突然の花嫁宣告を受け溺愛されました

やらぎはら響

文字の大きさ
9 / 35

9

しおりを挟む
 ホテルで世話になって二日目の朝、朝食を取るためにテーブルセットのある部屋へ入ると、ルキアージュが初めて会った時のようなスリーピースのスーツを着ていた。
 ぱちりと目を瞬くと、テーブルセットについてコーヒーを飲んでいたルキアージュが尚里に気付き立ち上がった。
 食事をいつも尚里と取っているので先に口にしているのは珍しい。
 そう思ってテーブルの上を見ればコーヒーだけしか乗っていない。

「すみません尚里、日本の外交官達にどうしてもと会食を申し込まれました。少し行かなければなりません」

 それでコーヒーだけなのかとか、外交官という単語に次元が違うと思いながらもなんとか頷いた。

「フルメルスタ、尚里を頼む」
「はっ」

 テーブルの横に控えていたフルメルスタが頷いた。

「え、いや、俺に?」

 何でだと思っていると、目前まで歩いてきたルキアージュががスーツの胸ポケットから、ビロードの黒い小箱を差し出した。

「これを身につけていてください」

 パカリと開いたそこには、金色の台座の上にとても透明度の高いマリンブルーの宝石が鎮座している指輪があった。

「無理!」

 一瞬で断ったけれど、指輪を取り出すとルキアージュは尚里の左手をそっと手に取った。
 あらがったのにびくともしなくて驚いた。

「これはトゥルクロイドといってアルバナハルの王家に代々保管されている、イシリスの指輪です」
「いやいやいや、無理無理無理」

 ぶんぶんと頭を振って辞退をするけれど、なめらかな動きなのに有無を言わせない強引さで左手の薬指に指輪が嵌められてしまった。

「イシリスの花嫁だけが身につけられる指輪です。あなたの指にあることが本来の居場所ですよ」

 ちゅっとトゥルクロイドというらしい宝石に口づけると、ルキアージュはさっさと離れて扉の方へと長い足で向かってしまった。

「ちょっこれ」

 慌てて指輪を外そうとするけれど。

「尚里、それは採掘できない宝石です。大事にしてくださいね。花嫁が持つものですから」
「わああ!返す」

 あわあわと指輪を外そうとしたけれど、それより早くルキアージュは悪戯気に笑って扉を出ていってしまう。
パタンと無情にも扉が閉まった。
 しばし呆然と立ち尽くしていると、カチャカチャとした音が部屋に響く。
 そちらを見やれば、ワゴンからテーブルの上へと皿やカップなどをフルメルスタが並べていた。

「あの、フルメルスタ、さん」
「フルメルスタとお呼びください尚里様。朝食をどうぞ」

 武骨に頭を下げるフルメルスタに促されて、尚里はおそるおそるテーブルについた。
 保温のためにされていたシルバーのカバーをパカリと外すと、目玉焼きの乗ったパンケーキにソーセージやラタトゥイユが添えられている。
 紅茶をカップに注がれるあいだ、おそるおそる何度も指輪を見てしまう尚里だ。
 カップをテーブルに置かれたので、尚里はそろそろとフルメルスタを見上げた。
 背が高く体の厚みもあるフルメルスタに、ぎこちなく左手の指輪を指してみせる。

「あの、フルメルスタからこれ返してもらうわけには」
「尚里様、トゥルクロイドはイシリス以外では花嫁だけが触れることを許されております」

 言われてがくりとしてしまう。
 ということは、ルキアージュがいなくなったいま現在指輪をしている尚里がこのまま持っておくしかない。

「持っておくの怖いんだけど」

 はあーと長い溜息が出てしまう。

「イシリスの花嫁の証ですから受け入れてください」
「うぅ」

 さあ、どうぞと言われてナイフとフォークを手に取ると、ソーセージをパキリと切って口へ運ぶ。
 ジューシーな肉の味わいに思わずじんわりした。

「それにしても、イシリスの笑うところなんて初めて見ました」
「いや、ずっと笑ってるけど」

 何を言っているんだ。

「外交的な笑みは浮かべても、それ以外では初めてみました。尚里様がよほど愛しいのでしょう。小さい頃は尚里様も知っての通り記憶があるせいか、悟りを開いたような凪いだ心と表情でした」
「……見えない」

 そもそも花嫁といきなり言って、愛しいとか言われても尚里のどこを好きになったのかまったくわからない。
 しかしルキアージュもフルメルスタも嘘を言っているようには見えないし、そんなことをする必要もないだろう。

(どうなるんだ、これ)

 ちらりと左手薬指に視線を落とすと、尚里は深々とした溜息を飲み込んだ。
 結局ルキアージュがいない部屋にいてもしょうがないし、やることもないからとフルメルスタが渋い顔をするなか、尚里はカフェへ出勤した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

翼が生えた王子は辺境伯令息に執心される

尾高志咲/しさ
BL
「ふわふわな翼が!背中に?」 慌てる僕の元にやってきたのは無表情な美形婚約者。どどどうする!? ――ファンタン王国の第五王子ミシューの背中に、ある朝目覚めたら真っ白な翼が生えていた。原因がわからずに慌てふためいていると、婚約者の辺境伯令息エドマンドが会いにやってくる。美形でいつも無表情なエドマンドは王都から離れた領地にいるが、二月に一度は必ずミシューに会いにくるのだ。翼が生えたことを知られたくないミシューは、何とかエドマンドを追い返そうとするのだが…。 ◇辺境伯令息×王子 ◇美形×美形 ◆R18回には※マークが副題に入ります。 ◆誰にも言えない秘密BLアンソロジー寄稿作品を改題・改稿しました。本編(寄稿分)を加筆し続編と番外編を追加。ほのぼの溺愛ファンタジーです。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります

かとらり。
BL
 前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。  勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。  風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。  どうやらその子どもは勇者の子供らしく…

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...