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秋――それは本来、すべてが満ちる季節であるはずだった。
けれど、今年の王都は沈黙していた。
風に揺れる穂は、まばらで痩せている。農村から届く荷馬車の数は例年の半分、積まれた麻袋は驚くほど軽かった。
「……これが、今年の集荷量の最終報告です」
エドガーが差し出した文書を、リリーナは黙って受け取った。
その数字は、目を疑いたくなるほどに少ない。平年比、およそ六割。
それも、乾燥や病害によるものではなかった。
「徴兵による人手不足……ですか」
「はい。若手の農民や作業者の多くが戦地か、徴用隊に組み込まれています。加えて、戦乱の噂が広まり、近隣村からの商人も王都入りを敬遠し始めています」
「……都市部の価格高騰が起きるわね。すでに小麦と根菜の値は二割以上上昇していると聞いています」
「下層の者たちは、今年の冬を越せないかもしれません」
書簡を手にしたまま、リリーナは目を伏せた。
胸元では、ユリアンから贈られたアクアマリンが、淡く冷たい光を灯している。
「戦に民を取られ、農を、街を、日々の営みを守る者すら奪われていく。……それで、何を守ると言うの?」
自問のような呟きだった。けれど、傍らにいたエドガーは、その言葉に鋭く視線を向けた。
「殿下」
「……奨学基金の一部を、救済食糧の購入に回しましょう。冬が来る前に、主要都市の配給網を整備する。それと……」
リリーナは振り返り、机の上にあったもう一枚の書簡――庶民からの寄付申し出書を手に取った。
「“民が民を救う”という形も必要だわ。教会と連携し、奉仕による報酬制度を設けましょう。自らの手で街を守ることは、彼らの尊厳にもなるはず」
エドガーはその提案に即座に頷いた。
「リリーナ様、第一王子殿下の陣からも、被害報告が増えてきています。今後はさらに厳しい冬になるかと……」
「だからこそ――支えるわ」
リリーナは静かに微笑んだ。
誰の目にも、それは聖女の微笑だった。
けれど、誰よりも早く“戦火の裏で崩れる国家”を見ていたのは、他でもない彼女だった。
けれど、今年の王都は沈黙していた。
風に揺れる穂は、まばらで痩せている。農村から届く荷馬車の数は例年の半分、積まれた麻袋は驚くほど軽かった。
「……これが、今年の集荷量の最終報告です」
エドガーが差し出した文書を、リリーナは黙って受け取った。
その数字は、目を疑いたくなるほどに少ない。平年比、およそ六割。
それも、乾燥や病害によるものではなかった。
「徴兵による人手不足……ですか」
「はい。若手の農民や作業者の多くが戦地か、徴用隊に組み込まれています。加えて、戦乱の噂が広まり、近隣村からの商人も王都入りを敬遠し始めています」
「……都市部の価格高騰が起きるわね。すでに小麦と根菜の値は二割以上上昇していると聞いています」
「下層の者たちは、今年の冬を越せないかもしれません」
書簡を手にしたまま、リリーナは目を伏せた。
胸元では、ユリアンから贈られたアクアマリンが、淡く冷たい光を灯している。
「戦に民を取られ、農を、街を、日々の営みを守る者すら奪われていく。……それで、何を守ると言うの?」
自問のような呟きだった。けれど、傍らにいたエドガーは、その言葉に鋭く視線を向けた。
「殿下」
「……奨学基金の一部を、救済食糧の購入に回しましょう。冬が来る前に、主要都市の配給網を整備する。それと……」
リリーナは振り返り、机の上にあったもう一枚の書簡――庶民からの寄付申し出書を手に取った。
「“民が民を救う”という形も必要だわ。教会と連携し、奉仕による報酬制度を設けましょう。自らの手で街を守ることは、彼らの尊厳にもなるはず」
エドガーはその提案に即座に頷いた。
「リリーナ様、第一王子殿下の陣からも、被害報告が増えてきています。今後はさらに厳しい冬になるかと……」
「だからこそ――支えるわ」
リリーナは静かに微笑んだ。
誰の目にも、それは聖女の微笑だった。
けれど、誰よりも早く“戦火の裏で崩れる国家”を見ていたのは、他でもない彼女だった。
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