティアは一歩、足を止めた。
そこは私の私室の並びに位置する特別室――ルナ離宮で第二位の部屋。
もともとは将来の正妃、第一夫人となる者の居室として用意されていた部屋だった。
「……殿下?」
「ここが君の部屋だ。隣は私の執務室と私室になっている」
「……私の?」
カティアは思わず、目の前の豪奢な扉と私を交互に見比べた。
警戒よりも、今度はあからさまに困惑が滲んでいる。
私は扉を開け、彼女を部屋の中へ誘う。
内装は過剰な金飾りは避け、亜麻色の髪に映える淡いローズとクリームの基調でまとめられている。
書架には彼女向けの教育用書籍がずらりと並び、奥の衣裳棚には既に仕立てられたドレスが整然と揃えられていた。
「全て君の寸法に合わせて用意してある。衣服だけでなく、日用品も、勉学の道具も、教材も揃えてあるよ」
「……」
カティアは無言のまま、そっとドレスに触れた。
その指先に僅かに柔らかな感情が浮かぶのを、私は見逃さなかった。
(少しは喜んでくれたかな)
だがその反面、彼女の表情は複雑さも伴っている。
まるで、「こんな優しさには何が隠されているのだろう」と言いたげに。
もちろん、その警戒心も予想済みだ。
「いずれ君には様々な場面で人前に出てもらう。学ぶことは多いが、焦らなくていい」
私は微笑を崩さず続けた。
「それと、もう一人紹介しておこう」
そう言うと、脇に控えていた少女が一歩前に進み出た。
年の頃は十五、栗色の短髪に快活な雰囲気を漂わせている。
「彼女はイレーネ。君の専属侍女兼、補佐役になる」
カティアは丁寧に頭を下げた。
「第十一王女殿下、これよりお仕えいたします。至らぬ身ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」
イレーネは礼儀正しくも、どこか柔らかい親しみを滲ませていた。
「彼女は孤児だったところをノルベルトが保護し、私の許可で離宮へ引き取った。いずれ妃を迎えるとき、その侍女候補として育てていたのだが……先に君に仕えてもらう方が良さそうだ」
カティアは微かに驚きの色を浮かべつつ、また静かに頭を下げた。
「……宜しくお願いいたします、イレーネ」
「はい!」
イレーネはぱっと花が咲くような笑顔を見せた。
その屈託のない笑みに、カティアの警戒心もほんのわずか、緩むのがわかった。
ノルベルトが苦笑しながら控えている。
(まぁ……良い滑り出しかな)
心の中で私はそっと呟いた。
こうして、ルナ離宮での新たな生活が幕を開けた――。
この離宮は、私の外交執務のために整えられたものだが、後宮のような煩雑さはない。
静謐な回廊、柔らかな光を取り込む窓、過剰すぎないが上質な調度品――まさに私の好みに整えられた空間だ。
だが、カティアの歩き方はどこかぎこちない。
まるで侍女のように身を小さくし、歩幅すら抑えているのがわかる。
「カティア、君は客人でもなければ侍女でもない。堂々と歩いていいのだよ?」
「……は、はい」
答えはするものの、そのまま控え目な姿勢を崩さない。
思わず苦笑が漏れた。
「まったく。では、もう少し分かりやすく言おう。ここは君の住まいでもある。だから――君が歩くべき場所を、私が案内する」
私は柔らかな微笑みを浮かべ、そのまま彼女を客間の方角ではなく、居住区画の最奥へと導いた。
◇ ◇ ◇
カティアは一歩、足を止めた。
そこは私の私室の並びに位置する特別室――ルナ離宮で第二位の部屋。
もともとは将来の正妃、第一夫人となる者の居室として用意されていた部屋だった。
「……殿下?」
「ここが君の部屋だ。隣は私の執務室と私室になっている」
「……私の?」
カティアは思わず、目の前の豪奢な扉と私を交互に見比べた。
警戒よりも、今度はあからさまに困惑が滲んでいる。
私は扉を開け、彼女を部屋の中へ誘う。
内装は過剰な金飾りは避け、亜麻色の髪に映える淡いローズとクリームの基調でまとめられている。
書架には彼女向けの教育用書籍がずらりと並び、奥の衣裳棚には既に仕立てられたドレスが整然と揃えられていた。
「全て君の寸法に合わせて用意してある。衣服だけでなく、日用品も、勉学の道具も、教材も揃えてあるよ」
「……」
カティアは無言のまま、そっとドレスに触れた。
その指先に僅かに柔らかな感情が浮かぶのを、私は見逃さなかった。
(少しは喜んでくれたかな)
だがその反面、彼女の表情は複雑さも伴っている。
まるで、「こんな優しさには何が隠されているのだろう」と言いたげに。
もちろん、その警戒心も予想済みだ。
「いずれ君には様々な場面で人前に出てもらう。学ぶことは多いが、焦らなくていい」
私は微笑を崩さず続けた。
「それと、もう一人紹介しておこう」
そう言うと、脇に控えていた少女が一歩前に進み出た。
年の頃は十五、栗色の短髪に快活な雰囲気を漂わせている。
「彼女はイレーネ。君の専属侍女兼、補佐役になる」
カティアは丁寧に頭を下げた。
「第十一王女殿下、これよりお仕えいたします。至らぬ身ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」
イレーネは礼儀正しくも、どこか柔らかい親しみを滲ませていた。
「彼女は孤児だったところをノルベルトが保護し、私の許可で離宮へ引き取った。いずれ妃を迎えるとき、その侍女候補として育てていたのだが……先に君に仕えてもらう方が良さそうだ」
カティアは微かに驚きの色を浮かべつつ、また静かに頭を下げた。
「……宜しくお願いいたします、イレーネ」
「はい!」
イレーネはぱっと花が咲くような笑顔を見せた。
その屈託のない笑みに、カティアの警戒心もほんのわずか、緩むのがわかった。
ノルベルトが苦笑しながら控えている。
(まぁ……良い滑り出しかな)
心の中で私はそっと呟いた。
こうして、ルナ離宮での新たな生活が幕を開けた――。
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