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風がほんの少し冷たくなった。
金色の陽差しのなか、木々の葉がわずかに色づき始めている。
城の中庭にも秋の気配が忍び寄り、移ろいの季節を静かに告げていた。
リリーナは、久しぶりに馬車に揺られて街の施療院へと向かっていた。
毒に倒れてからは長く表に出ることを控えていたが、ようやく体も安定し、周囲の警備も万全となった今、慈善活動に復帰するには良い頃合いだった。
施療院の子どもたちは彼女の姿を見ると駆け寄ってきた。
「姫様だ!」「おかえりなさいませ、姫様!」
まるで春が戻ってきたかのような笑顔に囲まれ、リリーナは白魔法の癒しを穏やかに振るう。
かつて“聖女”と呼ばれた光景が、再び王都に戻ってきたのだった。
そんな中、彼女は人々の噂話の端にふとした言葉を聞いた。
「隣国ファルデアの使者が来てるって話、本当か?」
「そこの第二王子、嫁を探してるらしいぞ……」
癒しの光を手元に保ったまま、リリーナはその言葉に微かに眉を寄せた。
帰りの馬車の中、彼女はそっと唇を開く。
「……縁談の話が来ているのね、エドガー」
同席していた彼は、一拍おいて頷いた。
「はい。隣国ファルデア王国より、第二王子との婚姻案が非公式に通達されました」
リリーナは窓の外を眺めながら目を閉じた。
風に揺れる街の屋根の上を、秋の雲がゆっくりと流れていく。
政略結婚――これは“物語通り”の流れだ。
原作では、政略の駒として遠国に嫁いだ王女は、そのまま物語の中心から消える。
ユリアンが戴冠する直前に退場する“都合のいい役割”。
だが、自分はもうただの“リリーナ・アリステリア”ではない。
一度死んで、推しの未来のために生き直している転生者。
この縁談など、乗るわけがない。
リリーナは冷たい笑みを浮かべ、火鉢に手をかざすふりをして、そっと拳を握りしめた。
(まだ、終わらせない。私はユリアンの傍に残る――)
その頃、南庭ではユリアンが魔法試験を終えていた。
「初級課程、合格。初めてにしては上出来だ」
魔法教師の言葉に、ユリアンは小さく頷いた。
その手には、選び抜いた白い宝石がある。
「姉さまに渡すお守り、ちゃんと作るんだ。……だから、もっともっと強くなる」
そう呟く少年の瞳は、まだ幼さを残しながらも、誰より真っ直ぐだった。
季節は秋へと移る。
王都はまた、別の色に染まろうとしていた。
金色の陽差しのなか、木々の葉がわずかに色づき始めている。
城の中庭にも秋の気配が忍び寄り、移ろいの季節を静かに告げていた。
リリーナは、久しぶりに馬車に揺られて街の施療院へと向かっていた。
毒に倒れてからは長く表に出ることを控えていたが、ようやく体も安定し、周囲の警備も万全となった今、慈善活動に復帰するには良い頃合いだった。
施療院の子どもたちは彼女の姿を見ると駆け寄ってきた。
「姫様だ!」「おかえりなさいませ、姫様!」
まるで春が戻ってきたかのような笑顔に囲まれ、リリーナは白魔法の癒しを穏やかに振るう。
かつて“聖女”と呼ばれた光景が、再び王都に戻ってきたのだった。
そんな中、彼女は人々の噂話の端にふとした言葉を聞いた。
「隣国ファルデアの使者が来てるって話、本当か?」
「そこの第二王子、嫁を探してるらしいぞ……」
癒しの光を手元に保ったまま、リリーナはその言葉に微かに眉を寄せた。
帰りの馬車の中、彼女はそっと唇を開く。
「……縁談の話が来ているのね、エドガー」
同席していた彼は、一拍おいて頷いた。
「はい。隣国ファルデア王国より、第二王子との婚姻案が非公式に通達されました」
リリーナは窓の外を眺めながら目を閉じた。
風に揺れる街の屋根の上を、秋の雲がゆっくりと流れていく。
政略結婚――これは“物語通り”の流れだ。
原作では、政略の駒として遠国に嫁いだ王女は、そのまま物語の中心から消える。
ユリアンが戴冠する直前に退場する“都合のいい役割”。
だが、自分はもうただの“リリーナ・アリステリア”ではない。
一度死んで、推しの未来のために生き直している転生者。
この縁談など、乗るわけがない。
リリーナは冷たい笑みを浮かべ、火鉢に手をかざすふりをして、そっと拳を握りしめた。
(まだ、終わらせない。私はユリアンの傍に残る――)
その頃、南庭ではユリアンが魔法試験を終えていた。
「初級課程、合格。初めてにしては上出来だ」
魔法教師の言葉に、ユリアンは小さく頷いた。
その手には、選び抜いた白い宝石がある。
「姉さまに渡すお守り、ちゃんと作るんだ。……だから、もっともっと強くなる」
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季節は秋へと移る。
王都はまた、別の色に染まろうとしていた。
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