初恋のひとに告白を言いふらされて学園中の笑い者にされましたが、大人のつまはじきの方が遥かに恐ろしいことを彼が教えてくれました

3333(トリささみ)

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「……婚約破棄?」

 後日。
 王太子は目を剥いて皇族たちに聞き返した。

「理由はお分かりですね?」
「……はい。」

 皇后があえて婚約破棄の理由を告げる。

「以前の婚約記念で、貴国の品格に疑いを抱いてのことです。聞けば彼、貴国でも王家の次に尊い公爵家の御令息でしたのね?それも婚約者に近い相手が他にいるとのことで。」
「っ!……か、彼はわたくしどもにとっても困った人間で…」

 国王の弁解に、天皇が毅然とかぶりを振る。

「貴族が貴族としての自覚を持たないというのは、それだけで重罪です。それともそちらでは自然なことなのですか?」
「!?…い、いえ、そのような!」

 王太子と国王は項垂れながら、皇族たちの苦情を聞き入れ、婚約破棄を受け入れた。
 同盟国とはいえ、大切な娘を慣れない他国に嫁がせる大切な契約だったのだ。
 そのお祝いの序盤から、候補とはいえ婚約者のいる男性が、未婚の女性に無断でキスを迫るところを見せてしまった。
 大変見苦しい場面でもあるのだが、この状況でそんなことをすれば、それは『結婚すればお前もこう扱うからな』と暗に言っているものと思われても仕方がないのだ。

「……ああ、そんな、僕はいったい、どうすれば。」

 話し合いが終了してひとりになり、今にも叫びたいほどの絶望に駆られた王太子のもとに、レオナルドがやってきた。

「タイシ!」

 レオナルドは王太子の両手を掴む。

「この度は本当に残念なことになった!僕も胸が痛いよ!まったくアリサときたら、天皇陛下がたがいらっしゃるなかで、あんなにヒステリックに騒ぎ立てるとは!今度会ったときは、僕からアリサにキツく言っておく!だから彼女を罰するのは勘弁してあげてくれ!」
「……………」

 その言葉を聞いたとたん、王太子は無言無表情でレオナルドを見つめる。
 そして微笑んだ。

「ああ、わかったよ。」
「そうか!ありがとう!」

 その様子に安堵したレオナルドは、それだけ言い残してその場を去っていった。



 * * *



「…失礼致します。」

 また別の日。
 アリサは皇女に呼ばれて、とある一室に足を運んだ。

「どうぞおかけになってください。」
「あ、ありがとうございます。」

 やはり緊張は拭えないなか、淑女としての振る舞いとしてそれを隠す。

「単刀直入に用件を申しましょう。以前のパーティーで貴女様にキスを迫ったレオナルド・デュン・ブライデン様について。あの方とどういういきさつがあって、あのような事態になったのか、詳しくお聞かせ願えませんか?」

 この国にとってマイナスになるのでは?
 自分も何かしらの罰を受けるのでは?
 懸念はあったが、誠意ある対応として、レオナルドとのこれまでを正直にすべて語った。

「……………」

 皇女は真っ青のまま何も言わない。
 その様子は現代でいうところの『ドン引き』に近かった。

「わたくしからお話しできることはこれだけなのですが…」
「充分です。ありがとうございました。」

 同盟国の官僚から『参考までに話を聞いただけで、国や貴女の評価には関係しない』という説明を受け、アリサは安心して部屋を出て帰路に就く。
 その道中レオナルドに鉢合わせた。

「やあ、アリサ。」
「…!」

 思わず背筋が凍ったけれど、努めてなんでもない風を装って話を聞く。

「ごきげんよう、ブライデン公爵令息。どうかなさいまして?」
「どうかなさいまして?じゃないよ!まったく君ときたら、皇族の前であんなはしたない振る舞いをして!天皇陛下までカンカンに怒って、タイシの婚約が破棄されたんだぞ!僕のフォローがなければ、いったいどんな罰を受けることになったやら…」
「……………」

 アリサはニッコリと微笑んで、深々と頭を下げた。

「ご配慮、感謝いたします。先程わたくしも皇女殿下にお呼び出しされ、事情聴取を受けておりました。その結果パーティーでしたはしたない振る舞いについては、お許しいただけるとご報告をいただきました。」
「そ…そうか!それは良かった!」

 レオナルドは安心したように微笑むと、アリサの隣に並ぶ。

「家まで送ろう。女性のひとり歩きは危ない。」
「いえ、結構です。」
「殿方のお誘いは素直に受けておくものだよ。」
「はあ…そこまで仰るのでしたら、ご自由に。」
「ふふふ、素直じゃないんだから。」

 浮かれきったレオナルドは饒舌に話しかける。
 しかしアリサはそれらすべてを、脳に一欠片も残さず聞き流していた。
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