病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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後日談 離宮の主

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 白いドレスの襟元を、そっと指がほどいた。
 胸元に、薔薇の花びらのように広がる傷跡。雪のように白い肌に刻まれた、あの夜の爪痕。

「……消えないんだね」

 リリーナは微笑んだ。どこまでも優しく、どこまでも痛ましく。

「ええ。たぶん、ずっとこのまま」

 ユリアンの手が、震えていた。
 治癒の祈りを尽くし、最良の白魔法師を揃えてもなお、癒えなかった。
 姉の命を繋いだ代償として刻まれた、無惨な紅。

「俺のせいだ。あの時、もっと……もっと早く、気づけていれば」

「違うわ、ユリアン。あなたのせいじゃないの」

 指先が、彼の頬を撫でる。
 その手は細く、体は未だに本調子ではないのに、彼を赦し続けるようにあたたかい。

「あなたが守ってくれたの。だから私は、今ここにいる」

「でも……でも、こんな……」

 ユリアンの声が掠れる。

「こんな美しかった身体に、俺が……」

「ねえ、ユリアン」

 リリーナは囁いた。

「この傷は、あなたがくれたものよ」

 息をのむように彼の目が揺れる。

「あなたが、私を守りたいと願ってくれた証。だったら私は、誇らしく思うわ」

 そして、静かにその手を取って、自らの傷跡へと導いた。

「触れて、ユリアン。……これが、私たちを繋ぐ印よ」

 ユリアンは堪えきれず、その傷跡に口づけた。
 涙が零れ、紅く刻まれた痕に落ちた。

「ずっと、ここに閉じ込めておく。
もう二度と、誰にも触れさせない……」

「ええ、私はあなたのもの。あなたが望むなら、どこへも行かないわ」

 扉の向こうで、誰かがノックする音がした。
 けれど、ユリアンは振り返らなかった。

 いまこの時だけは、世界にただふたりだけ。

 姉と弟という関係を、誰も知らない檻の中に隠しながら。
 その傷ごと、互いを深く、貪るように愛していた。
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