病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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エピローグ

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王城の離宮――それは元より静謐な空間だったが、今はさらに気配が薄くなっている。
政務に追われる王太子ユリアンの足音すら響かぬ時間帯、私は久しぶりに、かつての友人に会いに来た。

護衛の騎士たちはすっかり私を見知っている。軽く会釈を交わし、控えの間を通って寝室の扉を叩く。

「カミラ……いらっしゃい」

扉の向こうから、鈴を転がしたような声が返る。もう何年も聞いてきた声だというのに、どこか夢の中のように儚くて、どこか現実離れしている。リリーナは白い寝椅子にもたれ、薄いショールを肩にかけていた。顔色は決して悪くないが、あれほど強かった眼差しは今、柔らかに、静かに落ち着いている。

「退屈していないかと思って。新しいお菓子を持ってきたのだけれど」

「嬉しいわ。ありがとう、カミラ」

紅茶を注ぎながら、私はしばらく沈黙した。お互い、何も言わずともわかっている。

――彼女がこの離宮を出ることは、もうないだろう。

ユリアンがそうさせている。いや、正確には――

「幸せそうね、リリーナ」

その言葉に、彼女はほんの少しだけ、微笑んだ。

「ええ、そうね。とても、穏やかで」

それ以上は語らない。けれど私は知っている。
彼女の左手には、ユリアンから贈られた新しいアクアマリンの指輪が光っていた。首元には、小さなアクアマリンがより集められた小さなネックレス。誰も知らない、でもすべてを物語るように。

かつて私は、この女を国のための駒だと思っていた。遠方に嫁がせ、王権を整理するための調整弁だと。
けれど――
彼女は己の意思で、王を育て、導き、そして誰よりも王に愛された。

「……罪深い姉弟ね」

私のつぶやきに、リリーナは小さく笑った。

「罪深くても、手放せないものがあるわ」

その時、控えの間の扉が開き、低く澄んだ声が響く。

「カミラ、そろそろ時間だ」

王太子ユリアン・アルヴェイン。
かつての少年は、すでに王の威厳を纏っていた。

「ええ、そろそろ帰るわ。お邪魔したわね、リリーナ」

「また来てね、カミラ」

去り際、私は二人の姿をもう一度だけ見つめた。

――確かに、禁忌だろう。
けれど、それでも、この国はきっと安定する。
罪と共に歩むこの姉弟こそが、王と王の影にふさわしいのだから。

私は踵を返し、静かに扉を閉じた。
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