病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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冷たい風が吹き抜け、窓辺の結露が指の跡を残す季節。
王城の中庭には霜が降り、庭師たちが植木に麻布を巻きつけていた。

冬が来る。
――そして、ユリアンの十歳の誕生日も。

「お姉さま。ほら、これ、ちゃんとできたんだよ」

ユリアンは誇らしげに、小さな掌を差し出して見せた。
その中には、まだ色の定まらない宝石が一粒。
ほんのり青みがかった石は、彼の魔力を吸い込んで、ゆっくりと“魔石”へと変わりつつある。

「これ、ぼくのお守り。まだ完全じゃないけど……姉さまのために作ってる」

「ありがとう、ユリアン。きっと、すごく素敵なお守りになるわ」

微笑む姉の手を握りしめ、ユリアンは嬉しそうにうなずいた。
その瞳の奥にあるのは、子供のまっすぐな愛情と、王子としての静かな誓いだった。

 

一方、城の奥。
エドガーは書庫にこもり、書簡の封蝋を砕いていた。

「……やはり、王妃派の貴族たちが動いていたか」

リリーナに届いた隣国ファルデアからの縁談話。
その出所は、第一王子の王妃方に連なる有力家門──
“リリーナを遠ざければ、ユリアンの支持基盤が弱まる”と踏んでの動きだった。

エドガーは苦い息を吐き、報告のために立ち上がる。

 

その頃、リリーナは寝椅子にもたれ、ひとり静かに呼吸を整えていた。
額にうっすら汗を浮かべ、肌は少し蒼白に――演技だった。

彼女は白魔法を自身に流し、軽い火照りを生む程度に調整していた。
治すのではなく、あえて“少し体調の悪い状態”を演出するために。

その後、医師に呼吸の浅さと微熱を確認させ、侍女たちに伝えさせる。
「姫様はやはりご無理をされている」「また体調がすぐれないようです」
そうした声が、城中を静かに伝わっていく。

そしてそれは、意図した通りに“公的な判断材料”となる。
――異国の王子に嫁ぐには、あまりに虚弱すぎる王女だと。

リリーナは視線を横に向け、窓の外の空を見上げた。
雲の切れ間から降る光が、まるで雪を誘うように冷たく澄んでいた。

(私には、居場所が必要なの。ユリアンの傍で、彼を見守る……それが唯一の願い)

 

その夜、ユリアンの誕生日の準備が始まった。

祝宴の準備、贈り物の調整、警備の強化。
宰相家からも動員があり、城はどこかざわついている。

「……姫様、噂の効果は出ています。縁談は“慎重に再検討”となりました」

エドガーの報告に、リリーナは小さくうなずいた。

「よかったわ。でも油断しないで。相手が諦めるまでが、仕事よ」

「承知しています」

火鉢にくべた炭が、ぱち、と小さく音を立てた。

リリーナは椅子に背を預け、ほんの少しだけ、安堵の息を吐いた。
ユリアンが作ってくれた未完成の魔石を、そっと胸に抱いて。

冷たい風が吹き込むその夜、王城は雪の気配を孕み始めていた。
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