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26.サイモンの誕生日はホテルで
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サイモンと過ごした二回目のヒートで妊娠しなかったことにティエリーは気落ちしたが、サイモンはティエリーを慰めてくれた。
サイモンに自分とサイモンの誕生日を教えてもらって、ティエリーはサイモンの誕生日になにか贈りたいと考えたが、資格がなく働くパン屋の給料は多くはない上に、ヒートで休んでしまったのでその分も引かれている。
残り二か月の給料を考えても、サイモンにまともなものは買えない気がしていた。
サイモンにプレゼントが買えないと落ち込むティエリーにサイモンは提案してくれる。
「結婚式の衣装を作りに行こう。おれもティエリーも規格外に大きいから、特注品の方がしっくりくるだろう。既製品だと選択肢がないかもしれない」
「結婚式を挙げるんですか? もう婚姻届けは出していますよ?」
「ティエリーが落ち着いたら結婚式は挙げたいと思っていた。おれの両親と、レイモンと、レミとイポリートとジルベルトに参加してもらって」
結婚式というものは経験したことがないが、本棚に並んでいた恋愛小説では必ずと言っていいくらい出て来る題材だった。きれいに着飾った二人が教会で愛を誓う。
ティエリーとサイモンはもう婚姻届けも出しているし、番なので結婚式をしなくてもいいのではないかと問えば、サイモンはしたいようだ。
それならばティエリーもサイモンにお願いしたいことがあった。
「あの国境の町のパン屋のお二人を結婚式に招待したいんです」
「それはいいね。ティエリーを大事にしてくれていたみたいだし、ぜひ招待しよう」
それに今働いているパン屋の店主と厨房で仲良くなった三人の従業員も呼びたいとお願いすれば、サイモンは快く了承してくれた。
それだけでなく、結婚指輪も買ってくれるという。
ティエリーばかり嬉しいことがたくさんで、サイモンのお誕生日お祝いになっていないのではないかと心配になると、衣装を作って指輪を買うのをサイモンの誕生日にして、結婚式をティエリーの誕生日にすればいいのだとサイモンは提案してくれる。
自分の誕生日を知らなかったが、誕生日が結婚記念日になるということは、ティエリーにとってとても嬉しいことだった。
その後で、サイモンは自分の両親についても教えてくれた。
ティエリーがサイモンの母だと思っていた相手は、アルファの女性で父にあたり、ティエリーがサイモンの父だと思っていた相手はオメガの男性で母にあたるのだと聞いたときには驚いた。
「サイモンも男性のオメガから生まれていたんですね」
「だから、おれがティエリーを連れて実家に帰ったときも、両親も弟も何も言わなかっただろう」
「そういえばそうでした」
男性のオメガを普通に受け入れる家庭だったからこそ、サイモンもティエリーと番になっても抵抗がなかったのかもしれない。
「レイモンは何歳ですか?」
「おれの五つ下だから、二十三歳だよ」
「レイモンもアルファですか?」
「そうだよ」
レイモンがアルファかもしれないというのは薄々勘付いていたが、確信ではなかった。ティエリーは第二性に関する感度が鈍いようだ。それはサイモンと番になってアルファのフェロモンが全く分からなくなってしまったからかもしれない。
「他に聞きたいことは? なんでも聞いて」
「サイモンは、この国では珍しい名前ですよね? この国では綴りがSimonなら、シモンと読みませんか?」
「それ、気になる?」
「ちょっとだけ」
聞いてみると、サイモンはペンと紙を持ってきた。
そこに東洋の文字で「西門」と書く。
「これで、サイモンって読むらしいんだ。父方の祖母が日本人で、付けてくれた。レイモンも漢字がある」
続いてサイモンは「零門」と紙に書いた。
「サイモンの名前は、日本語だったんですね。この文字、エキゾチックで素敵です」
「おれも気に入ってる」
「わたしの結婚指輪の内側に、この文字を刻んでくれませんか?」
多分、この国のほとんどの人間には分からないサイモンのもう一つの名前。それをティエリーが常に身に着けておけるならばこんな幸せはない。
「じゃあ、おれも指輪の内側にティエリーの名前を刻んでいい?」
「わたしの名前は、サイモンみたいにエキゾチックでも格好よくもないですよ」
「おれの生涯の伴侶の名前だから、刻んでおきたい」
真剣に告げるサイモンに、ティエリーは胸をときめかせながら頷いた。
次のヒートになる前に、サイモンとティエリーは結婚衣装の採寸に行って注文して、注文していた指輪を受け取った。
内側に小さく「西門」と刻まれた指輪を左手の薬指に付けてもらって、ティエリーは何度もその指輪を撫でていた。
もうすぐヒートが来るので、番休暇中はずっとその指輪を付けておくつもりだった。
ティエリーのヒートは二か月ごとに来るようだった。周期が一定になったので、サイモンもティエリーも予定が立てやすくなった。
今回のヒートはサイモンの誕生日近くだったので、サイモンがホテルを予約してくれていた。
「ヒート専用のプランがあったんだ。ルームサービスは呼ぶまで来ないし、冷蔵庫と簡易キッチンがあって自分たちで料理もできるし、清掃を頼めば、シャワーを浴びている間にベッドメイキングをしてくれる」
「至れり尽くせりじゃないですか。高かったのでは?」
「おれの誕生日なんだから、一緒に過ごしてよ、ティエリー」
甘えるように言われてティエリーは悪い気がせずにサイモンの言う通りにした。
ヒート前の微熱が出始めたころにホテルにチェックインして、広いスイートルームに入る。ベッドは大きなものが二つ用意されていた。
「どうして、ベッドが二つ?」
「一つを汚しても、もう一つで行為に及べるだろ」
どう見てもダブルのベッドが二つ入っている寝室に驚きつつも、ボストンバッグに入れてきた荷物をクローゼットに仕舞うと、サイモンがティエリーの体を後ろから抱き締める。
身長差があるので包まれるような感覚はないが、サイモンがティエリーの首のチョーカーに手を回して外してしまうと、うなじに顔を埋めて深く息を吸い込んでいる。
「ティエリー、すごいフェロモンだ。いい香り」
「サイモンのフェロモンもすごく香っています。心地いいです」
後ろから抱き締めるサイモンからもアルファのフェロモンが漂って来て、ティエリーを包み込んでいる。番のフェロモンは浴びているだけで心が落ち着くし、オメガは安定するものだ。
それだけでなくヒートに入りかかっているので、サイモンのフェロモンを浴びるとどうしても後ろが濡れてしまう。
「シャワーを浴びてきていいですか?」
「おれは食事の準備をしておくよ。本格的なヒートに入る前に何か食べておこう」
「はい。あの、サイモン、嫌じゃないですか?」
「なにが?」
「このホテルの、シャンプーやボディソープの香り」
アルファは香りに拘りのあるものが多いという。オメガのフェロモンに対しても相性があって香りを心地よく感じないと反応しないようだが、それ以外でもサイモンは香りに拘りがあるので、部屋のボディソープもシャンプーもコンディショナーも無香料だったし、ローションも匂いのないものを使っている。
「そうだった。言ってくれてありがとう。小分けにして持ってきたんだった」
やっぱり拘りはあったようで、小分けのボトルに詰められたボディソープとシャンプーとコンディショナーを渡されて、ティエリーはほっと胸を撫で下ろした。抱かれる段階でサイモンの嫌いな匂いを纏っておきたくはなかった。
「ローションは? 使う?」
「それは、サイモンに任せてもいいですか? 多分、使わなくてもいいくらい濡れて柔らかくなってると思いますが」
ヒートのときにはオメガの体は、凶悪なまでに大きいアルファのものを抵抗なく受け入れられるようになる。アルファに抱かれた経験はほとんどなかったが、サイモンのものが大きいということだけはティエリーにも分かっていた。
シャワーで洗浄して、体も髪も洗ってバスルームから出て来ると、ソファのある方の部屋からいい匂いがしてきた。ヒート前なのでお腹はそれほど空いていないが、匂いにつられてソファに座ると、食べやすいように優しい味付けのチーズリゾットがティエリーとサイモンの分準備されていた。
「ごめん、先に食べてた」
「気にしなくていいですよ」
「食べ終わったらシャワーを浴びようと思って。ティエリー、髪乾かすんだよ」
「あ、はい」
短いので乾かす必要もないかと放っておいている髪も、サイモンは気にしてくれる。サイモンに言われたら乾かそうと思えるのだからティエリーは現金だ。
チーズリゾットを食べて髪を乾かして歯を磨いている間に、サイモンはシャワーを浴びてバスルームから出て来て歯を磨いて、髪を乾かしていた。
少し長めの黒髪が濡れて黒曜石のように光っているのが美しい。下半身にバスタオルを巻きつけただけの格好だが、上半身は鍛え上げられていて、腹筋も割れて中世の彫刻のように美しい。
しみじみと美しい男性だと思って見ていると、サイモンがティエリーに口付けた。
「フェロモン、濃くなってる。おれを誘ってるの?」
「サイモンのことはいつも誘ってます。もう一回したいのに、仕事だから断られることが多いんですけど」
「それは、許してほしい。おれだって我慢してるんだ」
「我慢しなくていいじゃないですか。寝るのが少し遅くなっても、わたしは仕事が終わるのが早いから帰って眠れます」
「ヒートのときは体力の限り満たしてあげるから、普段はそんなに誘惑しないで。おれだってティエリーをもっと抱きたいと思ってる。でも、仕事に差しさわりがあったら困るだろう?」
サイモンを困らせるつもりはなかったが、拗ねていることは伝えておこうと思ってティエリーは普段思っていることを口にした。サイモンは許してほしいと言って、ティエリーが淫乱だとか浅ましいとか言ってこない。
サイモンにならば何を口にしてもいい。
どれだけ欲しいとねだってもいい。
安心感の中、ティエリーは強いフェロモンを発してヒートに入って行った。
ヒート期間中、サイモンはティエリーを満たしてくれた。
最初の激しいヒートの間は繋がっていない時間がないくらいずっと抱いてくれたし、激しいヒートが治まってからの四日間も、ティエリーに水分と食事を摂らせつつ、無理のない程度に抱いてくれた。
今回のヒートで、ティエリーは妊娠することができた。
サイモンに自分とサイモンの誕生日を教えてもらって、ティエリーはサイモンの誕生日になにか贈りたいと考えたが、資格がなく働くパン屋の給料は多くはない上に、ヒートで休んでしまったのでその分も引かれている。
残り二か月の給料を考えても、サイモンにまともなものは買えない気がしていた。
サイモンにプレゼントが買えないと落ち込むティエリーにサイモンは提案してくれる。
「結婚式の衣装を作りに行こう。おれもティエリーも規格外に大きいから、特注品の方がしっくりくるだろう。既製品だと選択肢がないかもしれない」
「結婚式を挙げるんですか? もう婚姻届けは出していますよ?」
「ティエリーが落ち着いたら結婚式は挙げたいと思っていた。おれの両親と、レイモンと、レミとイポリートとジルベルトに参加してもらって」
結婚式というものは経験したことがないが、本棚に並んでいた恋愛小説では必ずと言っていいくらい出て来る題材だった。きれいに着飾った二人が教会で愛を誓う。
ティエリーとサイモンはもう婚姻届けも出しているし、番なので結婚式をしなくてもいいのではないかと問えば、サイモンはしたいようだ。
それならばティエリーもサイモンにお願いしたいことがあった。
「あの国境の町のパン屋のお二人を結婚式に招待したいんです」
「それはいいね。ティエリーを大事にしてくれていたみたいだし、ぜひ招待しよう」
それに今働いているパン屋の店主と厨房で仲良くなった三人の従業員も呼びたいとお願いすれば、サイモンは快く了承してくれた。
それだけでなく、結婚指輪も買ってくれるという。
ティエリーばかり嬉しいことがたくさんで、サイモンのお誕生日お祝いになっていないのではないかと心配になると、衣装を作って指輪を買うのをサイモンの誕生日にして、結婚式をティエリーの誕生日にすればいいのだとサイモンは提案してくれる。
自分の誕生日を知らなかったが、誕生日が結婚記念日になるということは、ティエリーにとってとても嬉しいことだった。
その後で、サイモンは自分の両親についても教えてくれた。
ティエリーがサイモンの母だと思っていた相手は、アルファの女性で父にあたり、ティエリーがサイモンの父だと思っていた相手はオメガの男性で母にあたるのだと聞いたときには驚いた。
「サイモンも男性のオメガから生まれていたんですね」
「だから、おれがティエリーを連れて実家に帰ったときも、両親も弟も何も言わなかっただろう」
「そういえばそうでした」
男性のオメガを普通に受け入れる家庭だったからこそ、サイモンもティエリーと番になっても抵抗がなかったのかもしれない。
「レイモンは何歳ですか?」
「おれの五つ下だから、二十三歳だよ」
「レイモンもアルファですか?」
「そうだよ」
レイモンがアルファかもしれないというのは薄々勘付いていたが、確信ではなかった。ティエリーは第二性に関する感度が鈍いようだ。それはサイモンと番になってアルファのフェロモンが全く分からなくなってしまったからかもしれない。
「他に聞きたいことは? なんでも聞いて」
「サイモンは、この国では珍しい名前ですよね? この国では綴りがSimonなら、シモンと読みませんか?」
「それ、気になる?」
「ちょっとだけ」
聞いてみると、サイモンはペンと紙を持ってきた。
そこに東洋の文字で「西門」と書く。
「これで、サイモンって読むらしいんだ。父方の祖母が日本人で、付けてくれた。レイモンも漢字がある」
続いてサイモンは「零門」と紙に書いた。
「サイモンの名前は、日本語だったんですね。この文字、エキゾチックで素敵です」
「おれも気に入ってる」
「わたしの結婚指輪の内側に、この文字を刻んでくれませんか?」
多分、この国のほとんどの人間には分からないサイモンのもう一つの名前。それをティエリーが常に身に着けておけるならばこんな幸せはない。
「じゃあ、おれも指輪の内側にティエリーの名前を刻んでいい?」
「わたしの名前は、サイモンみたいにエキゾチックでも格好よくもないですよ」
「おれの生涯の伴侶の名前だから、刻んでおきたい」
真剣に告げるサイモンに、ティエリーは胸をときめかせながら頷いた。
次のヒートになる前に、サイモンとティエリーは結婚衣装の採寸に行って注文して、注文していた指輪を受け取った。
内側に小さく「西門」と刻まれた指輪を左手の薬指に付けてもらって、ティエリーは何度もその指輪を撫でていた。
もうすぐヒートが来るので、番休暇中はずっとその指輪を付けておくつもりだった。
ティエリーのヒートは二か月ごとに来るようだった。周期が一定になったので、サイモンもティエリーも予定が立てやすくなった。
今回のヒートはサイモンの誕生日近くだったので、サイモンがホテルを予約してくれていた。
「ヒート専用のプランがあったんだ。ルームサービスは呼ぶまで来ないし、冷蔵庫と簡易キッチンがあって自分たちで料理もできるし、清掃を頼めば、シャワーを浴びている間にベッドメイキングをしてくれる」
「至れり尽くせりじゃないですか。高かったのでは?」
「おれの誕生日なんだから、一緒に過ごしてよ、ティエリー」
甘えるように言われてティエリーは悪い気がせずにサイモンの言う通りにした。
ヒート前の微熱が出始めたころにホテルにチェックインして、広いスイートルームに入る。ベッドは大きなものが二つ用意されていた。
「どうして、ベッドが二つ?」
「一つを汚しても、もう一つで行為に及べるだろ」
どう見てもダブルのベッドが二つ入っている寝室に驚きつつも、ボストンバッグに入れてきた荷物をクローゼットに仕舞うと、サイモンがティエリーの体を後ろから抱き締める。
身長差があるので包まれるような感覚はないが、サイモンがティエリーの首のチョーカーに手を回して外してしまうと、うなじに顔を埋めて深く息を吸い込んでいる。
「ティエリー、すごいフェロモンだ。いい香り」
「サイモンのフェロモンもすごく香っています。心地いいです」
後ろから抱き締めるサイモンからもアルファのフェロモンが漂って来て、ティエリーを包み込んでいる。番のフェロモンは浴びているだけで心が落ち着くし、オメガは安定するものだ。
それだけでなくヒートに入りかかっているので、サイモンのフェロモンを浴びるとどうしても後ろが濡れてしまう。
「シャワーを浴びてきていいですか?」
「おれは食事の準備をしておくよ。本格的なヒートに入る前に何か食べておこう」
「はい。あの、サイモン、嫌じゃないですか?」
「なにが?」
「このホテルの、シャンプーやボディソープの香り」
アルファは香りに拘りのあるものが多いという。オメガのフェロモンに対しても相性があって香りを心地よく感じないと反応しないようだが、それ以外でもサイモンは香りに拘りがあるので、部屋のボディソープもシャンプーもコンディショナーも無香料だったし、ローションも匂いのないものを使っている。
「そうだった。言ってくれてありがとう。小分けにして持ってきたんだった」
やっぱり拘りはあったようで、小分けのボトルに詰められたボディソープとシャンプーとコンディショナーを渡されて、ティエリーはほっと胸を撫で下ろした。抱かれる段階でサイモンの嫌いな匂いを纏っておきたくはなかった。
「ローションは? 使う?」
「それは、サイモンに任せてもいいですか? 多分、使わなくてもいいくらい濡れて柔らかくなってると思いますが」
ヒートのときにはオメガの体は、凶悪なまでに大きいアルファのものを抵抗なく受け入れられるようになる。アルファに抱かれた経験はほとんどなかったが、サイモンのものが大きいということだけはティエリーにも分かっていた。
シャワーで洗浄して、体も髪も洗ってバスルームから出て来ると、ソファのある方の部屋からいい匂いがしてきた。ヒート前なのでお腹はそれほど空いていないが、匂いにつられてソファに座ると、食べやすいように優しい味付けのチーズリゾットがティエリーとサイモンの分準備されていた。
「ごめん、先に食べてた」
「気にしなくていいですよ」
「食べ終わったらシャワーを浴びようと思って。ティエリー、髪乾かすんだよ」
「あ、はい」
短いので乾かす必要もないかと放っておいている髪も、サイモンは気にしてくれる。サイモンに言われたら乾かそうと思えるのだからティエリーは現金だ。
チーズリゾットを食べて髪を乾かして歯を磨いている間に、サイモンはシャワーを浴びてバスルームから出て来て歯を磨いて、髪を乾かしていた。
少し長めの黒髪が濡れて黒曜石のように光っているのが美しい。下半身にバスタオルを巻きつけただけの格好だが、上半身は鍛え上げられていて、腹筋も割れて中世の彫刻のように美しい。
しみじみと美しい男性だと思って見ていると、サイモンがティエリーに口付けた。
「フェロモン、濃くなってる。おれを誘ってるの?」
「サイモンのことはいつも誘ってます。もう一回したいのに、仕事だから断られることが多いんですけど」
「それは、許してほしい。おれだって我慢してるんだ」
「我慢しなくていいじゃないですか。寝るのが少し遅くなっても、わたしは仕事が終わるのが早いから帰って眠れます」
「ヒートのときは体力の限り満たしてあげるから、普段はそんなに誘惑しないで。おれだってティエリーをもっと抱きたいと思ってる。でも、仕事に差しさわりがあったら困るだろう?」
サイモンを困らせるつもりはなかったが、拗ねていることは伝えておこうと思ってティエリーは普段思っていることを口にした。サイモンは許してほしいと言って、ティエリーが淫乱だとか浅ましいとか言ってこない。
サイモンにならば何を口にしてもいい。
どれだけ欲しいとねだってもいい。
安心感の中、ティエリーは強いフェロモンを発してヒートに入って行った。
ヒート期間中、サイモンはティエリーを満たしてくれた。
最初の激しいヒートの間は繋がっていない時間がないくらいずっと抱いてくれたし、激しいヒートが治まってからの四日間も、ティエリーに水分と食事を摂らせつつ、無理のない程度に抱いてくれた。
今回のヒートで、ティエリーは妊娠することができた。
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