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第1部 貴族学園編
3 薔薇とタンポポ
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貴族学園の今年の入園者は、上は王太子様から下は私達男爵家の双子まで。病気とかの特別な事情がない貴族の子供達が全員集められた。
クラスは薔薇組とタンポポ組に別れていた。王太子様と伯爵家以上の上級貴族は薔薇組で、私達下級貴族の子はタンポポ組だ。
よし、薔薇組とは絶対に関わらないようにしよう。なるべく目立たなく過ごしたい。
大ホールで、特別ゲストの王太后様の演説を聞きながら、私はリョウ君の隣の椅子に座って、まわりの園児をこっそり見渡した。
タンポポ組の生徒の席は後ろで、一緒に座る保護者は男爵家や子爵家の者ばかりだ。その中でも、最近、貴族になったばかりのうちの序列が一番低いんだけど、「Sランク冒険者の」とひそひそささやく声が聞こえてくる。父の評判は、なかなか良いみたい。
びくびくしながら背中を丸めて座っている母様にも、入園式が始まる前には、魔道具を商う子爵や男爵夫人が会釈していた。大丈夫だよ、母様。下級貴族ならなんとかなる。なにせ、うちは裕福だ。
前世の幼稚園と違うのは、外観が豪華な邸宅ってことと、集められた園児が貴族の子ってとこ。大理石のホールでみんな行儀よく背筋を伸ばして座って、王太后様の話を聞いている。これから王太子様と同じ場所で学ぶことになるんだもんね。失礼があったらいけないからって、みんな事前にしっかり教育されてるよ。もう、ここで学ぶ必要はないんじゃないってくらいに、礼儀作法はばっちりだよね。
うちもね、私は、中身が前世14歳だから、姉として、しっかりと、リョウ君を教育しましたとも。うちの弟は、立派なかわいい男爵家嫡男ですよ。王太后様の話が退屈で、足をぶらぶらさせちゃってるけど。かわいいから許す。
ただね、私達二人は父親と同じで、金髪に紫の瞳っていう上級貴族の色合いをしているから、これが悪目立ちするみたい。入園式が終わって、各クラスへ移動してるんだけど、側を通る保護者達は私達の目を見て、ぎょっとして振り返って、二度見して行った。
「お前たち、どこの家の者だ! なぜ王族の紫の目をしている!」
ほらね、こんな風に。
「王太子殿下にご挨拶します」
私は付け焼刃で覚えたカーテシーで、制服のワンピースをつまんで、膝を曲げて挨拶した。隣でリョウ君も緊張しながらも、ボウ&スクレイプで右腕を前にして、足を引いて挨拶する。
「わたしはクリストファー・ゴールドウィン男爵の娘、レティシアです。隣は弟のリョウです」
「クリストファー・ゴールドウィン!」
「あの紫眼のクリス様の?!」
「子供がいたのか?! 双子?」
「なんてことだ」
近くにいた貴族達は父様の名前にざわめいた。
父は有名人だったみたい。まあ、名門ゴールドウィン公爵の次男でありながら、冒険者になるって家出した規格外の存在だったらしいんで。
「男爵だと?! 男爵が紫眼を持つのは、なまいきだ! その目をよこせ!」
でも、父のことを知らない王太子ビクトル様は、私をにらみつけて、恐ろしいことをおっしゃった。
どうしよう。相手は、まだ5歳。子供だからね。ここは適当になだめて……。
後ろにいる母様に助けを求めたいけれど、母様はぶつぶつと小声でつぶやいていた。
「目を取り換えたらどうなるのかしら? 貴族の目の色は魔力によって変化するから、眼球を移植することができたとしても、やっぱり魔力が少ないと紫色を維持できずに、変化してしまうんじゃない? 眼球移植は失明の危険があるから、気軽に試せないし……。いっそ頭部ごと取り替えたら」
恐ろしい独り言を言う母様の足を踏んで黙らせた。母様のつぶやき声が聞こえてしまった? 私と弟をにらんでいる王太子の薄い水色の目が険しさを増す。どう返事するのが正解なのか急いで頭を巡らせた。
「目玉をあげちゃったら、目が見えなくなります」
隣で、リョウ君がまっすぐに王太子を見ながら口を開いた。
「ぼくは、この目でよく見て、学園で、がんばって勉強します。それから、大人になったら、王国のために、いっしょうけんめい働きます」
ああ、リョウ君! さすが私のかわいい弟! リアル5歳なのにしっかりしてる! おもわず拍手したくなるかわいさだった。
「うるさい! 男爵の子供ごときが! さっさとおれにおまえの目をよこすんだ!」
でも、王太子にはリョウ君のかわいさは通用しなかった。地団駄を踏んで怒り出した。
「はやくその目をえぐり出せ! おれがもらってやる!光栄だと思え! なまいきな男爵の子供め!」
私とリョウ君を大声で怒鳴りつける王太子を、周囲の大人たちは遠巻きに見るだけだった。みんな王太子の癇癪に関わりたくないんだろう。
でも、そんな中から1人、キラキラしたホワイトブロンドの女の子が出て来た。
「ビクトル様。薔薇組の教室に参りましょう。みんな殿下のことを待ってますわ」
ホワイトブロンドに大きな青い瞳の美少女が出現した!
「なんだ、ベアトリスか。おれを呼びに来たのか?」
さっきまで、真っ赤な顔で怒鳴っていた王太子は、美少女を見るなり、ころっと態度を変えて笑顔になった。
「ええ、ビクトル様が来られなければ、次の予定が進みませんもの。早く行きましょう? それでは、失礼しますね、レティシアさん。リョウさん、先ほどの発言、ご立派でしたわ」
美少女ベアトリス様に手を引かれて、王太子は素直に付いて行った。
去り際に美少女に微笑まれたリョウ君は、きょとんとして、二人の後姿をじっと見つめている。
すごい、さすが上級貴族。しっかりしてるし、所作も美しい。本当に5歳? たしかベアトリス様ってシルバスター公爵家の令嬢だったよね。貴族年鑑で上級貴族のことは予習してきたよ。わが国に3つある公爵家のうちの一つだ。その身分の高さから、王太子の婚約者候補に選ばれてるんだよね。わがままな王太子も、ベアトリス様の言うことは素直に聞くんだ。うん、よかった。ちゃんと側に良い子がいて。
「ねえ、眼球を移植したら魔力による色の変化ってあると思う? 片目だけ移植したら色違いになる? 」
後ろで、母様がまだぶつぶつ言ってるんで、肘でつついて黙らせた。もうっ、目の色は王族にとってデリケートな話題なんだってば。そんなことより、母親なら、ちゃんとリョウ君の目を王太子から守ってよ。
クラスは薔薇組とタンポポ組に別れていた。王太子様と伯爵家以上の上級貴族は薔薇組で、私達下級貴族の子はタンポポ組だ。
よし、薔薇組とは絶対に関わらないようにしよう。なるべく目立たなく過ごしたい。
大ホールで、特別ゲストの王太后様の演説を聞きながら、私はリョウ君の隣の椅子に座って、まわりの園児をこっそり見渡した。
タンポポ組の生徒の席は後ろで、一緒に座る保護者は男爵家や子爵家の者ばかりだ。その中でも、最近、貴族になったばかりのうちの序列が一番低いんだけど、「Sランク冒険者の」とひそひそささやく声が聞こえてくる。父の評判は、なかなか良いみたい。
びくびくしながら背中を丸めて座っている母様にも、入園式が始まる前には、魔道具を商う子爵や男爵夫人が会釈していた。大丈夫だよ、母様。下級貴族ならなんとかなる。なにせ、うちは裕福だ。
前世の幼稚園と違うのは、外観が豪華な邸宅ってことと、集められた園児が貴族の子ってとこ。大理石のホールでみんな行儀よく背筋を伸ばして座って、王太后様の話を聞いている。これから王太子様と同じ場所で学ぶことになるんだもんね。失礼があったらいけないからって、みんな事前にしっかり教育されてるよ。もう、ここで学ぶ必要はないんじゃないってくらいに、礼儀作法はばっちりだよね。
うちもね、私は、中身が前世14歳だから、姉として、しっかりと、リョウ君を教育しましたとも。うちの弟は、立派なかわいい男爵家嫡男ですよ。王太后様の話が退屈で、足をぶらぶらさせちゃってるけど。かわいいから許す。
ただね、私達二人は父親と同じで、金髪に紫の瞳っていう上級貴族の色合いをしているから、これが悪目立ちするみたい。入園式が終わって、各クラスへ移動してるんだけど、側を通る保護者達は私達の目を見て、ぎょっとして振り返って、二度見して行った。
「お前たち、どこの家の者だ! なぜ王族の紫の目をしている!」
ほらね、こんな風に。
「王太子殿下にご挨拶します」
私は付け焼刃で覚えたカーテシーで、制服のワンピースをつまんで、膝を曲げて挨拶した。隣でリョウ君も緊張しながらも、ボウ&スクレイプで右腕を前にして、足を引いて挨拶する。
「わたしはクリストファー・ゴールドウィン男爵の娘、レティシアです。隣は弟のリョウです」
「クリストファー・ゴールドウィン!」
「あの紫眼のクリス様の?!」
「子供がいたのか?! 双子?」
「なんてことだ」
近くにいた貴族達は父様の名前にざわめいた。
父は有名人だったみたい。まあ、名門ゴールドウィン公爵の次男でありながら、冒険者になるって家出した規格外の存在だったらしいんで。
「男爵だと?! 男爵が紫眼を持つのは、なまいきだ! その目をよこせ!」
でも、父のことを知らない王太子ビクトル様は、私をにらみつけて、恐ろしいことをおっしゃった。
どうしよう。相手は、まだ5歳。子供だからね。ここは適当になだめて……。
後ろにいる母様に助けを求めたいけれど、母様はぶつぶつと小声でつぶやいていた。
「目を取り換えたらどうなるのかしら? 貴族の目の色は魔力によって変化するから、眼球を移植することができたとしても、やっぱり魔力が少ないと紫色を維持できずに、変化してしまうんじゃない? 眼球移植は失明の危険があるから、気軽に試せないし……。いっそ頭部ごと取り替えたら」
恐ろしい独り言を言う母様の足を踏んで黙らせた。母様のつぶやき声が聞こえてしまった? 私と弟をにらんでいる王太子の薄い水色の目が険しさを増す。どう返事するのが正解なのか急いで頭を巡らせた。
「目玉をあげちゃったら、目が見えなくなります」
隣で、リョウ君がまっすぐに王太子を見ながら口を開いた。
「ぼくは、この目でよく見て、学園で、がんばって勉強します。それから、大人になったら、王国のために、いっしょうけんめい働きます」
ああ、リョウ君! さすが私のかわいい弟! リアル5歳なのにしっかりしてる! おもわず拍手したくなるかわいさだった。
「うるさい! 男爵の子供ごときが! さっさとおれにおまえの目をよこすんだ!」
でも、王太子にはリョウ君のかわいさは通用しなかった。地団駄を踏んで怒り出した。
「はやくその目をえぐり出せ! おれがもらってやる!光栄だと思え! なまいきな男爵の子供め!」
私とリョウ君を大声で怒鳴りつける王太子を、周囲の大人たちは遠巻きに見るだけだった。みんな王太子の癇癪に関わりたくないんだろう。
でも、そんな中から1人、キラキラしたホワイトブロンドの女の子が出て来た。
「ビクトル様。薔薇組の教室に参りましょう。みんな殿下のことを待ってますわ」
ホワイトブロンドに大きな青い瞳の美少女が出現した!
「なんだ、ベアトリスか。おれを呼びに来たのか?」
さっきまで、真っ赤な顔で怒鳴っていた王太子は、美少女を見るなり、ころっと態度を変えて笑顔になった。
「ええ、ビクトル様が来られなければ、次の予定が進みませんもの。早く行きましょう? それでは、失礼しますね、レティシアさん。リョウさん、先ほどの発言、ご立派でしたわ」
美少女ベアトリス様に手を引かれて、王太子は素直に付いて行った。
去り際に美少女に微笑まれたリョウ君は、きょとんとして、二人の後姿をじっと見つめている。
すごい、さすが上級貴族。しっかりしてるし、所作も美しい。本当に5歳? たしかベアトリス様ってシルバスター公爵家の令嬢だったよね。貴族年鑑で上級貴族のことは予習してきたよ。わが国に3つある公爵家のうちの一つだ。その身分の高さから、王太子の婚約者候補に選ばれてるんだよね。わがままな王太子も、ベアトリス様の言うことは素直に聞くんだ。うん、よかった。ちゃんと側に良い子がいて。
「ねえ、眼球を移植したら魔力による色の変化ってあると思う? 片目だけ移植したら色違いになる? 」
後ろで、母様がまだぶつぶつ言ってるんで、肘でつついて黙らせた。もうっ、目の色は王族にとってデリケートな話題なんだってば。そんなことより、母親なら、ちゃんとリョウ君の目を王太子から守ってよ。
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