【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか

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第1部 貴族学園編

2 貴族学園

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  私の名前はレティシア・ゴールドウィン。父は冒険者のクリストファー、母は魔道具職人のナタリー。双子の弟のリョウがいる、っていうことになってる。

 本当は、国王と政略結婚をした元公爵令嬢オリヴィア・ゴールドウィンの娘なんだけどね。二人は白い結婚だったって神官が偽証してるんで、まあ、そういうこと。従弟のリョウ君の双子の姉ってことにして、戸籍を偽って育てられたの。

 それと、もう一つ。家族しか知らない秘密がある。私は生まれてすぐに、前世の記憶を思い出した。日本人として生まれて死んだ中学生の記憶をね。つまり、私は、異世界に転生したってこと。

 生まれはややこしいけど、弟のリョウ君はかわいいし、育ての両親は変人だけど、世話はしてくれるんで(召使いまかせだけどね)、まあ、それなりに勝ち組転生じゃない? って思ってた。父様の冒険者としての稼ぎは良かったし、母様の魔道具も売れてるからね。平民の中では裕福な暮らしだよ。このまま、平穏ほのぼの転生ライフが送れるって信じてた。

 Sランク冒険者になった父様が、男爵の爵位をもらうまではね。

 男爵って、一番下の階級だけど、いちおう貴族。人が住めない険しい山地だけど、いちおう領地もある。

 そして、平民と違って貴族には、恐ろしい義務があった。

 魔力持ちの子供が14歳から通うのは王立魔法学校。でも、貴族の子供の場合はこれに加えて、5歳の時に1年間だけ貴族学園に通う義務がある。

 だから、私、レティシア・ゴールドウィンと弟、リョウは貴族学園の入園式に行くことになった。




「うわぁ、すごいね。姉さま、あれは何?」

 馬車を降りると、学園の園庭が見えて来た。大きな木製の遊具がフェンス越しに見える。リョウ君が目を輝かせた。

「すべり台かな? 後ろにある階段を上って、すべり降りて遊ぶんだと思う」

 私はリョウ君の隣に立って、園庭を指さした。

「ブランコやのぼり棒もあるね。みんなと遊べるわよ」

 紫色の目をキラキラさせて、リョウ君はフェンス越しに見える園庭にくぎ付けになっていた。リョウ君は私と同じ、金髪に紫の目だけど、顔立ちは母様にそっくり。細長い目とぷっくりしたほっぺをしている。穏やかな癒し系の顔立ちだ。その弟とよく似た顔の母様は、顔をこわばらせて、私とつないだ手が少し震えていた。

「母様、大丈夫?」

「レティちゃん~。ぜんっぜん、大丈夫じゃないの!」

 泣きそうに顔をしかめて、母様はしゃがみこんだ。

「また貴族になるって決めたけど、もう、社交はこりごりなのよ。私、魔法学校に通ってた時も、伯爵令嬢なのにいじめられてたのよ。それが今度は下っ端の男爵夫人よ。何を言われるか……」

 私は、涙目の母様の背中に手を回して、ぽんぽんと優しくたたいた。

「大丈夫。母様が貴族学園に来るのは、今日の入園式だけでいいからね。後は、メイドのメアリに送ってもらうから。母様は魔道具の仕事で忙しいんだから。園の行事に参加する暇なんてないってこと、分かってもらえるよ」

 母様は、貴族社会には向かない性格だったから、魔法学校卒業後、貴族をやめて魔道具職人になった。そして、冒険者になるって家出して勘当された父様と出会って結婚したんだって。
 でも、二人とも、ある目的があって、貴族しか利用できない特権を利用するために、昨年、男爵になった。目的を達成したら、また平民に戻ればいいって気楽に考えてるみたいだけど、貴族学園に通わなきゃいけない子供の身としてはキツいんだけど。どうしてくれよう。

「ああ、胃が痛い。でも、母様がんばるわ。勇者の魔道具のために貴族に戻るって決めたんだから……。ああ、でも、いやだよいやだ、いやだよう。ママ友いじめにあったらどうしよう。きっといじめっ子がいるよね。いじめっ子ママ。貴族のママ友いじめ、いやだいやだ」

 ぶつぶつと言っている母様に、すべり台をきらきらの目で見ていたリョウ君が顔をゆがめた。

「母様、だいじょうぶ? こわいの? 学園ってこわいとこなの?」

 ああ、いけない。ネガティブ思考の母様の側にいると、かわいい弟のリョウ君にまでマイナス思考が移ってしまう。

「大丈夫よ。リョウ君。姉さまがついてるからね。いじめっ子は全員、姉さまがやっつけてあげるから。それから、母様。後ろの方で目立たないように静かに座ってれば、入園式なんてすぐに終わるよ。そんなに怖がらないで。リョウ君まで不安になっちゃうでしょ」

 母様は魔道具にかけては天才だけど、それ以外ではまるでダメ人間だった。

「うん、レティちゃん。私、がんばってみる。じゃあ、勇気を出して門をくぐるから、私の手をつないでちょうだい」

 母様は私とリョウ君の手をぎゅうっと握って、「入園おめでとう」と書かれた垂れ幕のついた門を見上げた。男爵という低い序列を考えて、早い時間に来たので、まだ、人影はまばらだった。
 前世14歳、今世は5歳の私は、久しぶりの学園生活に、ちょっとドキドキしながら、ゆっくりと門をくぐった。
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