病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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城の奥、報告が集まる執務室には、今までにない重みがあった。
春の陽は穏やかでも、その光を浴びる机の上には、いくつもの封蝋が押された書簡が並んでいる。

「リラード家、次男戦死。ブルノワ家、長男重傷。フレイラン家の三男、消息不明――」

カミラが読み上げるたび、沈黙が降り積もる。
報告はいずれも、王国の魔法騎士団所属の若者たち。第一王子ヴァルセリオスに従って前線へ赴いた者たちの結末だ。

「報せは、これでまだ半分」

エドガーが低く言った。

「戦そのものは拡大していない。しかし、局地的な襲撃や略奪行為は続いている。味方に損耗が出れば出るほど、敵は強気になる」

リリーナは、すぐに言葉を返さなかった。
その胸元では、アクアマリンの魔石が静かに冷たい光を湛えていた。

「ユリアンは?」

「学習室にいます。今日は剣の稽古の予定は、休みに」

「……様子を見に行くわ」



書庫の隣に設けられた小さな学習室。
そこに、剣も魔法も教本も広げず、窓辺に座るユリアンの姿があった。

春の風が薄く開いた窓から吹き込み、金色の髪が揺れる。

「ユリアン」

「……姉さま」

その声には、いつもの明るさがなかった。
それでもユリアンは顔を上げ、リリーナの方を向いた。

「さっき、レイナから聞いたんだ。騎士団の人が何人も、帰ってこないって……」

「……そう。帰れなかったのね」

「“帰ってこない”って、死んじゃったってことなんだよね……?」

リリーナは小さく息を吸い、ユリアンの隣に座った。

「姉さまは、怖くないの?」

「怖いわ」

正直な答えだった。
けれど、リリーナの声音は揺れていなかった。

「けれどそれでも、私はこの国を信じたい。守ろうとしてくれる人の想いを、無駄にしたくないと思ってるの。だから……祈るの」

ユリアンはその言葉を静かに聞いて、胸元のアクアマリンにそっと触れた。

「ぼくも、祈ってるよ。姉さまが、ずっとそばにいてくれますようにって……」

リリーナは、小さく微笑んだ。

「ありがとう、ユリアン」

その手がユリアンの頭を撫でる。
窓の外では、春の花がようやく色を持ちはじめていた。
だが、風は――確かに、戦場の匂いを運んでいた。
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